「血の家」 四十八雫
「じゃあ、今、君の家に頼んで
写真を取り寄せてる所なのか?」
「------ええ。」
善波の部屋で、征四郎は
テーブルの椅子に座りながら
窓の側に立っている善波を見る
"チチチチチチチ..."
窓の外に目を向けると、朝の光が差す中
何の鳥かは分からないが
一羽の鳥が鳴いているのが見える
「(あの写真-------、)」
昨日山奥の集落で見た尚佐が写っていた写真。
「(右側に写っていたのは
確かに尚佐だった...
だが、その隣に写っていたのは....)」
征四郎の頭に、尚佐の左側に写っていた
男の顔が浮かんでくる
「(あの、左側に写っていた男、
どこかで見た様な気が....)」
曖昧な記憶を頼りにすれば見た事がある様な
写真の左側に写った人物に何かを思ったのか、
実家の兄征由に頼んで、
征四郎は鴇与家の親族関係の写真を
全て送ってもらう様に手配していた------、
「しかし------、」
窓から善波が向き直る
「昨日見た写真が、尚佐-----、
ウチの親父だったとしたら・・・
何だって親父の写真が
あんな場所にあるんだ?」
「・・・・」
昨晩、善波と遅くまで
話していた時に二人が出した答えは
"あの家に尚佐が住んでいた"
"あの家に尚佐に関係のある人物が住んでいた"
二人はそう考えたが...
「・・・それに、雅----、
あれから、この叶生野の屋敷に
姿を見せていない様だが...」
「・・・・」
「(あいつら、俺たちがあの写真を
見つけるより先に、
あの集落から早々と
立ち去って行ったな...)」
征四郎の頭では、尚佐が
あの集落にいたと言う事実は
かなり重要な事実で、あの集落で
それ以上に何か他の重要な事があるとは思えない
「(そう考えれば-----...)」
一抹(いちまつ)の不安が
征四郎の頭に過る
「(俺達が、見つけた"事実"より、
あいつら、雅たちが見つけた
"事実"の方が更に重要な
"事実"なんじゃないか....)」
「・・・・」
そうだとすれば雅たちが
すぐに集落から引き返したのも頷ける
「どうする? 今日も、あの集落に行くのか?」
「------いや、」
「...何でだ? あの集落には
まだ何かありそうな気がするが...」
「確かに、それもそうだが...」
「だったら何だ?」
「それより、昨日の、征次------、」
「ああ、そう言えば、一昨日、
あの集落に入る前に、俺たちの所に
来てたな」
「あの、征次は、俺たちに、
あの集落の存在を隠していた------」
「------奴は、
"何か"知ってるって事か?」
「------ええ。」
"コン コン"
「・・・・?」
二人が話をしていると、部屋のドアを
ノックする音が聞こえてくる
「-----何だっ!」
「近藤で御座います------」
「入れ」
「ガチャ」
"カッ カッ カッ カッ...."
「何だ? 何か用か?」
ドアの外から、近藤が部屋の中にいる
善波、征四郎の傍まで歩いてくる
「いえ-----、
すでに、尚佐御大が亡くなられてから、
数日がお経ちになりました...」
「そうだな」
「今、この叶生野の村の中には、
その訃報(ふほう)を聞きつけて、数多くの
我が叶生野の傘下、そして
関連した企業の方たちが
集まってきております-----」
「・・・ああ 藤道のトコにも集まってたな」
「------左様で御座います...」
「それが何なんだ?」
目を伏せている近藤が面倒だと思ったのか、
善波が早口でまくし立てる
「あまり、皆様方に日を取らせては
色々差支(さしつか)えが
御座いましょう...」
「-----それもそうだな」
「従って、そろそろ、葬儀の日取りを
お決めになられた方が
宜しいのではないかと...」
「・・・確かにそうだな。
だが、普通ならば、こういう事は
次の御代が決めるモンなんだが...」
「その通りで御座います------、」
前代が亡くなり、次の御代が誰か
定まっていない以上、
葬儀の日取りを決める様な
決定を下せる人間が今、
この叶生野荘には存在していない
「とりあえず、今回は
尚佐さまの長子である善波さまが
葬儀の日取りをお決めに
なられるのが宜しいかと...」
「お、俺がか?」
「-----そうで御座います」
「・・・日取りと急に言われてもな」
「・・・・」
善波が困った様な表情を見せると
近藤は、すぐに言葉を返す
「すでに、こちらで日取りの方は
ある程度決めております------」
「-----そうか」
「従って、善波さまには当日の段取りや
その他の必要な事について、
決済して頂ければと...」
「-----分かった。」