おめぇ握り寿司が食いてえ

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「血の家」 五十二雫

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「せ、征四郎-----?」

 

「つ、次の御代が-----?」

 

「そうで御座います------」

 

征次は、窓の外から、二人に振り返る

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ...」

 

「何でございましょう-----」

 

「い、今の話、色々

 

  おかしいんじゃないかっ!?」

 

「・・・・」

 

黙って征次の話を聞いていた

 

善波が、征次に向かってまくし立てる

 

「俺の息子------?

 

  "鴇与"家-------?」

 

「・・・・」

 

「そもそも、尚佐、ウチの親父は、

 

  昔から叶生野姓で

 

  鴇与なんて名乗った事は一度も無いぞ!?」

 

「・・・・」

 

「それに、息子が"征四郎"っ!?」

 

善波が征四郎を見る

 

「それは、ここにいる征四郎君の事を

 

 言ってるんだろうが...」

 

「・・・・」

 

征四郎も、話が呑み込めていないのか、

 

ただ、呆然と声を荒げている善波を見ている

 

「そもそも、征四郎くんは、

 

  親父とは何の関りもないだろうがっ

 

  ・・・

 

  いや、関りが無いと言ったら少しおかしいが、

 

  征四郎くんにはちゃんと自分の親父もいるっ

 

  そうだろうっ!?」

 

「あ、ああ...」

 

善波の勢いに、征四郎は思わず生返事をする

 

「それで、何で征四郎くんが

 

  ウチの親父の息子になるんだっ!?

 

 話が合わんだろうがっ!?」

 

「い、いえ、それは------」

 

「おいっ」

 

"ガタッ"

 

「ぜ、善波さん-----?」

 

「お、お離しを------」

 

善波が、座布団から立ち上がり、

 

征次の肩を掴む

 

「・・・・」

 

そして、そのまま、真っすぐ

 

征次を睨みつける

 

「-----今の話、本当なのか-----」

 

「え、ええ....」

 

"ガタッ"

 

「・・・・!」

 

征次の肩を掴んでいた善波が、

 

物音に、部屋の入口の方に振り返る

 

「やっぱり、そう言う事なのか...」

 

「------明人!」

 

「雅が言っていた事が、

 

  作り話だとは思ったが....」

 

明人は、部屋の中にいる征次に目を向ける

 

「どうやら、そのジジイが言ってる通り、

 

  "征佐"は-------!」

 

「あ、おい!」

 

明人は、何かを呟くと、

 

そのまま鷺代の家から外へと出て行く

 

「・・・オイ!」

 

善波、そして、征四郎が

 

慌てて外に出て行く明人を追いかけて行く

「血の家」 五十一雫

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「まず、何から話せば良いでしょうか-----」

 

征次は、ぼんやりと庭の景色に目を向ける

 

「まず、あの村------...」

 

征次の話の途中で善波が口を開く

 

「...あの村は、一体何なんだ?

 

  あの村の中には、明らかに

 

  最近まで人が住んでいた様な

 

 形跡があったぞ?」

 

「・・・・」

 

「征次さん、アンタの話だと

 

  あの村はもうとっくに何十年も前に

 

  捨てられた、人のいない場所だと

 

  言ってたよな------?」

 

「そうです------」

 

「だったら、あの場所に人が住んでる

 

 痕跡があるのは何故だ?

 

  それに、親父の写真があそこにあるのも

 

 おかしいじゃないか?」

 

「・・・・」

 

善波の言葉に、征次はぼんやりと

 

庭に向けていた視線を、二人の方に戻す

 

「------あれは、尚佐さまが

 

  ある程度年を召されて

 

  叶生野の仕事から遠ざかる様になった

 

  五年程前の事でした....」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「征次------、」

 

「------はい」

 

"パチ パチ パチ....

 

尚佐が土窯(つちがま)の中に炭を入れると、

 

陶器が入った窯の火が、激しく燃え上がる

 

「俺も、すでに、叶生野の御代になってから

 

  かなりの月日が経った...」」

 

「・・・・」

 

"パチ パチ パチ....

 

「俺の代で、叶生野の一族は

 

  日本を離れ、アジア、ヨーロッパはおろか

 

  世界のあらゆる場所に広がり、

 

 叶生野の名は今や、どこの国でも

 

 知らない者はいない」

 

「・・・・」

 

"ジュッ"

 

強すぎる火を抑えようと思ったのか、

 

征次が窯の中に水を差す

 

「だが、叶生野の一族は、

 

  あまりに、その数が増えすぎた...」

 

「・・・・」

 

「今では、日本だけでなく、

 

  世界のあらゆる場所に

 

  叶生野の関連企業が存在する」

 

「その通りです」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

"パチ パチ パチ..."

 

「なあ、政次....」

 

「-----はい」

 

「お前は、俺と同じ、

 

  "鴇与"の集落の出身だ...」

 

「------はい。」

 

"スッ"

 

尚佐は、土窯から視線を外し

 

遠くの方に見える、ダムに沈む筈だった村、

 

"鴇与"の集落の方を見渡す

 

「俺も、鴇与を何とか、

 

  叶生野の中で、

 

  日の目を見せようと

 

  長い事、色々やって来た訳だが...」

 

「-----それで、今では

 

  御代になられたのでしょう」

 

「・・・・」

 

"パチ パチ パチ....

 

「・・・俺も、もうすぐ直(じき)、

 

  御代の座から

 

  身を引くことになるだろう-----」

 

「・・・・」

 

「そして、その時には、

 

  俺の一族、そして

 

  鴇与家である、"征"の字を付けた

 

  俺の息子が、御代を継ぐことに

 

 しようと思っている----」

 

「"征"の字------?

 

  ・・・と言うと、次の御代は-----」

 

「ああ、次の御代は、

 

  "征四郎"

 

  だ。」

 

「征四郎------。」

「血の家」 五十雫

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「そうですか-------」

 

「ああ、そうだ」

 

"コポコポコポ...."

