「血の家」 三十九雫
「それじゃあ、俺達もすぐに出る」
「-----お気をつけ下さい」
"ブロロロロロロロロロロロ..."
善波の言葉を聞くと、征次はそのまま車に乗り、
山間(やまあい)の道を引き返し
神代の集落の方へと消えていく
「俺達も戻るとするか」
「ガチャ」
「・・・・」
「モウ、ヨルよ、
イヌきたらあぶないよ」
「ガチャ」
「・・・・」
「・・・・征四郎くん?」
「(あの老人-----、)」
「おい、どうしたんだ?
帰るぞ?」
「・・・・」
善波が、軽自動車の運転席に座りながら
助手席の方を見ると、
助手席のドアの前で征四郎が立ち尽くしている
「("妙"だな------、)」
「セイシロー?」
「(犬が出ると言うが、
さっきから犬の鳴き声なんて
まるで聞こえないが...)」
「おい! 何してるんだっ
置いてくぞっ!?」
「(それに、さっきのあの態度-----、)」
"ガサッ"
「おい、征四郎くん!?」
「セイシロー?」
"ザッ ザッ ザッ ザッ!"
「ど、どこ行くんだ!?」
征四郎は車から離れ、
山の中へ向かって走って行く
「お、おい!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「(--------、)」
「な、何だ、急に走り出してっ!?」
「・・・・」
善波の言葉を無視して、征四郎は
人の丈程伸びた草をかき分け、
山の奥へ向かってひたすら進んで行く
「お、おい!
あんまり進むと犬とか
出るんじゃないかっ!?」
「(・・・・・!)」
「征四郎くん!」
「セイシロー!」
「(・・・・・)」
二人の声が聞こえていないのか、
征四郎は目の前の草を払いながら
奥の方へ向かって進んで行く!
「(あの"態度"-------!)」
「おい、どこまで行くつもりだ!」
「セイシロー! "イヌ"が出るヨっ!」
「(・・・・・!)」
"ドン"
「う、うおっ」
「--------...」
「な・・・!」
突然、自分の前で
急に足を止めた征四郎の背中に善波がぶつかる
「善波さん...」
「な、急に止まるな!」
「-------、」
"ザッ ザッ ザッ ザッ"
「・・・・??」
善波の言葉を無視して、征四郎は
更に、草藪(くさやぶ)の中を先へと歩いて行く
"ザッ"
「---------、」
「?」
先を少し歩くと、暗闇の中で
征四郎の足が止まる
「・・・・?」
"スッ"
征四郎は手にしていた携帯の照明を
自分の前に向かってかざす
「"道"だ-------...
------善波さん?」
「み、道?」
「--------ワォ」
"ザッ ザッ ザッ ザッ------
草藪を抜け、少し歩いた先-----、
「さっき、あの征次が俺達と話しながら
頻繁にこっちの方を見ていた-----」
「ま、征次が?」
"ザッ ザッ ザッ ザッ------"
「・・・それに、征次は
何か、不自然に俺達から
意識を遠ざけるかの様に、
この場所を背にして
車の側のあの場所で立っていた-----」
「道・・・・」
「(--------)」
草藪の先に突然現れた、
あまり草が伸びていない
"道"の様な空間に征四郎が目を向ける
「すでに、かなり昔に
捨てられたはずのこの場所に、
なぜか、草があまり生えていない
こんな場所がある------」
「た、確かに妙だな」
「何でだと思う-----?
善波さん------?」
「・・・・!」