おめぇ握り寿司が食いてえ

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「血の家」 三十八雫

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「どうやら、この辺りの様だな」

 

「・・・・」

 

"バタン"

 

車から降り、ドアを閉めると、

 

善波は封筒の中に入った紙を手に持ちながら

 

目の前の木々に覆われた深い森に目を向ける

 

「地図によると、どうやらこの辺りの事が

 

 書かれているみたいだが...」

 

「ココに、ナニが、あるっていうノ?」

 

「・・・・」

 

今まで自分達の車で走ってきた道が突然途切れ、

 

辿り着いたこの場所には

 

草原(くさはら)しか見えない

 

「特に、建物か何かが

 

 ある訳でも無い様だが...」

 

「・・・・・」

 

"ザッ ザッ ザッ ザッ...."

 

森の先に、大きな山がいくつも連なり

 

その山々に、何の木かは分からないが、

 

丈の高い木が隙間なく山を覆いつくしている

 

「ただの、人の手が入ってない

 

  場所にしか見えないが....」

 

「だが、この地図は

 

  どう見てもこの場所辺りの事だろう?」

 

"ガサ"

 

「・・・・」

 

「な? そうだろう?」

 

「・・・・」

 

征四郎が、善波から手渡された地図を見るが

 

あまり詳しく書かれていないせいか、

 

そう言われれば、確かに地図が差し示しているのは

 

この辺りの様な気もする

 

「------とにかく、探してみるか」

 

「--------、」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「何かあったか!?」

 

「いや、小さな社(やしろ)みたいなのがあったが

 

  特に目を引く様な物は-----...」

 

「そうか」

 

征四郎の言葉を聞いて、車の辺りに立っていた

 

善波は、髭を触りながら手に持っていた紙を見る

 

「コッチも、ナイよ」

 

「・・・・・」

 

車に置かれていた地図を頼りに

 

すでに何時間も特に何も見当たらない、

 

草や木しか見えないこの辺りを

 

征四郎、善波、ジャンの三人は

 

探し回るが、特に、何か

 

目に付く物がある訳でもない。

 

「地図が示してる場所は

 

 この辺りだとは思うんだが...」

 

「ダイタイ、そのちず、イミあるノ?」

 

「それは、そうだろう。

 

  誰がこの地図を俺たちの所に置いてったのかは

 

 分からんが、何かしら意味があるから、

 

  この地図を置いてった訳だろう?」

 

「ソウなの?」

 

「・・・・・」

 

「("罠"なんじゃないか-----)」

 

「ゼンバさん、そろそろかえろうヨ」

 

「いや、この辺りに何かある。

 

  間違いないっ」

 

「(・・・・)」

 

「だってもう、三時間はサガしてるヨ?」

 

「・・・それもそうだが...」

 

二人のやり取りを聞きながら

 

征四郎は、別の可能性を考えていた

 

「(そもそも、この地図自体が

 

   俺たちをここに呼び寄せて、

 

   時間をムダにさせるための

 

  物だったとしたら・・・)」

 

征四郎が善波を見る

 

「・・・何だ? 征四郎くん?」

 

「あ、いや------

 

  ??」

 

"ブロロロロロロロロ"

 

善波に向かって征四郎が口を開こうとした瞬間、

 

三人が乗って来た軽自動車の少し先から

 

ライトをつけた一台の車が近づいてくる

 

"キキィッ"

 

「あれは・・・・」

 

「ガチャ」

 

「・・・・」

 

"バタン"

 

「・・・征次さんか?」

 

「ああ、皆さま-----」

 

善波の脇に停めた車の中から、

 

二日前にこの神代の集落で話を聞いた、

 

鷺代 征次が降りてくる

 

「な、何だ? こんな場所まで?」

 

「いえ------、」

 

征次は、車から降りると

 

この場にいる三人に目を向ける

 

「集落の者が、どうやら皆さまの乗った車が

 

  この辺りに入って行くのを

 

 見たと言うもので----」

 

「(・・・・?)」

 

「何だ? この辺りは入ったらマズいのか?」

 

「その様な訳では無いのですが------」

 

「だったら別に俺たちが

 

 ここで何をしようが構わんだろう」

 

「・・・・」

 

善波の言葉に、征次は複雑な表情を浮かべる

 

「いえ、実は-----」

 

「・・・・?」

 

征次が、少し先にある大きな山に目を向ける

 

「この辺りは、昔は

 

 別の集落が御座いまして...」

 

「・・・こんな場所にか? 草しかないぞ?」

 

「ええ、もう大分昔の話ですが」

 

"サッ"

 

「(・・・・?)」

 

征次は何か落ち着きがなく、

 

三人の前をウロウロと歩きながら、

 

山の方を見ている

 

「シュウラクがアルと、

 

  なんでマズイの」

 

「いえ、昔は、この戸峯山の辺りに

 

 ダムの建設計画の話が御座いまして...」

 

「ダム?」

 

「そうです。

 

  そして、その折に、

 

 この辺りにいた集落の者たちはみな、

 

 この辺りの集落から離れて

 

  行ったのですが...」

 

「ダム、と言うが、

 

 この辺りにダムなんか無いだろ?」

 

善波が、先にある山を見渡す

 

「いえ、当初はこの場所に

 

 ダムが建設される予定で

 

  この辺りの集落の者は、それに合わせて

 

 この場所から離れて行ったのですが-----」

 

「結局、この場所にはダムが建たなかった?」

 

「そ、その通りでございます。

 

  よくお分かりになられますね」

 

「・・・・」

 

征次は征四郎に驚いた様な表情を浮かべるが、

 

そこまで話を聞けばその様な答えは自然と出る

 

「・・・・」

 

征四郎は、黙って征次を見る

 

「それで、この辺りにダムが建つ予定で、

 

  村の者は自分たちの家を捨てて、

 

  この場所から去って行ったのですが...」

 

「結局ダムは建たなかったんだろう?」

 

「その通りでございます...

 

  そして、今では、この辺りには

 

  打ち捨てられた民家などに、

 

  山犬や動物が集まって

 

  あまり、人が入るには相応しく無い場所

 

  となっておるのではないかと...」

 

「・・・犬か...」

 

「・・・エイゴで言うと、"dog"ネ?」

 

「従って、あまりこの場所に

 

  皆さまが長居されると

 

  少し、宜しくは無いのではないかと...」

 

「・・・・・」