おめぇ握り寿司が食いてえ

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「血の家」 三十七雫

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「じゃあ、あれは、俺たち以外の

 

  叶生野の一族の人間が

 

 やったって言うのか!?」

 

「セイシロウ...それハ...」

 

前日の事件があった翌朝、

 

ジャン、征四郎、善波の三人は

 

叶生野の家のガレージに集まり

 

車の外で、昨日の出来事について

 

話しをしていた...

 

「冗談はやめてくれ!

 

  ウチの人間が何だって

 

  俺の車に火をつけたりするんだっ!?」

 

「ソウよ、セイシロウ-----」

 

二人は征四郎の言葉に声を荒げるが、

 

征四郎は冷たい眼差しを浮かべ二人に言葉を返す

 

「昨日の朝の、善波さんの車のパンク...

 

 更にそれに続けて、俺たちが

 

 叶生野の屋敷に帰って来た後に

 

  その車が、"誰か"の手で

 

 火をつけられた...」

 

「別に、誰か人がやったと

 

 決まった訳でもないだろうっ?

 

  自然に壊れたって事もあるんじゃないか!?」

 

「それにしたって、少し

 

  不自然過ぎるんじゃないか-----

 

  一日で、タイヤがパンクして

 

  更に、その車のエンジンから火が出るなんて

 

  まず考えられない」

 

「・・・・」

 

征四郎の言葉に理があると思ったのか、

 

善波は押し黙る

 

「それに、昨日車に置かれていた封筒...」

 

「"こいつ"の事か?」

 

"スッ"

 

善波は懐から、昨日、藤道の屋敷の駐車場で

 

車のフロントガラスに置かれていた

 

茶封筒を取り出す

 

"神代村の廃屋"

 

「この封筒の中に入っていた紙の中には、

 

 地図みたいなものと、文字でそう

 

 書かれてたみたいだが...」

 

「でも、だからナンだっていうのヨ」

 

「・・・・」

 

征四郎は善波が持っている紙に視線を向ける

 

「問題は、その紙に

 

  "何が"書かれていたと言う事じゃなく、

 

  "誰か"が、その紙を俺たちが乗った

 

 車の所に置いてったかと言う事じゃないか」

 

「・・・・?」

 

「それに、俺たちが叶生野の使用人から

 

 借り受けた車も、何故か

 

 調子がおかしかった訳だし...」

 

「-----誰かが、俺たちを狙ってるって事か?」

 

「・・・・」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「誰が俺たちを狙っているのか知らんが

 

 何、この叶生野の村は、ほとんど

 

  俺たちの身内ばかりだ。

 

  ソイツも俺たちを

 

 軽々(けいけい)と襲う事はできんだろう」

 

「・・・・」

 

「ブロロロロロロ....」

 

「そうは思わないか? 

 

  征四郎くん?」

 

「-----ええ、そうかも知れない」

 

「そうだろう-----、」

 

自分の考えを否定されたくないのか、

 

善波は口を開いた征四郎に視線を向けず、

 

まっすぐ、前の道路を見ている

 

「よし、とりあえず、

 

 この茶封筒の中に書かれていた

 

 地図の場所へ行ってみるか」

 

自分の中で、昨日の出来事の正合がついたのか

 

善波は、アクセルを力強く踏み込む

 

"ウォオンッッ"

 

「う、ウォゥ、ゼンバさん!」

 

「ああ、少し揺れたか」

 

「(----誰かが、俺たちを

 

  狙っているとしたら----)」

 

「ったく この軽自動車じゃ

 

 この山道を越えるのは

 

  けっこうキツいんじゃないかっ」

 

「・・・・」

 

善波が、自分の身内を疑いたくない事を

 

察した征四郎は、善波の言葉に

 

ただ、適当に相槌(あいづち)を打ったが...

 

「(------尤光、そして雅....、)」

 

今、自分達を狙う人間がいるとすれば、

 

その人間は、ほとんど限られた者しかいない。

 

「(おそらく、俺たちを狙ったのは

 

   この、叶生野の御代の

 

  跡目争いをしている誰かだ...)」

 

「血の家」 三十六雫

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「カチ カチ カチ カチ カチ...」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

時間は既に十二時を回り、

 

征四郎たち、そして叶生野一族の人間は

 

無言で、テーブルに付く

 

「・・・・」

 

征四郎がチラリと、少し離れた場所にいる

 

尤光たちに目を向ける

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

尤光たちは特に何かを喋る訳でも無く、

 

無言でテーブルの椅子に座っている

 

「・・・・」

 

「ガチャ」

 

「ゼンバ・・・」

 

「いや、ようやく警察や消防も

 

  帰って行ったな」

 

「大分時間がかかったみたいだが...」

 

「ガタンッ」

 

善波は勢いよく、征四郎、そしてジャンの隣の

 

空いている椅子に座る

 

「さあな、役所仕事ってのはそんなもんだろう」

 

「特にお変わりはありませんか-----」

 

「・・・・」

 

征四郎が顔を横に向けると、

 

そこには、執事の近藤の姿が見える

 

「変わるも何もあるかっ

 

  俺の車が台無しじゃないかっ」

 

「申し訳ございません-----」

 

「まあいい、とにかく、

 

  特に怪我人も無い様だ。

 

  それなら、それで気にする必要は無い」

 

「---------、」

 

近藤が沈んでいるのを察したのか、

 

善波は、声を荒げ、近藤に言葉を投げ放つ

 

「それより、早く食事にしてくれんかっ

 

  もう大分夜も遅くなったろうっ」

 

「-----直ちに」

 

"トッ トッ トッ トッ...

 

スーツの裾を返すと、近藤は

 

そのまま奥の厨房の方へ消えていく

 

「・・・・」

 

征四郎は、黙って向こうのテーブルに座っている

 

尤光兄妹、そして、その隣に座っている

 

雅とルーシーに視線を向ける

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

「血の家」 三十五雫

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「それじゃあ、また、後日な」

 

「ああ」

 

「ガチャ」

 

屋敷の玄関の前にいる

 

善波、征四郎、ジャンに向かって一言告げると

 

禎三は、屋敷の中へと引き返していく

 

「・・・・」

 

車に向かって歩きながら征四郎は、

 

隣にいる善波に向かって口を開く

 

「さっき、尚佐御大が

 

 どうのこうのって-----...」

 

「ああ、少し気になる事を言ってたな」

 

「アレ?」

 

「・・・・?」

 

征四郎が、車の前にいるジャンに目を向ける

 

「コレハ----?」

 

「何だ? ソイツは?」

 

「フロントガラスのトコロにナニかアルよ」

 

ジャンが、征四郎達が乗って来た

 

軽自動車に近付くと、

 

軽自動車のワイパーとフロントガラスの間に

 

茶色い、"封筒"の様な物が挟まれている

 

「・・・・?」

 

征四郎は、とっさに駐車場から

 

藤道の邸内を見渡すが、

 

特に周りに人がいる気配は無い

 

「・・・・」

 

「ガサッ」

 

ワイパーとフロントガラスの間に挟まっていた

 

封筒を善波が手に取る

 