 

征次は、目の前の

 

囲炉裏(いろり)を囲んで座っている

 

善波、そして征四郎に、おそらく

 

この焼き場で作ったと思われる湯のみに

 

茶を入れ、二人の前に差し出す

 

「お二人とも、あの、"村"へ

 

  お入りになられましたか------」

 

「スッ」

 

征次は、囲炉裏を挟んで

 

征四郎、善波に向かい合う様に

 

座布団の上に腰を下ろす

 

「あの、村の中の民家....」

 

「・・・・」

 

「あの村の民家の中には、

 

  俺の親父、"尚佐"の

 

  写真があった-------」

 

「・・・・・」

 

"ズズズ..."

 

「・・・・」

 

善波に視線を向けず、征次は

 

ただ、下を向きながら湯飲みの中の

 

茶を啜(すす)っている

 

「あんな山奥の打ち捨てられた村の中に

 

  親父の写真があるのには

 

  何か、理由があるんだろう...」

 

「-----それを、何故

 

 私にお聞きになるのですか」

 

征次が、湯飲みから口を外し

 

善波と征四郎を見る

 

「------征次さん」

 

「-----はい」

 

征次が征四郎の方に向き直る

 

「あなたは、俺たちが

 

  あの集落周辺の場所にいた時、

 

  後から、遅れて

 

  あの場所に駆けつけて来た...」

 

「------だから何でしょう」

 

「・・・あなたは、あの時、

 

 まるで、あの、ダムの村を隠すように

 

  俺たちをあの場所から

 

 遠ざけようとしていた...」

 

「・・・・」

 

「と言う事は、アナタは、

 

  あの村の事を知っていた-------

 

  そうでしょう?」

 

「・・・・」

 

"スッ"

 

隠すつもりも無いのか征次は、

 

すぐに言葉を返す

 

「そうです------」

 

二人から背を向け、征次は、

 

部屋の飾窓から見える庭に視線を向ける

「血の家」 四十九雫

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「まさか------っ!

 

  そんな事が-------っ!?」

 

「あら、尤光姉さんだったら

 

  とっくにご存じだと思ったけど-----?」

 

"ガチャンッ!"

 

「ガチャ」

 

「そんな事っ!

 

  ----有り得る筈は無いでしょっ!?」

 

「そうだっ!?」

 

"ドンッ!"

 

「(・・・・?)」

 

「オイオイ、何か揉めてるみたいだな」

 

「何か、証拠でもあるのっ!?」

 

「証拠なら、ほら、"ここ"に-----?」

 

「・・・・!」

 

「何なんだ? アイツらは?」

 

征四郎、善波が朝食を取ろうと

 

応接室の扉を開けるとそこには

 

雅、そして尤光、正之、

 

明人の姿が見える-----

 

「そんな事があるかっ!?」

 

"バンッ!"

 

「何だ・・・?」

 

「そんなのは、お前が勝手に作り出した

 

  嘘に決まってるっ!」

 

「(-------~~~...)」

 

遠目から、征四郎が扉から離れた窓際の

 

テーブルに座っている四人を見ると

 

四人は、何か言い争いをしている様だ

 

「とにかく、そう言う事だから

 

  姉さんたちには

 

 "御代"の後を継ぐのは

 

  諦めてもらわないと-------?」

 

「--------っ!」

 

"ガタッ"

 

「・・・・!」

 

"ドンッ!"

 

「-------退きなさいっ!」

 

尤光は、テーブルから勢いよく立ち上がると

 

ドアの前にいた征四郎にぶつかり

 

罵声を浴びせながら部屋の外へ出て行く

 

「ね、姉さん!」

 

「ガタッ」

 

正之が慌てて尤光の後を追って

 

征四郎の横を通り抜けていく

 

「・・・認めん。 

 

  俺は、絶対にこんな事は認めんぞ...」

 

「あら、じゃあ、明人兄さんは

 

  この、"系図"が嘘だって言うの?」

 

「-------!」

 

「ガタッ」

 

「-----退けッ」

 

「・・・・・」

 

雅が、何か一言告げると

 

席に残っていた明人は、

 

怒りをこらえた表情で部屋から外へ出て行く

 

「-----まったく、

 

  図々しいったらありゃしない」

 

「-----何かあったのか?」

 

善波が、雅の元へ向かい

 

何か古い、紙のような物を

 

手にしている雅を覗き見る

 

「------あら、これはお二人とも。

 

  ずい分遅い朝だこと-----?」

 

「あいつら、かなり怒ってたみたいだが....」

 

「--------、」

 

雅は、応接室の床に目を向ける

 

「これは、善波兄さんには

 

  関りが無い事------、」

 

"スッ"

 

「あ、おい!」

 

「------ああ」

 

征四郎と善波の間を通り過ぎて行った

 

雅が足を止め、二人の方に振り返る

 

「そう言えば------...」

 

「・・・何だ?」

 

「葬儀の日取りを決めるのは

 

  善波兄さんだと

 

 近藤から聞いたけど------」

 

「----それが何かあるのか?」

 

「・・・・」

 

雅は、薄っすらと笑みを浮かべる

 

「いえ、私たち羽賀野の人間も、

 

  それ以外の方たちも、

 

  葬儀の日取りが定まってないと

 

  この叶生野荘から

 

 動くに動けませんから------」

 

「・・・ああ、多分、明後日とか

 

 その辺りになると思う」

 

「------明後日....」

 

"スッ"

 

「-----ご機嫌よう」

 

雅は、そのまま、善波に背を向け、

 

部屋の外へと出て行く...

 

「何なんだ? アイツは------?」

 

「・・・・」

「血の家」 四十八雫

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「じゃあ、今、君の家に頼んで

 

  写真を取り寄せてる所なのか?」

 

「------ええ。」

 

善波の部屋で、征四郎は

 

テーブルの椅子に座りながら

 

窓の側に立っている善波を見る

 

"チチチチチチチ..."

 

窓の外に目を向けると、朝の光が差す中

 

何の鳥かは分からないが

 

一羽の鳥が鳴いているのが見える

 

「(あの写真-------、)」

 

昨日山奥の集落で見た尚佐が写っていた写真。

 

「(右側に写っていたのは

 

   確かに尚佐だった...

