「血の家」 五十一雫
「まず、何から話せば良いでしょうか-----」
征次は、ぼんやりと庭の景色に目を向ける
「まず、あの村------...」
征次の話の途中で善波が口を開く
「...あの村は、一体何なんだ?
あの村の中には、明らかに
最近まで人が住んでいた様な
形跡があったぞ?」
「・・・・」
「征次さん、アンタの話だと
あの村はもうとっくに何十年も前に
捨てられた、人のいない場所だと
言ってたよな------?」
「そうです------」
「だったら、あの場所に人が住んでる
痕跡があるのは何故だ?
それに、親父の写真があそこにあるのも
おかしいじゃないか?」
「・・・・」
善波の言葉に、征次はぼんやりと
庭に向けていた視線を、二人の方に戻す
「------あれは、尚佐さまが
ある程度年を召されて
叶生野の仕事から遠ざかる様になった
五年程前の事でした....」
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「征次------、」
「------はい」
"パチ パチ パチ....
尚佐が土窯(つちがま)の中に炭を入れると、
陶器が入った窯の火が、激しく燃え上がる
「俺も、すでに、叶生野の御代になってから
かなりの月日が経った...」」
「・・・・」
"パチ パチ パチ....
「俺の代で、叶生野の一族は
日本を離れ、アジア、ヨーロッパはおろか
世界のあらゆる場所に広がり、
叶生野の名は今や、どこの国でも
知らない者はいない」
「・・・・」
"ジュッ"
強すぎる火を抑えようと思ったのか、
征次が窯の中に水を差す
「だが、叶生野の一族は、
あまりに、その数が増えすぎた...」
「・・・・」
「今では、日本だけでなく、
世界のあらゆる場所に
叶生野の関連企業が存在する」
「その通りです」
「・・・・」
「・・・・」
"パチ パチ パチ..."
「なあ、政次....」
「-----はい」
「お前は、俺と同じ、
"鴇与"の集落の出身だ...」
「------はい。」
"スッ"
尚佐は、土窯から視線を外し
遠くの方に見える、ダムに沈む筈だった村、
"鴇与"の集落の方を見渡す
「俺も、鴇与を何とか、
叶生野の中で、
日の目を見せようと
長い事、色々やって来た訳だが...」
「-----それで、今では
御代になられたのでしょう」
「・・・・」
"パチ パチ パチ....
「・・・俺も、もうすぐ直(じき)、
御代の座から
身を引くことになるだろう-----」
「・・・・」
「そして、その時には、
俺の一族、そして
鴇与家である、"征"の字を付けた
俺の息子が、御代を継ぐことに
しようと思っている----」
「"征"の字------?
・・・と言うと、次の御代は-----」
「ああ、次の御代は、
"征四郎"
だ。」
「征四郎------。」