「・・・これは...」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「キュルルルル」

 

「どうしたんだ? 善波さん」

 

「・・・故障みたいだな」

 

「さっきまでヘイキだったじゃナイ」

 

藤道の邸宅から、叶生野の屋敷の駐車場に戻ると

 

今、先程まで三人が乗っていた

 

叶生野の屋敷の使用人から借りた

 

軽自動車が、鈍い機械音を上げている

 

「・・・・」

 

「キュルルルルル」

 

「今朝も色々あったよな...」

 

善波が、しゃがみ込みながら車を下から覗き込む

 

「・・・・・」

 

「??」

 

「ワアッ」

 

「-----?」

 

突然、屋敷の入り口の辺りから

 

何人かの人の声が聞こえてくる

 

「・・・何だ?」

 

「-----さあ」

 

ザワ 

 

  ザワ

 

ザワ

 

「-------?」

 

「少し、気になるな...」

 

「何かあったのか?」

 

すでに日も落ちたせいか、

 

今いるガレージからは、声は聞こえてくるが

 

どうなってるかよく見えない

 

「-----とりあえず

 

 俺はここで車を見てるから、

 

  征四郎くん」

 

「------はい」

 

「ちょっと向こうを見て来てくれないか?」

 

「-------、」

 

「ワタシもイクよ」

 

「・・・・・」

 

"ザッ ザッ ザッ ザッ....

 

「(--------?)」

 

「ナニか、あったみたいネ」

 

ガレージから駐車場の方へ向かって歩いて行くと

 

玄関の前に、叶生野の使用人が

 

何人か集まっているのが見える

 

「(正之------)」

 

人だかりの側まで征四郎が近づいて行くと

 

そこには、正之、明人、尤光の姿が見える

 

「・・・・・」

 

"スッ"

 

「(-------?)」

 

屋敷の灯りが届くか届かないかの場所に、

 

一瞬、"人影"の様な物が

 

どこかに、消えて行った様な気がした

 

「せ、征四郎さま!」

 

「------近藤さん、」

 

人混みの中をかき分け、

 

執事の近藤が征四郎、ジャンの元に

 

駆け寄ってくる

 

「何か、あったのか?」

 

「い、いえ....」

 

「!」

 

「あ、アレ-----」

 

「車が・・・・」

 

"ボォォォオオオオオオオ----"

 

「も、燃えてるぞ」

 

近藤の後ろ、屋敷の玄関から少し離れた

 

道路を見ると、そこに

 

黒い、一台の外車が炎を上げ、

 

音を立てて燃えているのが見える

 

「(あれは------!)」

 

"ゴォォォオオオオオオオオオ"

 

「い、今、館の者が善波様の車の修理を終えて

 

 車を動かそうとしたところ、

 

  その車が突然、音を立てて-------!」

 

「中に人はいないのか-----!」

 

「え、ええ...

 

  どうやら、幸いにも、

 

  車を移動させた者は

 

 すぐに車から離れたおかげで、

 

  少し転んで怪我をした程度で

 

 済んだ様ですが------」

 

「------どうしたんだ?」

 

「・・・・・」

 

"スッ"

 

「?」

 

善波が駆けつけてくると征四郎は、

 

無言でまだ火が残っている善波の車を指さす

 

「あ、あれは-----!」

 

「血の家」三十四雫

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「じゃあ、ウチの祖父さんとも

 

  よく、一緒に回ったりしてたのか?」

 

手に持っていたゴルフクラブを壁に立て掛けると

 

善波は机に座っている禎三の方に振り返る

 

「まあ、頻繁にって程では無いが...

 

  今まで十回以上は一緒に

 

  回ってるんじゃないか?」

 

「だったら、その時に、

 

  次の御代に関して何か

 

  話しに出たりとかしなかったのか?」

 

「どうだろうな...」

 

禎三は、椅子を座り直す

 

「何回か一緒に回ったと言っても

 

  尚佐御代もウチの会長も

 

  かなりの年だからな...

 

  もう、一緒にゴルフコースを回ったのは

 

  何年も前だ」

 

「----じゃあ、次の御代の話題なんかは

 

  出る筈も無い...」

 

「それにしても、尚佐御代も

 

  話し方が、面白いよな」

 

「・・・そうか?」

 

「この辺りの出だって言うのに

 

  訛(なま)りとかもほとんど無いし、

 

  ずい分キレイな話し方をするしな...」

 

「ああ、お前のとこの祖父さんは

 

  かなり訛りがキツいからな...」

 

「まあ、言う程でも無いがな」

 

「そうか?」

 

禎三が少し不機嫌な様子に見えたのか、

 

善波は取り繕うような愛想笑いを浮かべる

 

「でも、尚佐御代とよく一緒に

 

  ゴルフをしてたんなら、

 

  かなり、尚佐御代の事を

 

 詳しくしってるのでは----?」

 

「ああ、」

 

禎三が征四郎の方に向き直る

 

「まあ、尚佐御代の人と形(なり)は

 

  そこらの人間よりは詳しくは

 

  知ってるんだろうが-----

 

  だからと言って、今回の件について、

 

  詳しく知ってる事は無い」

 

「でも、尚佐御代が

 

  今回、"征佐"を次の御代に

 

  指名したと言う事は、

 

  何か、以前からその征佐の事について

 

  話題に上がる事があったのでは・・・?」

 

「-----征四郎君」

 

禎三が机に両肘をつき、まっすぐ征四郎を見る

 

「-----何か」

 

「確かに、君の言う通り

 

  今回、次の御代に征佐が指名された事は

 

  何も、思い付きじゃない様な

 

 気はするが....」

 

「と言うと?」

 

「さっきは、余りこの御代の件に関して

 

 思い当たる事は無いと言ったが、

 

  よくよく尚佐御代とウチの会長の

 

  やり取りを思い返してみると、

 

  少し、引っ掛かると言うか-----」

 

「何だ? それは?」

 

善波が座っていたソファーから身を乗り出す

 

「どうも、色々、おかしなところが

 

 あると言うか----...」

 

「・・・・」

 

「ウチの会長は、この叶生野荘の近くの

 

  海辺から、内陸に少し入った場所の

 

 生まれなんだが...」

 

「そうらしいな」

 

「尚佐御代は、よく、ウチの会長が

 

 この辺りの地元の話をしても

 

  どうも、少し、この辺りの

 

 事情に疎(うと)いと言うか----」

 

「疎い?」

 

「そうだ。」

 

禎三が征四郎を見る

 

「言葉にも、この辺り特有の

 

  古い世代の訛りみたいな物が

 

  まるで無いし、この辺りの話をしても

 

  余りよくこの周辺の事情について

 

 詳しく知らなかった様だし...」

 

「それはおかしいな」

 

「そうだろう?」

 

善波が禎三に視線を向ける

 

「親父の生まれは、

 

 この叶生野荘の辺りだろう?」

 

「そうなんだが・・・」

 

「だったら、親父が

 

 この辺りの話を知らないはずは

 

 無いだろう」

 

「だが、そうは言っても、

 

  尚佐御代とウチの会長が話をしてる時には

 