 

   だが、その隣に写っていたのは....)」

 

征四郎の頭に、尚佐の左側に写っていた

 

男の顔が浮かんでくる

 

「(あの、左側に写っていた男、

 

   どこかで見た様な気が....)」

 

曖昧な記憶を頼りにすれば見た事がある様な

 

写真の左側に写った人物に何かを思ったのか、

 

実家の兄征由に頼んで、

 

征四郎は鴇与家の親族関係の写真を

 

全て送ってもらう様に手配していた------、

 

「しかし------、」

 

窓から善波が向き直る

 

「昨日見た写真が、尚佐-----、

 

 ウチの親父だったとしたら・・・

 

  何だって親父の写真が

 

 あんな場所にあるんだ?」

 

「・・・・」

 

昨晩、善波と遅くまで

 

話していた時に二人が出した答えは

 

"あの家に尚佐が住んでいた"

 

"あの家に尚佐に関係のある人物が住んでいた"

 

二人はそう考えたが...

 

「・・・それに、雅----、

 

  あれから、この叶生野の屋敷に

 

 姿を見せていない様だが...」

 

「・・・・」

 

「(あいつら、俺たちがあの写真を

 

  見つけるより先に、

 

   あの集落から早々と

 

  立ち去って行ったな...)」

 

征四郎の頭では、尚佐が

 

あの集落にいたと言う事実は

 

かなり重要な事実で、あの集落で

 

それ以上に何か他の重要な事があるとは思えない

 

「(そう考えれば-----...)」

 

一抹(いちまつ)の不安が

 

征四郎の頭に過る

 

「(俺達が、見つけた"事実"より、

 

   あいつら、雅たちが見つけた

 

   "事実"の方が更に重要な

 

   "事実"なんじゃないか....)」

 

「・・・・」

 

そうだとすれば雅たちが

 

すぐに集落から引き返したのも頷ける

 

「どうする? 今日も、あの集落に行くのか?」

 

「------いや、」

 

「...何でだ? あの集落には

 

  まだ何かありそうな気がするが...」

 

「確かに、それもそうだが...」

 

「だったら何だ?」

 

「それより、昨日の、征次------、」

 

「ああ、そう言えば、一昨日、

 

  あの集落に入る前に、俺たちの所に

 

  来てたな」

 

「あの、征次は、俺たちに、

 

  あの集落の存在を隠していた------」

 

「------奴は、

 

  "何か"知ってるって事か?」

 

「------ええ。」

 

"コン コン"

 

「・・・・?」

 

二人が話をしていると、部屋のドアを

 

ノックする音が聞こえてくる

 

「-----何だっ!」

 

「近藤で御座います------」

 

「入れ」

 

「ガチャ」

 

"カッ カッ カッ カッ...."

 

「何だ? 何か用か?」

 

ドアの外から、近藤が部屋の中にいる

 

善波、征四郎の傍まで歩いてくる

 

「いえ-----、

 

  すでに、尚佐御大が亡くなられてから、

 

 数日がお経ちになりました...」

 

「そうだな」

 

「今、この叶生野の村の中には、

 

 その訃報(ふほう)を聞きつけて、数多くの

 

  我が叶生野の傘下、そして

 

  関連した企業の方たちが

 

  集まってきております-----」

 

「・・・ああ 藤道のトコにも集まってたな」

 

「------左様で御座います...」

 

「それが何なんだ?」

 

目を伏せている近藤が面倒だと思ったのか、

 

善波が早口でまくし立てる

 

「あまり、皆様方に日を取らせては

 

  色々差支(さしつか)えが

 

  御座いましょう...」

 

「-----それもそうだな」

 

「従って、そろそろ、葬儀の日取りを

 

  お決めになられた方が

 

 宜しいのではないかと...」

 

「・・・確かにそうだな。

 

  だが、普通ならば、こういう事は

 

  次の御代が決めるモンなんだが...」

 

「その通りで御座います------、」

 

前代が亡くなり、次の御代が誰か

 

定まっていない以上、

 

葬儀の日取りを決める様な

 

決定を下せる人間が今、

 

この叶生野荘には存在していない

 

「とりあえず、今回は

 

  尚佐さまの長子である善波さまが

 

 葬儀の日取りをお決めに

 

 なられるのが宜しいかと...」

 

「お、俺がか?」

 

「-----そうで御座います」

 

「・・・日取りと急に言われてもな」

 

「・・・・」

 

善波が困った様な表情を見せると

 

近藤は、すぐに言葉を返す

 

「すでに、こちらで日取りの方は

 

 ある程度決めております------」

 

「-----そうか」

 

「従って、善波さまには当日の段取りや

 

  その他の必要な事について、

 

  決済して頂ければと...」

 

「-----分かった。」

「血の家」 四十七雫

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「・・・いないか...」

 

「カチャ」

 

「カチャ」

 

征四郎たちが、山奥の集落から

 

叶生野の屋敷へと戻り応接室へ入ると、

 

そこには尤光兄妹の姿しか見えない

 

「(さっきの集落からはすでに雅の姿は

 

  無くなってた筈だが....)」

 

先程、自分達と一緒に集落を訪れていた

 

雅たちの車は、征四郎たちが

 

集落から出る時には、すでに集落の中から

 

姿を消していた

 

「(・・・・・)」

 

「ガタ」

 

この場に雅がいない事に

 

何か焦りの様な物を感じながら、

 

善波と共に、征四郎はいつも座っている

 

テーブル席に腰を落ち着ける

 

「・・・今日は

 

 神代の集落に行ってたみたいだな?」

 

「-----明人...」

 

「おいおい、昨日も、何か不審な

 

  事故が起きたばかりなのに

 

  今日も外に出たりしたら、

 

  危ないんじゃないか?」

 

「(この野郎・・・・)」

 

「-----もしかしたら、

 

 お前が乗ってるバイクが

 

  「ドカン!」なんて事も

 

   あるかもな・・?」

 

「・・・・」

 

「どうした? 浮かない顔して?」

 

「-----いえ、」

 

すでに、征四郎は、ここの所

 

自分達の身の回りに起こっている

 

