「吉田と川越」 25OS
「お、おい------!」
"カチャッ"
"ガササッ"
涼しい表情で自分の新型パソコンや
荷物をまとめている吉田、そして川越に
佐々木が慌てた様な口調で話し掛ける
「お、お前ら-------
・・・あんな簡単に、
アイツの言葉を信じていいのかっ!?」
「------何がだ?」
"ガチャッ"
川越が紫電-§のパソコンのアダプタを外しながら
佐々木に目を向ける
「い、いや、お前らは知らんかも知れんが
アグメノン-----....」
「ああ、さっきヘルムートが言ってた
"悪魔"の事か?」
"カパッ"
吉田が、AISUS-zk9の内部の
マザーボードを拭きながら佐々木を見る
「お前ら、"アグメノン"と言えば、
地獄の大軍団長ドレンの眷属、
俺たち下級の悪魔を全て支配する
闇の悪魔だぞ------?」
「-------それがどうした」
佐々木の言葉に、川越はクールな微笑を浮かべる
「お、お前らは分からんのだ・・・
アグメノンがどれ程、
残忍で凶悪な悪魔なのか...」
"キュッ"
佐々木の言葉に興味が無いのか、吉田は
自分のパソコン用の眼鏡を布で拭く。
「お前らは、やつがただの悪魔だと
慢(あなど)っている様だが....」
「-----そうじゃないのか?」
「いや・・・奴、アグメノンは
そこらにいる、"神々を超えた存在"より、
下手をしたら...」
"ガタッ ガタタッ"
「(-------....)」
気のせいかも知れないが、佐々木の体が
若干震えたのを見て、吉田は視線を床に向ける
「お、お前は、本当の、"悪魔"の
残忍さを知らんのだ------!」
"ガタッ ガタタッ
「-------お前は、一体なんで
ここに来たんだ-----?」
「・・・・」
何故か怯えた様子を浮かべている佐々木を見て、
川越が突然紫電-§を抱えながら
佐々木の元へと近付いて行く....
「な、何でって....」
"カチャ"
川越は、紫電-§のカバーを開け
開いたデスクトップ画面に目を向ける...
「理由の違いはあっても俺たち人間、
そして佐々木、お前ら悪魔は
この仮想空間、V-MONETを支配する
マルサールを倒すために
立ち上がったんだろう....?」
"カタタタタタタタ...
川越が優しく、奏でるようにキーボードを弾くと、
その音が空間内にこだまする------
「べ、別に、俺は、そう言うワケじゃ....」
「・・・・」
"カタ...
佐々木の言葉に、川越のキーボードを叩いていた
指が止まる------...
「ただ-------、」
「"ただ"?」
"カタッ..
キーボードに這わせていた、川越の手が
"H"の文字の所で止まる
「地上にいても、どの道俺みてえな
下っ端の悪魔には居場所がねえ------」
「・・・・」
"カタッ"
"O"
今度は、キーボードの"O"の所で
川越の手が止まる....
「だが、この"V-MONET空間"内に来れば
俺みてえな下級の悪魔でも、
"神化"できる------
そんな話を聞いたんだ・・・・」
"カタッ...."
"P"
「------だとしたら、このまま地上にいて
マルサールの餌食(えじき)になるより、
この、V-MONET内に来て
俺は、次の存在、"神々を超えた存在"
になりてえ--------
そう思ったんだ・・・」
「・・・・」
"E"
「なるほどな--------、」
"スッ"
「・・・・?」
何かを感じ取ったのか、川越は
自分の新型パソコンのデスクトップ画面を
佐々木に見える様に、向きを変える------
「-------? 何だ、ソイツは....?」
「・・・・・」
"スッ
「ッ-------、」
川越は、無言で、自分がパソコン内に描いた文字の
頭文字を指さし、それを佐々木に示す...
「これは...
"H"..."O"..."P","E"....
"ホープ"か?」
「そうだ--------!」
"HOPE"
「・・・・!」
佐々木が、川越の新型パソコンの
デスクトップ画面内を見ると
そこに、大きな英語の文字で
"HOPE"
と表示されている------
「お前が悪魔を恐れていようが、
この先に進む事に躊躇していようが
そんな事は関係ない--------っ」
「川越・・・・」
川越は、まるで家電量販店で、
新型パソコンの営業販売をするセールスマンの様に、
自分の紫電-§を抱えながら、
そのデスクトップ画面に表示された
"HOPE"の文字を佐々木に見える様に掲げ、
佐々木の元へと歩み寄る....
「"HOPE".....
"希望"と言う意味だが...」
「希望・・・」
「-------フッ、」
川越が、何かを諭すように佐々木に話しかけるのを見て
吉田は、自分の鼻の下に人差し指をあて
川越を見る-------
「この先に、どんな悪魔や神、
そして神々を超えた存在がいようと、
俺たちは、
"HOPE"
この言葉を忘れちゃいけない・・・・」
「"HOPE"・・・・・」
「--------、」
"パタ"
「お、おい」
"タッ タッ タッ タッ......
「か、川越!」
「-------行くぞ? 先に進むんだろ?」
「--------ッ!」
"タタッ タタタッ! タタタタタッ...
「(・・・・・)」
まるでパソコンの販売成績を増やした
店員の様に、川越が先へ進むのを見て、
佐々木はその後を弾んだ足取りで
追いかけて行く....
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
"タッ タッ タッ タッ.....!