 どうも、そんな、おかしな流れのやり取りを

 

  何度かしてたんだよな」

 

「・・・?」

 

善波と禎三のやり取りを聞いて

 

征四郎の頭に、尚佐の夫人

 

"満江"の事が浮かんでくる

 

「(・・・・)」

 

尚佐は、この叶生野荘にほど近い

 

叶生野の姓を冠する氏族の出自で、

 

若年の頃に、今の夫人である

 

叶生野家でも家格の高い

 

汐井の家の長女、満江を妻にする事で

 

この叶生野グループの中でも

 

かなり高い格式を得て有力な氏族の一員となり、

 

この叶生野の御代の座を

 

手に入れる事になったと聞いている

 

「もしかしたら、尚佐御代は、

 

  本当はこの辺りの出身じゃ無かったりしてな」

 

「・・・冗談だろう」

 

「言ってみただけだ」

 

「血の家」 三十三雫

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「----何か、飲むか?」

 

「いや、平気だ」

 

禎三に従い、屋敷の中を少し歩き、

 

階段を登ると征四郎たちは

 

広い、古めの洋館を思わせる様な

 

廊下にいくつも並んだ部屋の一室に通される

 

「・・・けっこう本を読むんだな...」

 

「・・・・」

 

「本だらけね」

 

十畳以上はある、奥にゆったりとした

 

机が置かれた部屋には、様々な絵画や、

 

彫細工が施された置物の様な物が置かれ

 

その周りを囲むようにして、部屋の壁一面に

 

大量の本棚が置かれている

 

「何、飾りだ。

 

  本をたくさん置いていると、

 

 賢そうに見えるだろ?」

 

禎三が大きく、古い、しっかりとした

 

机に肘(ひじ)を付きながら、

 

部屋の入口付近にいる三人に目を向ける

 

「そこに座ってくれ」

 

「----ああ」

 

三人は、机の斜め前に置かれた

 

ソファーに腰を下ろす

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「"征佐"と言われても...」

 

「やっぱり心当たりは無いか?」

 

善波の問いかけに、禎三は

 

目の前の机に置かれた珈琲のカップに口をつける

 

「俺も普段はこの、叶生野荘には

 

  あまり出入りしないからな...

 

  "征佐"、とただ名前を言われても、

 

  皆目見当がつかん」

 

「-----そうか...」

 

"ドスッ"

 

禎三の言葉を聞いて気落ちしたのか

 

善波は両手を頭の後ろに組み、

 

深く座っていたソファーに背中を預ける^

 

「お前のとこの、仁左衛門の祖父さんは

 

  ウチの尚佐の祖父さんとは、

 

  かなり親しかったろう?」

 

「ああ、そうだな-----」

 

「だったら、この藤道の所にくれば

 

  何か、少し手掛かりが

 

 あると思ったんだがな...」

 

「・・・・」

 

特に何か役に立つ話も無いのか、

 

禎三は椅子に座りながら、窓の外の景色を見ている

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

"スッ"

 

「こう言うのが、好きなのか?」

 

「----ああ」

 

ソファーから立ち上がると、

 

善波は部屋の中にいくつか掛けられた

 

額縁(がくぶち)に入った絵に視線を向ける

 

「特に、絵が趣味と言う訳でもないんだが、

 

  付き合いとかが色々あったりしてな...」

 

「中々、見事なもんじゃないか」

 

「俺にはあまり分からん」

 

壁に掛けられた絵を見ると

 

どうやら写実的な絵画の数はそれ程なく、

 

イメージを絵にした様な抽象的な絵が

 

いくつか掛けられている様だ

 

"スッ"

 

「------こいつは、お前のか?」

 

善波が、絵画の脇に置かれていた

 

ゴルフクラブを手に取る

 

「ああ、普段ゴルフをする機会が

 

 多いもんでな」

 

「----腕前はどんなもんだ?」

 

「あまり、人に自分から話せる程でも無いな。

 

  なんとかやってるだけだよ」

 

「そうか」

 

"スッ"

 

善波が、ゴルフクラブを本棚が並んだ

 

壁に置こうとする

 

「-----あ、」

 

「・・・?」

 

「そう言えば-----、」

 

壁にゴルフクラブを置こうとすると、

 

机の椅子に座っていた禎三が

 

何かを思い出したように口を開く

 

「その、お前が手に持ってる

 

 ゴルフクラブ----」

 

「・・・こいつの事か?」

 

「ああ、そのクラブ、そう言えば前に、

 

 ウチの会長とお前の祖父さん、

 

  尚佐御代と一緒にゴルフコースを

 

 回らせてもらった時にウチの会長が

 

 尚佐御代からもらった物なんだ-----」

 

「それが、何でここにあるんだ?」

 

「カチャ」

 

手に持っていたカップ

 

禎三は小皿の上に乗せる

 

「ウチの会長も大分年がいってるからな...

 

  それに、元々ゴルフクラブ

 

  いくらでも持ってるから、

 

  ちょうど俺がゴルフクラブ

 

  買おうかと思ってた時に、

 

  そいつを尚佐御代にもらったと聞いて

 

  俺がそのクラブをもらったんだ」

 

「そう言う事か」

 

「・・・」

 

「血の家」 三十二雫

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「ずいぶん、集まってるな-----」

 

「・・・・・」

 

"キィッ"

 

「ガチャッ」

 

征四郎、善波、ジャンの三人が

 

車を下りて藤堂の邸宅の前に着くと、

 

そこには、大勢の人間が集まっているのが見える

 

「親父が死んだから、

 

  おそらく村の外から

 

  叶生野に関りがある人間が

 

 集まって来てるんだろうな」

 

「葬儀に参列しに来たって事か----?

 

 もう葬儀の日取りは決まってるのか?

 

  善波さん?」

 

「どうだろうな...」

 

屋敷の駐車場に停められている、

 

車の周りに集まっている

 

人影に向かって善波が目を向ける

 

「なにせ、グループ企業の人間だけでも

 

  相当な数の人間がいるからな...

 

  ある程度、日を置かんと

 

  上手く葬儀の日取りも決められんだろうな」

 

「・・・・」

 

「とりあえず、その辺りは

 

  近藤が仕切ってるから、

 

  俺たちは特に何もする必要はない」

 

ザワ 

 

  ザワ

 

ザワ

 

「・・・善波!」

 

「禎三(ていぞう)・・・!」

 

駐車場にまばらにいる人影の中から、

 

一人の男が、善波に向かって大声を上げる

 

「大変な事になったな...」

 

恰幅(かっぷく)のいい、スーツを着た男は

 

善波を見つけると、少し慌てた様な素振りで

 

こちらに駆け寄ってくる

 

「ああ...」

 

「しかも、次の御代がお前や尤光ではなく

 

  "征佐"だとか言う...」

 

「聞いてるのか」

 

「・・・・」

 

禎三は、善波の言葉に含みを持った表情を見せる

 

「....今、この叶生野荘の

 

  ほとんどはその話題で持ちきりだ

 

 ・・・そちらは?」

 

善波の隣にいる征四郎、ジャンを見て

 

禎三は、視線を二人に向ける

 

「ああ、こっちは、

 

  "鴇与"。

 

  鴇与征四郎だ」

 

「・・・・!」

 

善波の言葉を聞いて、禎三が

 

驚いた様な表情を浮かべる

 

「き、君が、鴇与家の・・・」

 

「-----どうも」

 

「そして、こっちが、

 

  あー、知ってるか?