いくつかの事件や事故は

 

叶生野一族の誰かが仕掛けたと思っている

 

「あまり、頑張りすぎるのもいいが

 

  頑張りすぎると------」

 

「どうなるって言うんだ?」

 

「.....ククククク」

 

「-------...」

 

明人は不気味な笑みを浮かべると

 

征四郎たちのテーブルから

 

元のテーブルへと引き返す

 

「なんなんだっ アイツはっ!?」

 

「-------、」

 

「まったく、いつの間にあんな暗い性格に

 

 なっちまったんだろうなっ!?」

 

「・・・・」

 

どうやら、自分の兄弟だからなのか、

 

それとも、人を疑う事を知らないのか

 

善波は明人に対して疑う素振りを見せず、

 

まるで子供を相手に叱りつける様な表情で

 

明人を見ている

 

「------食事で御座います」

 

「・・・ああ」

 

「カチャ」

 

「(-------...)」

 

近藤の言葉を横に聞きながら、征四郎は

 

この場にいない雅の事について考えていた

「血の家」 四十六雫

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「どうしたんだ-----!

 

  征四郎くん-----っ!?」

 

「【ああ、俺だ------、

 

   誰か、ウチの者はいるか-----?】」

 

「・・・・?」

 

突然家の外へと出て行った

 

征四郎の後を追って、善波が門の外へと出る

 

「【・・・兄さんかっ!?】」

 

「・・・・」

 

征四郎を見ると、征四郎は

 

自分のバイクに置いてあった携帯を手に取り、

 

どこかに電話を掛けている様だ

 

「--------、」

 

「ああ、ああ....」

 

「・・・・」

 

「【ああ、とりあえず、系図の方は、

 

   携帯で見れるから、

 

   兄さんはそれとは別に-----】」

 

「・・・・・」

 

善波は、後ろを振り返り

 

今、先程までいた民家の方を振り返る

 

「【------じゃあ、頼んだ】」

 

「ガチャ」

 

「------どうしたんだ? 

 

  征四郎くん?」

 

「・・・・善波さん、

 

 とりあえず中に----」

 

「・・・・?」

 

"ザッ"

 

短くそう告げると、征四郎は

 

善波の横を通り抜け、再び

 

家の中へと入って行く

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「見てくれ、この写真------、」

 

畳の上にバラ撒かれた

 

一枚の写真を征四郎が手に取る

 

「さっきの写真だろう...?

 

  そいつが何かあるのか?」

 

「よく見てくれ」

 

「・・・・?」

 

善波が、征四郎の手から写真を手に取り、

 

ジっと見ると、その写真には

 

二人の若い男が写っている

 

「こいつが、どうかしたのか?」

 

「-------フッ」

 

「??」

 

征四郎が思わず笑みをこぼす

 

「その写真に写っている右側の男-----」

 

「こいつが、どうかしたのか?」

 

「・・・~~~っ」

 

ここまで言っても、まるで、写真の人物が

 

誰か分からない様子の善波に、

 

征四郎が焦れた顔を浮かべる

 

「その右側に写ってる男、それ、

 

  "尚佐"御大じゃないか。」

 

「------...」

 

「ほら、かなり今とは

 

  感じが変わってるが....」

 

「・・・・あ!」

 

善波が驚いた声を上げる

 

「お、親父が写ってるってのか!?

 

  この写真にっ!?」

 

「どうやら、そうみたいだ-----」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「だが--------、」

 

少し間を空けた後、善波が口を開く

 

「何だって、親父の若い頃の写真が

 

  こんな山の外れの民家の中に

 

  飾られてるんだ------?」

 

「・・・・」

 

"スウ"

 

征四郎は、息を一つ吸う

 

「それは分からない-----、

 

  だが、この写真がこの家の中にあって

 

  この家には、誰か人が

 

 住んでた形跡がある-----」

 

「そうなると...」

 

「つまり、この家に住んでいた人間は

 

  尚佐御大とかなり

 

 近い関係の人物-----、」

 

「・・・・」

 

「もしくは、尚佐御大、

 

  "本人"

 

  なんじゃないか--------」

 

「・・・・・!」

「血の家」 四十五雫

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血の家

四十五雫

「アハハハハッ!」

「ガタッ!」

「な、ナニ------?」

「み、雅-----?」

「まさか------!」

征四郎たちとは別の民家。

「こんな事って------!」

「ど、どうしたの?」

「こんな-------!」

雅が突然大声を張り上げたの聞いて、

別の部屋にいたジャン、そしてルーシーが

雅の所まで駆け寄ってくる!

「ど、どうしたの? 雅----?」

「何か、あったノ------?」

「・・・・・」

「(・・・・?)」

ジャンとルーシーが、雅を見るが

雅は、一枚の古い紙切れの様な物を

自分の前に広げ、その紙をただ、見ている

「まさか、征佐の"正体"が-----...!」

「な、ナニ?」

「どうしたの?」

「・・・・アハハ」

「?」

"ドンッ"

「Hey!」

「・・・・・」

雅は、自分の後ろにいた二人の事を忘れているのか

突然振り返ると、ジャンに肩をぶつけながら

部屋から外へと出て行く

「(--------?

   "カミ"------?)」

「("征佐"-------!)」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「やはり、この中に

  誰か人が住んでたみたいだな-----」

「・・・・」

「見ろ、征四郎くん」

「・・・・」

征四郎たちが庭先から民家の中へ入ると

そこには、

机、箪笥(たんす)、座布団、皿....