 

  フランスとか、アメリカで

 

  石油会社をやってる...」

 

「ジャン・アルベルト・トオノネ」

 

「フランス・・・」

 

「知らないのか?」

 

「・・・・」

 

ジャンの会社について聞き覚えが無いのか

 

禎三は、目を少し細める

 

「・・・叶生野の会社も、

 

  今は世界のそこら中に広がってる。

 

 ・・・

 

  俺みたいな狭い日本で商売してる

 

 人間には、少し、聞き覚えが無いな」

 

「そうか...」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

禎三から視線を外し、

 

善波は周りに集まっている人影に目を向ける

 

「かなり、人が集まってるみたいだな...」

 

「ああ----、」

 

周りに集まっているスーツ姿の、

 

会社員の様な格好をした人影を見て

 

禎三は沈んだ表情を見せる

 

「御代が急に亡くなるとはな...」

 

「急な話だったからな-----」

 

「・・・・」

 

禎三は再び、屋敷の周りに目を向ける

 

「御代が亡くなったと聞いて

 

  今、この叶生野荘には、

 

  叶生野と関りのある人間が

 

  かなり集まって来てるらしいぞ」

 

「そうみたいだな」

 

「・・・・」

 

屋敷の周りに集まった人波を

 

禎三、善波、征四郎、ジャンは、

 

無言で見ている

 

「-----それより、何か用か?

 

  会長に話でもあるのか?」

 

禎三が、目を伏せて下を向いている

 

善波に向かって口を開く

 

「・・・いや、会長、と言うよりは

 

  お前に話があってここに来たんだが...」

 

「ああ... 藤櫻(とうおう)會の所には、

 

  出入りしたくないって事か?」

 

善波は、軽く含み笑いをする

 

「ああ、お前の爺さんのとこの

 

  藤櫻會は、何かと面倒だからな...

 

  お前の桔梗会の方が話が通る」

 

「・・・何の用だ?」

 

「・・・・」

 

善波はぼんやりと、藤道の屋敷の方を見る

 

「ここじゃ、何だから

 

 少し、落ち着ける様な場所は無いか?」

 

「・・・だったら、屋敷に俺の書斎がある。

 

  そこでどうだ?」

 

「それがいいかもな」

 

「-----付いてきてくれ」

 

"スッ"

 

善波に背を向けると、禎三は

 

玄関の方に向かって歩いて行く

 

「カレは、ダレネ」

 

前を歩く禎三を見ながら、

 

征四郎の隣にいたジャンが善波に問い質す

 

「ああ、奴は、叶生野にいくつかある

 

 企業群の中でも、中国地方とかで

 

  物流をやってる、藤道財閥の会長、

 

 藤堂 仁左衛門の息子だ」

 

「"オンゾウシ"ってこと----?」

 

「"御曹司"-------。

 

  まあ、今は昔と違って

 

  親族経営の会社もあまりないからな。

 

  有り体(てい)な言い方をすれば、

 

  御曹司と言う言葉が当てはまるかも知れんが

 

  別に、奴が藤道グループの

 

 次の後継者と言う訳でも無い」

 

「------ソウ」

「血の家」 三十一雫

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「----善波様、車の方の手配が整いました」

 

「おお、そうか」

 

応接室の入り口から、

 

善波が征四郎たちの方に振り返る

 

「おい! 出発だ!」

 

「ようやくネ------、」

 

「時間がかかったな...」

 

「ガタ」

 

ジャンと征四郎が椅子から立ち上がり、

 

扉の前に立っている善波の元へ向かって歩く

 

「-----さっき言ってた"系図"ってのは

 

  まだ来てないのか?」

 

「そろそろ来ると思うんだが-----」

 

「・・・まあいい、とりあえず、

 

  今日は藤道の

 

  桔梗(ききょう)会の方に行ってみよう」

 

「ああ、九州とかに本社がある

 

  藤道物流の...」

 

「そうだ」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「しかし、雅もアレだな?」

 

「ブロロロロロロロロ...」

 

善波が車内に向かって声を上げる

 

「・・・ミヤビも、

 

  "ミダイ"

 

 にナリタイみたいネ?」

 

昼下がりの晴れ空の下(もと)、

 

征四郎、ジャン、善波を乗せた

 

軽自動車は、広々とした叶生野荘の

 

長い、まっすぐな道を走って行く

 

「雅のヤツ-----」

 

"善波兄さんには車を貸せない"

 

征四郎たちが、叶生野の人間が

 

買い出しから戻ってくるのを待っている間、

 

次女の雅が、征四郎たちのいる応接室に

 

食事を取るために訪れたが、

 

雅に車を借りようとすると

 

雅は言葉を継げる余裕すら見せず、

 

投げ放つ様に善波にそう、告げる

 

「減るもんでも無いし、

 

  一台くらい車使わせてくれれば

 

 いいんだがな...」

 

「-----まあ、雅からしたら

 

  車を貸さなければ、

 

  その間に自分たちは

 

 "征佐"の事を探すことができるから

 

  こっちに車を貸さない方がいいと

 

 判断したんじゃないか?」

 

「------意外とケツの穴の小さい女だな」

 

「-----Hah!」

 

「そうは思わないか-----? 

 

 ジャン-----?」

 

後ろの座席で噴き出しているジャンを

 

善波がフロントミラー越しに覗き見る

 

「"チゲェ"ネェ-----

 

   ゼンバサン-----?」

 

「・・・・!」

 

善波と征四郎が顔を見合わせる

 

「どこで覚えたんだ? 

 

  そんな言葉------?」

 

「ジャバニーズテレビで見たヨ」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「血の家」 三十雫

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「ダメだ。どうやら今、代わりの車も

 

 屋敷には無いらしい」

 

「代わりの車が無いって...」

 

征四郎は広い駐車場の屋内を見渡す

 

「これだけ人がいる家だったら

 

  代わりの車くらい

 

 いくらでもあるんじゃないのか?」

 

「それが、よく分からんが

 

  他の尤光や雅たちが自分の部下を使って

 

  この家の屋敷の車を

 

 全部乗ってったみたいだな」

 

「・・・・」

 

「ドウしたの? セイシロウ-----?」

 

「・・・いや」

 

「これだけ広い叶生野荘だからな。

 

 車無しで移動するのは時間がかかる」

 

「--------」

 

「とにかく、別の、

 

 この屋敷の使用人の車でもいいから

 

 使えるかどうか聞いてみるか」

 

「そうした方がいいか-----」

 

「よし、一旦中に戻ろう」

 

「・・・・・」

 

「征四郎くん?」

 

善波が後ろを振り返ると、征四郎は足を止め

 

パンクしたタイヤの辺りを見ている

 

「・・・いや」

 

「---------、」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ああ、どうやら後少ししたら、

 

  車が屋敷に戻ってくるみたいだ」

 

「戻ってくる?」

 

「屋敷の人間が、今外に買い出しに行ってるから

 

 そいつが戻ってきたら

 

 その車を使えると近藤が言ってたな」

 

「--------、」

 

「クルマないと、コマルでしょ?」

 

「-----そうだな」

 

三人は駐車場から屋敷の中へと引き返し、

 

再び、応接室のテーブルにつく

 

「そう言えば....」

 

「・・・何だ?」

 

特にやる事が無いのか、人差し指と親指で

 

伸び切った髭を引いている善波を

 

征四郎が見る

 

「昨日、俺たちが行った

 

  "神代"の集落-----...」

 

「ああ、征佐はいなかったな」

 

「それはそれで仕方が無いが-----」

 

"ピンッ"

 

善波は引き抜いた自分の髭(ひげ)を

 

人差し指で絨毯の上に弾く

 

「一つ、気付いたんだが-----」

 

「----何がだ」

 

「・・・・・」

 

"ガシ ガシ"

 

元々、今回の御代の件には関心が無いのか、

 

善波はあまり緊張感の無い表情を浮かべている

 

「昨日行った神代の集落では、

 

  その集落の男子の名に

 

  "征"の字をつける------」

 

「・・・・」

 

ふと、征四郎がジャンの方に目を向けると

 

ジャンも自分の話にあまり興味が無いのか

 

目を閉じて下を向いている

 

「男子の名前に"征"の字を使うのは

 

  俺の家-----...

 

  "鴇与家"と、同じ様な形式だ」

 

「ぁああああああぁあ」

 

「・・・・」

 

「-----ソレで?」

 

欠伸(あくび)をしている善波を無視して、

 

征四郎は話を続ける

 

「それに、神代の集落の中で使われている姓には

 

  "鳥"に関わる字や、

 

  その他の特徴-----、」

 

「トリは、キレイね」

 

「これは、鴇与家の名字にも

 

  かなり関りがあると思う」

 

「・・・・」

 

そろそろ昼時で腹が空いているのか

 

善波が気の無い表情で征四郎を見る

 

「これから考えると、

 

  神代の集落、そして、俺の

 

  "鴇与家"には、何か、

 

  深い繋がりみたいなものが

 

 あるんじゃないか-----?」

 

「ああ、そうかも知れんな」

 

「そうでしょう-----?」

 

善波も、薄々その事には気付いていたのか、

 

余り驚かず、征四郎の話を聞いている

 

「そして、今回の御代の後継ぎと言われている

 

  "征佐"-----。」

 

「ああ、そう言えば、その征佐も

 

  征の字を使うんだな」

 

「"セイ"ってのは、ドウいういみ?」

 

「・・・・」

 

征四郎はそのまま言葉を続ける

 

「征の字を名前に付け始めたのは、

 

  神代の集落の先祖から

 

  数代後の御代、

 

  叶生野 征和からだと聞いた-----」

 

「・・・・」

 

善波は、征四郎と

 

目線を合わせない様にしているのか

 

黙って征四郎の胸元辺りを見ている

 

「-----けっこう、体格がいいんだな。」

 

「-----ええ。」

 

「セイシロウは、つよそうネ」

 

「-----ああ」

 

「・・・・」

 

二人が話題を変えようとしているのを

 

何となく征四郎は感じたが、

 

征四郎はそのまま話を続ける

 

「つまり、"征佐"の存在を知るには、

 

  "征"の字を使う一族、

 

  この叶生野荘の神代の集落や

 

 俺の家、"鴇与家"の

 

  その成り立ちを知れば

 

  かなり、征の字に関して

 

  色々分かって来るんじゃないか----」

 

「・・・なるほどな」

 

少し征四郎の話に興味が出て来たのか、

 

善波は、椅子を座りなおす

 

「とりあえず、そう思って、

 

  今、俺の実家に鴇与家の系図の写しを

 

  送ってもらう様に手配してるんだが----」

 

「すぐ来るのか?」

 

「少し時間はかかると言ってたが、

 

 午後になれば多分

 

  携帯で見れる様になると思う」

 

「------そうか。」

 

「血の家」 二十九雫

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「・・・・・」

 

「ガチャ」

 

寝室で目を覚まし、征四郎は

 

二階から一階の応接室に下りて扉を開ける

 

「・・・・」

 

広い、招待客用のテーブルが

 

いくつも並んだ部屋の中には、

 

この叶生野家の使用人以外

 

叶生野の一族の姿は見えない

 

「(・・・・)」

 

適当に空いてるテーブルの椅子に腰を下ろすと、

 

征四郎は、部屋の隅にいる近藤に目を向ける

 

「(---------)」

 

「ガチャ」

 

「セイシロー!」

 

「ジャン・・・」

 

「今日は、いいあさネ」

 

ジャンが、征四郎に少し遅れて

 

部屋の中に入ってくる

 

「あれ? 今日は、誰もいないみたいネ」

 

「・・・・」

 

「みんな、"セイスケ"をさがしに行った?」

 

「・・・・」

 

この場に叶生野家の他の人間がいない事に

 

ジャンが何か関心を抱いている様だが、

 

征四郎はそれより昨日の夜の事が気になった

 

「・・・ワォ」

 

「ジャン、おまえ、昨日...」

 

ジャンが自分の席の近くに座ると

 

征四郎は、ジャンに顔を向ける

 

「-----ナニ? きのう?

 

  何かあった?」

 

「・・・・」

 

「いや------」

 

ジャンの様子から何か分かるか

 

征四郎は無表情でジャンの様子を伺い見るが、

 

ジャンの様子はいつもと変わらない様に見える

 

「お前、昨日の夜------」

 

「ヨル? よるがどうかした?」

 

「昨日俺たちが帰った後、

 

  お前、庭の外で、雅と会ってなかったか?」

 

昨晩、征四郎は自分の部屋の下で

 

雅と、ジャンによく似た男が

 

話をしていた事をジャンに尋ねる

 

「・・・

 

  オー、 ミヤビね」

 

「会ってたのか?」

 

「・・・・」

 

征四郎の言葉には答えず、ジャンは

 

あまり人気の無い部屋の中を見渡す

 

「それは、よくワカラナイよ-----」

 

「・・・・」

 

"ガラ"

 

「朝食で御座います-------」

 

「ワァオ、セイシロー

 

  ショクジの時間ネ」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「オゥ、コレ、ジャパニーズ、

 

  "ワショク"じゃナイ?」

 

「本日の朝食は、

 

  ジャン様のお気に召されるよう

 

  我々執事一同が考え、

 

  懐石料理をお出しいたしました-----」

 

カイセキ? なに? ソレは-----?」

 

「(--------、)」

 

あまり、話の腰を折るのも何だと思ったのか

 

征四郎は、それ以上深く尋ねる事はせず

 

近藤が目の前に置いた懐石料理の椀(わん)に

 

箸を付ける------

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ちくしょうっ!

 

  何なんだっ!? こいつはっ!?」

 

「・・・・?」

 

「この野郎っ!?」

 

"ゴンッ!"