その他の家具や道具------、

「どうも、つい最近まで

  この家に誰か出入りしてたみたいだな」

善波が、ちゃぶ台の上に置かれた

盆の様な物を手に取りながら、征四郎を見る

「(おそらく、人がこの

   "ダムの村"の様な場所に

   住んでいるとは思ったが...)」

集落内の様子からすれば

すでにこの集落の人間は

村を立ち去ってから何十年も経っている筈だ。

「・・・・」

だが、このあまり大きくはない

民家の整然とした様子から

この集落内に人の出入りがある事は

ある程度征四郎には予測が付いていた

「他の民家には人が住んでる様な

 気配は無かったが、

  ここには-----....」

"パッ"

「・・・電気も点(つ)くぞ?」

天井に吊り下げられていた紐(ひも)を

善波が引っ張ると、部屋の中が照明で照らし出される

「("子供の写真"------?)」

「この家に住んでいた人間の写真か?」

征四郎が部屋の隅に置かれた

自分の背丈の半分ほどの

箪笥の上を見ると、その上に

白黒の一枚の写真が

写真立ての中に収められている

「(・・・・?)」

「どうしたんだ、征四郎くん?」

「・・・・!」

写真立てを手に取ったまま、

征四郎はまるで瞬(まばた)きもせず

手に取った一枚の白黒写真を見つめる

「(どこかで-----....)」

「何だ? その写真に何かあるのか?」

「-------ッ!」

"ダッ!"

「あ、おい!?」

「(-----この写真は-----!)」

とっさに、征四郎はバイクに置いていた

携帯を取りに走る!

「ど、どうしたんだ?」

「ガタ」

「・・・・・!」

箪笥の上に置かれた写真立てが、

置いた場所が悪かったのか

箪笥から滑り落ち

その下の畳の上に無造作にバラ撒かれる

「・・・・」

散らばった写真立てと、

一枚の白黒写真が音もなく

古びた畳の上で重なり合う

 

「血の家」 四十四雫

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「見ろ、征四郎くん-----、」

 

「-----ええ。」

 

自分達とは、別の方向に向かって行った

 

雅たちを遠目に見ながら、征四郎たちは

 

村の中にある民家を一つ一つ、回って行く

 

「("鴇与"------)」

 

「征四郎くんと、同じ、

 

  "鴇与"の姓だな-----?」

 

「-------....」

 

何軒か民家を回った後、

 

征四郎たちは一軒の、表札に

 

"鴇与"の姓が書かれている

 

民家の前で足を止める

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

二人は、余り大きくない、

 

表札が書かれた門を抜け

 

少し先の古い、少然とした

 

木造りの建物が置かれている庭先へと進んで行く

 

「車か....?」

 

「・・・・」

 

"ザッ ザッ ザッ ザッ..."

 

「(--------、)」

 

車、古びた何かの機械、

 

子供が使うような遊び道具------、

 

「(--------、)」

 

まるで、時間が止まった様に

 

この家の庭先は、止まったまま

 

止まったように、ただ、"ある"------

 

「他の民家とは、少し感じが

 

 違うみたいだな----、 ここは?」

 

「・・・・」

 

先程回った二、三軒の民家。

 

「(ここは------、)」

 

その民家の周りには草が伸び切り、

 

建物もかなり所々崩れたり、

 

ガタが来ている様に見えたが

 

今目の前にあるこの建物には

 

それらと状を異ならせ

 

どこか、別の雰囲気が漂っている

 

「やけに、小ぎれいじゃないか----?」

 

「確かに....」

 

「(・・・・)」

 

何か、生活感を感じさせる様な

 

庭の景色に征四郎は、周りを見渡す

「血の家」 四十三雫

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「ブロロロロロロロロロロ....」

 

「しかし、何だってんだろうな...」

 

「-----ええ!?」

 

昨日、神代の集落を

 

抜ける時に通った道をそのまま、

 

征四郎と善波を乗せたバイクが走って行く

 

「いや! 昨日の、

 

 "村"の事だっ!?

 

  ・・・分かるだろうっ!?」

 

「(・・・・・)」

 

「それに、俺たちが拾った

 

  あの、紙に書かれてた地図っ!?

 

  あいつはなんなんだっ!?」

 

「--------...」

 

"ブワァァアアアアアアアア----!"

 

顔に当たる風を浴びながら、

 

征四郎は善波の言葉に何も答えず

 

ただ、目の前に広がる叶生野の景色に目をやる

 

「(確かにそうだ-----)」

 

あの、藤道家の駐車場で

 

善波の車のフロントガラスに置かれていた

 

茶封筒に入った紙-------...

 

「(あれは、昨日俺たちが行った

 

   村の事を示していた様だが...)」

 

「まるでっ あの、集落の事をっ

 

  俺たちにっ!? 

 

 見つけて欲しいみたいじゃないかっ!?」

 

「・・・・」

 

「それにっ 車のパンクや、

 

 一昨日の車が燃えたり------!」

 

「(--------...)」

 

「世の中不思議な事だらけだなっ!?

 

 征四郎くんっ!?」

 

「(・・・・・)」

 

「そうは思わないかっ!?」

 

「ええ、確かに------」

 

善波の言葉に、何か引っかかったが、

 

言葉の勢いに自分の考えは

 

どうでもよくなったのか、征四郎は

 

適当に相槌を打つ

 

「あの村に何かあるってのか!?」

 

「(-------、)」

 

「ブロロロロロロロロロロ....」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「善波さん------、」

 

「ああ」

 

"キィィッ"

 

「(--------、)」

 

"ザシャ"

 

丈の高い草が生えた山道をバイクで走り、

 

征四郎、そして善波は昨日と同じ様に、

 

周りを山々に囲まれた広い盆地の様な場所で

 

乗って来たバイクから降りる

 

「("車"------!)」

 

だが、昨日の景色とは一つだけ違い、

 

征四郎たちがバイクを止めた先の民家の側に一台の

 

"車"

 

が止まっているのが見える

 

「ガチャ」

 

「あら、征四郎------、」

 

「雅・・・・」

 

「また、ずい分、貧乏臭い

 

 恰好をなさって-----?」

 

車から、何人かの男を従えて

 

叶生野家の次女、

 

"羽賀野 雅"

 

が、車から降りてくる

 

「何で、お前がここにいるんだ-----?」

 

「・・・・あら?」

 

征四郎の言葉に、雅は、澄まし顔を浮かべる

 

「何も、征佐を探してるのは、

 

  アナタだけじゃなくってよ?」

 

「ガチャ」

 

「こんな場所に村があるなんてネー」

 

「ルーシー...」

 

雅に続けて、車の反対側のドアから

 

雅と共に行動していた

 