 

「ナニ、あれ? クルマけってるよ」

 

「--------、」

 

「ダメだ、ダメだ!

 

  こりゃ、すぐには直らんぞ!?」

 

「善波さん...」

 

朝食を食べ終えた征四郎、そしてジャンが

 

善波との約束通り、屋敷のガレージに顔を出すと

 

そこには、自分の車の前で

 

大声を上げている善波の姿が見える

 

「"パンク"だな----。

 

   こりゃ。」

 

「パンク?」

 

「昨日は何ともなかったんだが...」

 

「ウォウ、 コレ、 ヒドイね」

 

"シュゥゥゥウウウウウウ"

 

征四郎が善波の車の後ろ側のタイヤを見ると、

 

タイヤから空気が漏れ出て

 

善波の車の車体が軽く傾いている

 

「・・・パンクで、普通こんな空気音がする程

 

  空気が漏れる事があるのか?」

 

"シュゥゥウウウウウウウウーーーー"

 

「いや、------」

 

善波はしゃがみ込みながら、

 

空気が漏れているタイヤに手を伸ばす

 

「パンクしてるのに気付いて、

 

  自分で修理しようと思って色々やってたら

 

  余計ひどい事になっちまってな...」

 

「・・・て事は、昨日神代の家に行った

 

 帰り道でパンクしたって事か?」

 

"パン パン"

 

「おそらく、そうだろうな-----」

 

手をはたきながら、善波は立ち上がる

 

「これじゃ、今日はこの車、使えんぞ」

 

「かわりのタイヤとかアルんじゃないの?」

 

ジャンの言葉に、善波は

 

「しまった」

 

と言うような表情を浮かべる

 

「いや、俺も叶生野の家に来るのは

 

 急だったからな、

 

  車に替えのタイヤを積んでないんだ」

 

「-----別の車のタイヤ

 

 使えばいいんじゃないか?」

 

「----それは無理だ」

 

"バンッ!"

 

「っ」

 

パンクしたタイヤを蹴り飛ばしながら

 

善波が征四郎を見る

 

「この車は外車だからな。

 

  タイヤもこの辺りの店じゃ、

 

  簡単には手に入らん」

 

「・・・・」

 

善波の車に視線を向けると

 

今まで興味が無かったが、

 

確かに、善波の車は

 

日本ではあまり見かけない様な車だ

 

「----代わりの車は無いのか?」

 

「・・・そうだな。

 

 とりあえず、今近藤に聞いてみるから、

 

  少しそこで待っててくれ」

 

「・・・・」

 

「血の家」 二十八雫

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"しかし、驚いたな-----

 

 尚佐御大がよく、鷺代の家に来て

 

 茶碗や陶器を作っていたとは-----"

 

「(・・・・)」

 

「ガタ」

 

征四郎は寝台から起き上がると

 

暗闇の中、近くの小机に置いてあった

 

水のボトルを手に取る

 

「(--------...)」

 

"それに、神代の集落に

 

 "征"の字の人間が多いのは、

 

 左次郎の後の征和の影響なんだって?"

 

「(・・・・・)」

 

先程、招待客用の応接室で食事を取っていると

 

聞きもしないのに、明人は、

 

嫌らしい笑みを浮かべながら、

 

征四郎たちが鷺代の家で征次に聞いたことを

 

告げて来た

 

"嫌らしい野郎だ"

 

おそらく、明人は一旦鷺代の家から

 

帰った様な素振りを見せて

 

自分と、征次の話を鷺代の家の外で

 

立ち聞きしていたのだろう。

 

「・・・・」

 

"サァァァァアアアアアアア------

 

「(・・・・)」

 

屋敷の庭に植えられている槙(まき)の木が

 

風に揺られているのか、静かな音を上げている

 

「・・・・」

 

「コト」

 

征四郎は水のグラスをテーブルの上に置き、

 

窓の外の暗闇に目を向ける

 

「・・・・?」

 

「ガサッ」

 

"タッ タッ タッ タッ...

 

「(人・・・?)」

 

征四郎がいる二階の窓から

 

見下ろした場所に立っている中でも、

 

一際大きな槙の木の下。

 

「-------っ」

 

「~~~~?..??」

 

「("雅"-------)」

 

その大きな木の枝のカサに隠れる様にして

 

叶生野家の次女、羽賀野 雅の姿が見える

 

「(--------もう一人...)」

 

「~~~! ----??」

 

「-----!? ------...」

 

更に、その木の幹の枝の下に

 

隠れる様に立っている雅の隣に、

 

一人の、背の高い、スーツ姿の男が見える

 

「・・・・」

 

夜で明かりが無いせいか

 

雅の姿は確認できるが、

 

その雅の隣にいる男の姿が誰かは判別がつかない

 

「(・・・・)」

 

「~~~~、

 

  ----??、

 

 ---------。」

 

「! 、、、、、

 

  -------??」

 

「血の家」 二十七雫

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「この神代の集落の中にも、

 

  "征佐"はいなかったって事か...」

 

すでに日が暮れ、夜になった

 

薄暗い道を、善波の車に乗り

 

三人は叶生野の屋敷へと引き返す

 

「どう思う? 征四郎くん?」

 

「-------、」

 

「聞いてるのか?」

 

「"!"

 

  あ、ああ----」

 

「-----大分疲れも溜まってる様だな...

 

  もうすぐで、叶生野の屋敷に着く。

 

  今日はここらで切り上げるとしよう」

 

「ええ------」

 

「明日は、どうスルの?」

 

「そうだな...」

 

「だか-----、

 

 -----そ、、、」

 

「------じゃナイ?」

 

「("鳥"------)」

 

「-----で、ょ?」

 

「------みたいだな。」

 

「(そして、"征"の字-----)」

 

「だったら、-----とオモ,,」

 

「それも------かもな」

 

「(・・・・)」

 

二人のやり取りを横で聞き流しながら

 

征四郎は、征次が言っていた言葉を思い返す

 

「("征"の字------、

 

   そして、"鳥"-----...

 

   この二つは------)」

 

征四郎の家、"鴇与家"

 

その名前にも、神代の集落の人間と同じ様に

 

男子には"征"の字を名付け

 

そして、"鴇与"。

 

その名字には神代の集落で使われる様な

 

鳥の名前や、更にこの村で

 

よく使われている様な姓の

 

"代"や、"与"などの字が入っている

 

「(もしかしたら、鴇与家は

 

   この神代の集落と

 

   かなり近い

 

  関係なんじゃないか----?)」

 

「おい-----四郎くん?」

 

「----シロウ?」

 

「(だが、そうだとしても----)」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「カチャ」

 

「カチャ」

 

「・・・・」

 

「ああ、もう食事を取ってるのか?」

 

「・・・」

 

「・・・・」

 

征四郎、善波、ジャンの三人が

 

叶生野の屋敷の応接室に入ると

 

そこには、すでに、尤光、正之、明人が

 

皿を並べ、テーブルの上に乗せられた料理に

 

食器を付けている

 

「・・・俺達も食事にするとするか。

 

 -----近藤、」

 

「-----はい」

 

尤光たちが自分の言葉に何の返事もしない事に

 

何一つ関心を持たず、善波は席に着いて

 

少し離れた場所にいる近藤を呼び寄せる

 

「そろそろ、食事の仕度にしてくれんか」

 

「------かしこまりました」

「血の家」 二十六雫

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「じゃあ、その、征和の名前の文字を取って

 

 この神代の人間は

 

 "征"の字を使う事になったのか...」

 

「そうでございます」

 

善波の言葉を聞いて、征次は

 

自分の手元にある別の水色の皿を手に取る

 

「どうやら、尚佐さまの遺言では

 

 次の御代は、征佐と名乗る

 

 方の様ですが-----」

 

「征佐と名乗る人間は、

 

  この神代の集落にはいないんだろう?」

 

「残念ですが...