"ルーシー・ハドー・カミムラ"

 

が出てくる

 

「セイシロウ、

 

 "コウヘイ"

 

 に行こうヨ------...?」

 

「・・・・」

 

「ガチャ」

 

更に、ルーシーの後に続けて、

 

車の後部座席の扉から背の高い

 

金髪の男が降りてくる

 

「ワァオ... セイシロー

 

  ハロー」

 

車から降りる人影を見た瞬間、

 

顔を見ずとも、征四郎には

 

この男が誰なのか既に分かっていた

 

「ジャン...」

 

「お前っ!?」

 

「・・・・」

 

ジャンは平然と、ヘルメットを持って立っている

 

征四郎、そして善波を笑顔で見ている

 

「ワタシも、コンカイの

 

  "ミダイ"のコトは

 

  トテモキニナッテイタよ-----」

 

「・・・お前が二人に喋ったのか?」

 

「・・・・」

 

"パッ パッ"

 

征四郎の言葉を聞くと、ジャンは目を閉じ、

 

顔を下に向け、それから首を横に二回ほど振る

 

「"フェァプレイ"でいこうヨ-----?

 

  セイシロウ------?」

 

「フェアプレイ?」

 

「そうヨ------、

 

  ワタシたち、たしかに、

 

  キノウ、このバショを、

 

  三人でみつけたヨ-----」

 

「・・・・」

 

征四郎の目が一瞬細くなるが、

 

ジャンは構わず話を続ける

 

「でも、その、"ミツケタ"ことヲ

 

  みんなにシェアしないのは、

 

  すこし、ズルイ------

 

  ソウおもわナイ? セイシロウ?」

 

「・・・好きにしてくれ」

 

「では、好きにさせてもらいます-----」

 

「お、おい、征四郎くん」

 

背を向けた征四郎を見て、

 

慌てて善波が征四郎の後を追いかけて行く

 

「血の家」 四十二雫

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「....バイクか?」

 

"キュルルルルルルルル"

 

「ああ-----。

 

  執事の近藤に頼んで、用意してもらった」

 

"ウォォンッ"

 

叶生野家の屋敷の駐車場で、征四郎は

 

かなり排気量の大きいバイクの

 

アクセルを吹かしながら、

 

バイクを挟んだ場所に立っている善波を見る

 

「昨日の場所-----」

 

「・・・・」

 

"ウォォオオンッ"

 

"ウォオオンッ!"

 

「どうやら、あの場所、車は入れない様だが

 

  "コイツ"なら-----」

 

"ウォォォンッ"

 

「-----確かにコイツだったら、

 

  あの山道を抜けて

 

  昨日の集落まで行けるだろうな...」

 

「ガタッ」

 

「善波さん、後ろ、乗ってくれ」

 

征四郎はバイクにまたがると

 

ヘルメットを善波に向かって放り投げる

 

「・・・・・」

 

「どうしたんだ?」

 

ヘルメットを持ったままその場で動こうとしない

 

善波を見て、征四郎が善波の顔を覗く

 

「いや、ジャンはどうした?」

 

「・・・・」

 

"ウォォオオンッ ウォォオオンッ"

 

「さあ-----、

 

 今朝、アイツを呼びに部屋に行ったら、

 

  「今日は別にやる事がある」

 

  ってさ。」

 

「そうか------

 

  よし。」

 

「ガタッ」

 

「------掴まっててくれ」

 

「運転できるんだろうな?」

 

「ああ、国際免許を持ってる」

 

"ウォォオオオオンッ!"

 

"ウォォォオオオオオオンッ"

 

「うおっ」

 

「行くぞっ!」

 

"ブオオオオオオオオ--------

 

軽く、前輪を地面から浮き上がらせると

 

征四郎、善波を乗せたバイクは

 

叶生野のガレージから飛び出して行く

 

「血の家」 四十一雫

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「む、村だ・・・」

 

「こ、こんなトコロニ-----!?」

 

草や木々に覆われた道の中をしばらく歩くと

 

突然、征四郎たちの目の前に

 

まるで異界から取り残されたような

 

"集落"が現れる------

 

「こ、これが、さっき言ってた

 

  "ダムの村"って奴か?」

 

「---------ええ」

 

「ワァオ-----」

 

「・・・・」

 

月明かりに照らされた

 

草の途切れた、広い集落の中に三人が目を向ける

 

「こんな場所が-----」

 

視界の先に、いくつもの道が広がり

 

その道に沿う様に、ポツリポツリと

 

民家や家屋がまばらに建っているのが見える

 

「("人"-------、)」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「おい、車だ! 征四郎くん」

 

「・・・・」

 

"鴇与"

 

善波が叫び声を上げている横で

 

征四郎が自分の目の前にある、

 

打ち捨てられた廃屋の門の前にある

 

表札の埃を払うと、

 

そこには、

 

"鴇与"

 

の文字が書かれている

 

「(前原、神代、樹、

 

   そして、鴇与------)」

 

征四郎は今までこの集落の中で

 

目に入って来た、民家の表札に書かれた

 

名前を頭の中に思い浮かべる

 

「な、何なんだ、この場所は-----」

 

「このバショが、カミにかかれてた

 

  バショってコト------?」

 

「・・・・・」

 

「しかし、大分広いな....」

 

盆地に似た、

 

山間(やまあい)に囲まれた

 

集落に入ってから三十分程。

 

「...空き家みたいのが多いみたいだな」

 

「家の中に何かあったりは?」

 

「いや、あまり物とかが

 

 置かれてる様な感じでも無い。

 

 二、三軒そこら辺りの民家に入ってみたが

 

 中は埃だらけで、人が住んでる様な

 

 気配は無い様だ。」

 

「・・・・」

 

"10:25"

 

「(大分、時間も遅くなったな...)」

 

「・・・・」

 

「ワァオ! セイシロー!

 

  バイクがあるよ!」

 

「この、集落みたいなのは

 

  かなり奥の方まで続いてるみたいだぞ...」

 

善波が、自分が立っている遥か先の

 

集落の外れの方に目を向ける

 

「-----善波さん。」

 

「・・・何だ?」

 

「今日は、一旦ここから引き返して、

 

  この場所を探すのは明日にしないか?」

 

「そうだな...」

 

善波が携帯の時計をチラリと見る

 

「今日はもうかなり時間も経ってるしな....」

 

「この村の中はかなり広そうだ」

 

善波は、集落の中を見渡す

 

「そうだな、とりあえず、今日はこの辺りにして

 

 明日日をあらためてここに来るとするか」

 

「-----その方がいい」

「血の家」 四十雫

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"ザッ ザッ ザッ ザッ------"

 

「じゃあ、この先に

 

  何か村みたいなものが

 

  あるって言うのか----?」

 

「おそらく------」

 

"ザッ ザッ...."

 

征四郎は自分の前に続く

 

草が途切れた、目の前にできた道の様な場所を

 

携帯の明かりを頼りに、先へと進んで行く

 

「さっきの征次の話を考えれば

 

  この先にダムが建てられる予定で

 

  残された村があると言っていた...」

 

「----だから?」

 

"ザッ ザッ ザッ ザッ------"

 

「有り体に考えれば、

 

  その話が嘘だったとしても

 

  そんなすぐにバレる嘘を

 

  叶生野の人間に付くとは思えない----、」

 

「じゃあ、さっきのおジイさんは、

 

  このバショを

 

 かくしてたってコト-----?」

 

"ザッ"

 

「・・・?」

 

「クククククク....」

 

「せ、征四郎くん-----?」

 

不気味な笑みを浮かべながら、

 

征四郎は突然足を止める

 

「見ろ、善波さん------?」

 

「あ、あれは------!」

 

「"村"だ-------!」

 

「な、ナンテ-------!」

「血の家」 三十九雫

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「それじゃあ、俺達もすぐに出る」

 

「-----お気をつけ下さい」

 

"ブロロロロロロロロロロロ..."

 

善波の言葉を聞くと、征次はそのまま車に乗り、

 

山間(やまあい)の道を引き返し

 

神代の集落の方へと消えていく

 

「俺達も戻るとするか」

 

「ガチャ」

 

「・・・・」

 

「モウ、ヨルよ、

 

 イヌきたらあぶないよ」

 

「ガチャ」

 

「・・・・」

 

「・・・・征四郎くん?」

 

「(あの老人-----、)」

 

「おい、どうしたんだ?

 

  帰るぞ?」

 

「・・・・」

 

善波が、軽自動車の運転席に座りながら

 

助手席の方を見ると、

 

助手席のドアの前で征四郎が立ち尽くしている

 

「("妙"だな------、)」

 

「セイシロー?」

 

「(犬が出ると言うが、

 

   さっきから犬の鳴き声なんて

 

  まるで聞こえないが...)」

 

「おい! 何してるんだっ

 

  置いてくぞっ!?」

 

「(それに、さっきのあの態度-----、)」

 

"ガサッ"

 

「おい、征四郎くん!?」

 

「セイシロー?」

 

"ザッ ザッ ザッ ザッ!"

 

「ど、どこ行くんだ!?」

 

征四郎は車から離れ、

 

山の中へ向かって走って行く

 

「お、おい!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「(--------、)」

 

"ザシャッ ザシャッ"

 

「な、何だ、急に走り出してっ!?」

 

「・・・・」

 

"ザシャッ ザシャッ"

 

善波の言葉を無視して、征四郎は

 

人の丈程伸びた草をかき分け、

 

山の奥へ向かってひたすら進んで行く

 

「お、おい! 

 

  あんまり進むと犬とか

 

 出るんじゃないかっ!?」

 

"ザシャッ ザシャッ ザシャッ"

 

「(・・・・・!)」

 

「征四郎くん!」

 

「セイシロー!」

 

「(・・・・・)」

 

二人の声が聞こえていないのか、

 

征四郎は目の前の草を払いながら

 

奥の方へ向かって進んで行く!

 

「(あの"態度"-------!)」

 

「おい、どこまで行くつもりだ!」

 

「セイシロー! "イヌ"が出るヨっ!」

 

「(・・・・・!)」

 

"ドン"

 

「う、うおっ」

 

「--------...」

 

「な・・・!」

 

突然、自分の前で

 

急に足を止めた征四郎の背中に善波がぶつかる

 

「善波さん...」

 

「な、急に止まるな!」

 

「-------、」

 

"ザッ ザッ ザッ ザッ"

 

「・・・・??」

 

善波の言葉を無視して、征四郎は

 

更に、草藪(くさやぶ)の中を先へと歩いて行く

 

"ザッ"

 

「---------、」

 

「?」

 

先を少し歩くと、暗闇の中で

 

征四郎の足が止まる

 

「・・・・?」

 

"スッ"

 

征四郎は手にしていた携帯の照明を

 

自分の前に向かってかざす

 

「"道"だ-------...

 

  ------善波さん?」

 

「み、道?」

 

「--------ワォ」

 

"ザッ ザッ ザッ ザッ------

 

草藪を抜け、少し歩いた先-----、

 

「さっき、あの征次が俺達と話しながら

 

  頻繁にこっちの方を見ていた-----」

 

「ま、征次が?」

 

"ザッ ザッ ザッ ザッ------"

 

「・・・それに、征次は

 

  何か、不自然に俺達から

 

  意識を遠ざけるかの様に、

 

  この場所を背にして

 

  車の側のあの場所で立っていた-----」

 

「道・・・・」

 

「(--------)」

 

草藪の先に突然現れた、

 

あまり草が伸びていない

 

"道"の様な空間に征四郎が目を向ける

 

「すでに、かなり昔に

 

  捨てられたはずのこの場所に、

 

  なぜか、草があまり生えていない

 

  こんな場所がある------」

 

「た、確かに妙だな」

 

「何でだと思う-----?