 

  この集落は人もそこまで多くない。

 

  私の知る所では、

 

  "征佐"と言う名前の人間を

 

  この集落では存じ上げておりません」

 

-----

 

-------

 

---------...

 

「ああ、そう言えば-----」

 

「何でしょう」

 

征四郎は、この神代の集落で

 

一つ、気になった事を思い出す

 

「この、神代の集落の中では

 

  何か、その、使われている名字に、

 

 特定の偏りみたいな

 

 物がある様な気が------」

 

「お気づきになられましたか」

 

"鷺代"、"神代"、"山羽"、

 

"鳥井"、"与田"、"鴇矢"....

 

「何か、こう、代や、与、

 

  そして鳥に関係する様な姓を使ってる

 

  人間が多い様な・・・」

 

神代の集落の中で見た

 

所々の家の表札に書かれていた

 

名字の事を征四郎は思い出す

 

「その通りです-----、

 

  この辺りは、山間の景色が

 

  中々よろしいせいか、

 

  この神代の集落に移り住んだ

 

 我々の祖先は、征和様が

 

  鳥をお飼いになられてた事、

 

  そして、この辺りの鳥の名前に関する名に、

 

  征和様の旧姓である、

 

 神代の"代"の字を取り、

 

  その姓に付けている者が

 

 多いのです」

 

「なるほど」

 

「・・・・」

 

「じゃあ、この神代集落の人間に

 

 ある程度共通した様な名字や名が使われてるのは

 

 その、征和から取ったって事なのか...」

 

「そうでございます」

 

「・・・・」

 

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「どうぞ、お入りください-----」

 

「ああ、じゃあ。」

 

「(--------)」

 

古い、藁葺(わらぶき)の

 

土蔵(どぞう)の様な家屋の入り口を抜け、

 

善波が土の土間の上で靴を脱ぐ

 

「ドソクは、ダメ?」

 

「・・・・」

 

「ガタッ」

 

「・・・・」

 

土間から、古い木目調の木造りの床の上に

 

善波が上がったのを見て、

 

征四郎、そしてジャンもそれに続く

 

「どうぞ、お掛けください------」

 

「・・・・」

 

征次(まさつぐ)と名乗った男が

 

座敷の端の方から座布団を取り出すと、

 

三人は、天井の高い、座敷の中央に置かれた

 

いろりを囲むように並んで座る

 

「("征次"------)」

 

「さっきのは、何だったんだ-----?」

 

「いえ...」

 

いろりの反対側に座った征次を見て

 

善波が、先程の

 

征次と明人とのやり取りを問い質(ただ)す

 

「大分、慌ててたみたいだが-----...」

 

「いえ...」

 

「-----何かあったとか?」

 

「・・・・」

 

征次が、征四郎の方に向き直る

 

「いえ、あの、叶生野の-----、

 

 明人様と申しましたか。

 

 あの方は、突然この場所に

 

  兄の正之様と現れて、

 

  矢継ぎ早に色々

 

 お尋ねになるものですから-----」

 

「ああ、あいつは、

 

  この叶生野荘の人間は全部自分の

 

  部下か何かと思ってるからな」

 

「そうですか。」

 

善波の言葉に、落ち着きを取り戻したのか

 

征次は背中を伸ばし

 

善波、征四郎、そしてジャンに向かって

 

冷えた視線を浮かべる

 

「征次さん、アンタは------」

 

「尚佐さまの事ですか?」

 

「-----ああ、そうだ。

 

  尚佐の祖父さんが生前、

 

 よくこの鷺代の家に

 

  顔を見せていた様だが...」

 

「・・・・」

 

まだ、尚佐が亡くなってから

 

日も浅いせいか、善波の言葉に

 

征次は気落ちした表情を見せる

 

「ええ....

 

  尚佐様は、仕事がある程度

 

 目途(めど)が付いたと言って

 

  この鷺代の家でよく

 

  色々な物を作って

 

 おいでになられました-----」

 

「さっきの外にあった

 

  窯(かま)とかがそうか?」

 

「・・・・」

 

「スッ」

 

「?」

 

征次は、立ち上がると何も言わず

 

奥の方へ消えていく

 

「・・・ずい分、マイペースな爺さんだな」

 

「・・・・」

 

「カタッ」

 

少しすると、手に何かを持ちながら

 

征次は征四郎たちの側に近付いてくる

 

「それは-------」

 

「これは、尚佐様がこの鷺代の家で

 

 お作りになられた、

 

  "皿"で御座います------」

 

「・・・・」

 

善波が、征次の手に握られていた

 

深い緑色をした円い皿を手に取る

 

「これを尚佐祖父さんが-----、」

 

「はい。」

 

「じゃあ、ナオサプレジデントは、

 

  ここで、その"サラ"を作るために

 

  よく来てたってコト?」

 

「そうです-----」

 

立っていた征次が、座布団の上に座る。

 

「ある程度自分の仕事に区切りがついたのか、

 

 元々、焼き物に興味があったのかは

 

  分かりませんが、

 

 尚佐さまは、ここ数年

 

 よく、この鷺代の家に

 

  お出でになられていました-----」

 

「-----征次さん」

 

「------はい」

 

征四郎が、座っている征次を見る

 

「あなたの名前------、」

 

「征次ですか?」

 

「-----ええ。

 

  どうやら、この神代の集落には、

 

  "征"と言う字を使う

 

 男性が多いみたいだが...」

 

「・・・・」

 

「征次さん、アンタも、

 

  "征"の字が付くんだろう?」

 

「・・・・」

 

「-------、」

 

征次は善波の言葉に答えず、

 

何か、重苦しい雰囲気で、

 

善波の手に握られている深緑色の皿に目を向ける

 

「・・・・」

 

「この集落の人間に、

 

  "征"の字を使う人間が多いのには

 

  何か理由があるのか?」

 

「・・・・」

 

少し間を空け、征次は、口を開く

 

「元々、この神代の集落は

 

  この叶生野荘の他の家と同じく、

 

  ご先祖の、左次郎様の家から

 

  繋がる家系でした------。」

 

「ああ、確か、商家をやっていたとか・・・」

 

「そうです。

 

  叶生野家の歴史は御存じですか?」

 

「・・・・」

 

征次の言葉を聞いて、征四郎の言葉が止まる

 

「-----まあ、お若いでしょうから

 

 無理もない。」

 

「・・・・」

 

「この、神代の一族が大きく栄えたのは、

 

  その、左次郎から数代経た後の

 

  征和(まさかず)さまが、明治の大戦の

 

  軍需物資の流通の流れに預かり、

 

 その家を各所に広めていったのが

 

  始まりなのです------」

 

「・・・」

 

すでに百年以上も昔の話だ

 

征四郎には、征次が

 

何を話しているかがよく分からない

 

「そして、その征和さまの

 

  家から、分家し、分かれて

 

  様々な姓を名乗った者が多くいるのが、

 

  この神代の集落なのです-------」

「血の家」 二十四雫

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「貴様っ!?