 

  善波さん------?」

 

「・・・・!」

 

「血の家」 三十八雫

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「どうやら、この辺りの様だな」

 

「・・・・」

 

"バタン"

 

車から降り、ドアを閉めると、

 

善波は封筒の中に入った紙を手に持ちながら

 

目の前の木々に覆われた深い森に目を向ける

 

「地図によると、どうやらこの辺りの事が

 

 書かれているみたいだが...」

 

「ココに、ナニが、あるっていうノ?」

 

「・・・・」

 

今まで自分達の車で走ってきた道が突然途切れ、

 

辿り着いたこの場所には

 

草原(くさはら)しか見えない

 

「特に、建物か何かが

 

 ある訳でも無い様だが...」

 

「・・・・・」

 

"ザッ ザッ ザッ ザッ...."

 

森の先に、大きな山がいくつも連なり

 

その山々に、何の木かは分からないが、

 

丈の高い木が隙間なく山を覆いつくしている

 

「ただの、人の手が入ってない

 

  場所にしか見えないが....」

 

「だが、この地図は

 

  どう見てもこの場所辺りの事だろう?」

 

"ガサ"

 

「・・・・」

 

「な? そうだろう?」

 

「・・・・」

 

征四郎が、善波から手渡された地図を見るが

 

あまり詳しく書かれていないせいか、

 

そう言われれば、確かに地図が差し示しているのは

 

この辺りの様な気もする

 

「------とにかく、探してみるか」

 

「--------、」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「何かあったか!?」

 

「いや、小さな社(やしろ)みたいなのがあったが

 

  特に目を引く様な物は-----...」

 

「そうか」

 

征四郎の言葉を聞いて、車の辺りに立っていた

 

善波は、髭を触りながら手に持っていた紙を見る

 

「コッチも、ナイよ」

 

「・・・・・」

 

車に置かれていた地図を頼りに

 

すでに何時間も特に何も見当たらない、

 

草や木しか見えないこの辺りを

 

征四郎、善波、ジャンの三人は

 

探し回るが、特に、何か

 

目に付く物がある訳でもない。

 

「地図が示してる場所は

 

 この辺りだとは思うんだが...」

 

「ダイタイ、そのちず、イミあるノ?」

 

「それは、そうだろう。

 

  誰がこの地図を俺たちの所に置いてったのかは

 

 分からんが、何かしら意味があるから、

 

  この地図を置いてった訳だろう?」

 

「ソウなの?」

 

「・・・・・」

 

「("罠"なんじゃないか-----)」

 

「ゼンバさん、そろそろかえろうヨ」

 

「いや、この辺りに何かある。

 

  間違いないっ」

 

「(・・・・)」

 

「だってもう、三時間はサガしてるヨ?」

 

「・・・それもそうだが...」

 

二人のやり取りを聞きながら

 

征四郎は、別の可能性を考えていた

 

「(そもそも、この地図自体が

 

   俺たちをここに呼び寄せて、

 

   時間をムダにさせるための

 

  物だったとしたら・・・)」

 

征四郎が善波を見る

 

「・・・何だ? 征四郎くん?」

 

「あ、いや------

 

  ??」

 

"ブロロロロロロロロ"

 

善波に向かって征四郎が口を開こうとした瞬間、

 

三人が乗って来た軽自動車の少し先から

 

ライトをつけた一台の車が近づいてくる

 

"キキィッ"

 

「あれは・・・・」

 

「ガチャ」

 

「・・・・」

 

"バタン"

 

「・・・征次さんか?」

 

「ああ、皆さま-----」

 

善波の脇に停めた車の中から、

 

二日前にこの神代の集落で話を聞いた、

 

鷺代 征次が降りてくる

 

「な、何だ? こんな場所まで?」

 

「いえ------、」

 

征次は、車から降りると

 

この場にいる三人に目を向ける

 

「集落の者が、どうやら皆さまの乗った車が

 

  この辺りに入って行くのを

 

 見たと言うもので----」

 

「(・・・・?)」

 

「何だ? この辺りは入ったらマズいのか?」

 

「その様な訳では無いのですが------」

 

「だったら別に俺たちが

 

 ここで何をしようが構わんだろう」

 

「・・・・」

 

善波の言葉に、征次は複雑な表情を浮かべる

 

「いえ、実は-----」

 

「・・・・?」

 

征次が、少し先にある大きな山に目を向ける

 

「この辺りは、昔は

 

 別の集落が御座いまして...」

 

「・・・こんな場所にか? 草しかないぞ?」

 

「ええ、もう大分昔の話ですが」

 

"サッ"

 

「(・・・・?)」

 

征次は何か落ち着きがなく、

 

三人の前をウロウロと歩きながら、

 

山の方を見ている

 

「シュウラクがアルと、

 

  なんでマズイの」

 

「いえ、昔は、この戸峯山の辺りに

 

 ダムの建設計画の話が御座いまして...」

 

「ダム?」

 

「そうです。

 

  そして、その折に、

 

 この辺りにいた集落の者たちはみな、

 

 この辺りの集落から離れて

 

  行ったのですが...」

 

「ダム、と言うが、

 

 この辺りにダムなんか無いだろ?」

 

善波が、先にある山を見渡す

 

「いえ、当初はこの場所に

 

 ダムが建設される予定で

 

  この辺りの集落の者は、それに合わせて

 

 この場所から離れて行ったのですが-----」

 

「結局、この場所にはダムが建たなかった?」

 

「そ、その通りでございます。

 

  よくお分かりになられますね」

 

「・・・・」

 

征次は征四郎に驚いた様な表情を浮かべるが、

 

そこまで話を聞けばその様な答えは自然と出る

 

「・・・・」

 

征四郎は、黙って征次を見る

 

「それで、この辺りにダムが建つ予定で、

 

  村の者は自分たちの家を捨てて、

 

  この場所から去って行ったのですが...」

 

「結局ダムは建たなかったんだろう?」

 

「その通りでございます...

 

  そして、今では、この辺りには

 

  打ち捨てられた民家などに、

 

  山犬や動物が集まって

 

  あまり、人が入るには相応しく無い場所

 

  となっておるのではないかと...」

 

「・・・犬か...」

 

「・・・エイゴで言うと、"dog"ネ?」

 

「従って、あまりこの場所に

 

  皆さまが長居されると

 

  少し、宜しくは無いのではないかと...」

 

「・・・・・」