 

  何だっ その態度は!?」

 

「・・・私は、何も、

 

  明人さまの言葉に

 

  逆らうつもりなど------」

 

「仮にもお前は、この、叶生野の荘の

 

  人間だろう!?

 

  それで叶生野の一族の私に向かって

 

  その口振りは何だ!?」

 

「ガチャ」

 

「(明人------)」

 

「尚佐御大は、生前よくここに

 

  来てたんだろう!?」

 

「確かに、それはその通りですが...」

 

「ナニ、あれ」

 

「明人と正之みたいだな-----、」

 

征四郎たちの車が、

 

なだらかな山道の中腹辺りの

 

家屋の先で車を止めると

 

その庭に、明人、そして正之が

 

何か怒鳴り声を上げながら

 

目の前の作務衣(さむえ)姿の男に

 

大声をあげているのが見える

 

「確かに以前、尚佐さまは

 

  この鷺代の家にはよくお越しに

 

 なっておられましたが-----」

 

「だったら、御代はここで

 

 何かをしていたって事だろう?」

 

「お、おい、明人」

 

「(・・・・)」

 

かなり距離がある征四郎たちに聞こえる様な

 

怒鳴り声を上げている明人に、

 

その隣にいる正之が宥(なだ)める様に

 

明人を諭(さと)す

 

「どこで、その話を聞いたかは知りませんが、

 

  特に、尚佐さまがこの家で

 

  何かをしていたと言う事は------」

 

「この家で、茶碗でも作ってたと言うのか!?」

 

"ガチャンッ"

 

「あ、それは------」

 

「御代程の人間が、わざわざこんな山外れまで来て

 

  いそいそと茶碗作りでもしてたと言うのか!?」

 

「お、おい------」

 

明人が、土窯(つちがま)の脇に置いてあった

 

茶碗の様な器を地面に叩きつけたのを見て

 

隣にいた正之が明人を止めに入る

 

「言え! 御代は、

 

  ここで何をしていたんだ-----!?」

 

「その様な扱いをされる方に

 

 私は話す事はありません------」

 

「な、なんだと!?」

 

「・・・・」

 

ふと、征四郎が脇に目を向けると

 

いつの間にか隣にいた善波がいなくなっている

 

「おい、明人-------」

 

「っ-----、

 

  兄さん」

 

「何を興奮してるかは分からんが

 

  少しは落ち着け------、」

 

「・・・

 

 -------チッ」

 

"バッ"

 

自分の肩に手を置いていた正之の手を

 

明人は振りほどく

 

「・・・・・」

 

"ザッ ザッ ザッ ザッ-----

 

「お、おい、行くのか?」

 

「--------」

 

「ガチャ」

 

明人はそのまま

 

正之の言葉に返事をせず、車に乗り込む

 

「何だ? 何があったんだ?」

 

「あなたは-----?」

 

突然話に入って来た善波に

 

男は戸惑った様な表情を見せる

 

「ああ、俺は------、

 

  アイツの兄貴だ」

 

「では、"叶生野"の-----?」

 

「ああ、善波だ

 

  アンタは、鷺代の家の人間か?」

 

「------ええ。」

「血の家」 二十三雫

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「ダメだ! 何も分からんな!?」

 

「-----ええ。」

 

「"セイスケ"は、

 

  ここにはいないみたいだヨ------、」

 

昼から、数時間ほど時間を掛け

 

この神代の集落を回り、何か征佐の

 

手掛かりに繋がりそうな事は無いかと

 

いくつか神代の集落の家を訪ねてみたが...

 

「まあ、確かに、この集落には

 

  "征"の字が名前に入ってる

 

  男は多いようだが....」

 

「それが、ナニよ」

 

「-----それも、そうだ」

 

征四郎たちは、先程尤光と会った

 

軽食屋の軒先の長椅子に座り、

 

暮れかけている夕陽に目を向ける

 

♫ ピロリロリン

 

「-----?」

 

「------近藤か」

 

「ああ」

 

突然、携帯の着信音が鳴り

 

善波が携帯を手に取る

 

「-----どうした、近藤!

 

  何か分かったのか!?」

 

「【------ええ、一応は....】」

 

「(・・・・)」

 

あまりに手掛かりが無い事に焦れたのか、

 

善波はどうやら叶生野の屋敷にいる執事の近藤に

 

この神代の集落について調べさせていた様だ

 

「この、神代の集落には、

 

  "征"の字の人間が多いんだろうっ!?

 

  だったらっ ここに

 

 "征佐"がいるんじゃないのかっ!?」

 

「【そこまでは、

 

  分かりかねます-------】」

 

「だったら、何か他に

 

 分かった事でもあるのか!?」

 

「【-------ええ。】」

 

「何だっ!?」

 

「・・・・」

 

特に考える事も無いのか、

 

征四郎、そして隣に座ったジャンは

 

ただ、携帯に向かって怒鳴りつけている

 

善波を見ている

 

「【-----今回の御代の件に

 

  関りがあるかどうかは

 

   分かりませんが、

 

   お亡くなりになられた

 

  尚佐さまの事に関して

 

   少し分かった事が------...】」

 

「祖父さんのっ!? 何だっ!?」

 

「【・・・

 

   どうやら、今、善波さま、

 

   そして、征四郎さま、ジャンさまが

 

   おられる神代の集落------】」

 

「ああ、今いるぞっ」

 

「【どうやら、その、神代の集落の

 

   ある家に、尚佐さまは、

 

   よくお顔出しを

 

  なされていた様なのです-----】」

 

「家っ!? どこの家だっ!?」

 

「【その神代の集落の手前から少し進んだ先、

 

   神代の集落の外れに鷺代家(さぎしろけ)

 

  と言う家が御座います-----、】」

 

「鷺代っ!? 何だっ!? 

 

  ソイツはっ!?」

 

「・・・・

 

  ツー、ツー...」

 

「あ、 お、おい!?」

 

「ツー....」

 

「どうしたんだ?」

 

「いや、で、電話が------」

 

「ゼンバさん、ウルサイから、

 

  電話切られたんじゃナイ?」

 

「-----そうかもな...」

 

"スッ"

 

善波は、携帯をズボンのポケットに入れる

 

「どうやら、この場所の少し先に

 

  "鷺代"と言う家があって、

 

  尚佐祖父さんは、そこによく

 

  顔を出してたそうだ------」

 

「鷺代・・・」

 

「とりあえず、そこに行ってみるか」

 

「・・・・」