「血の家」 三十一雫
「----善波様、車の方の手配が整いました」
「おお、そうか」
応接室の入り口から、
善波が征四郎たちの方に振り返る
「おい! 出発だ!」
「ようやくネ------、」
「時間がかかったな...」
「ガタ」
ジャンと征四郎が椅子から立ち上がり、
扉の前に立っている善波の元へ向かって歩く
「-----さっき言ってた"系図"ってのは
まだ来てないのか?」
「そろそろ来ると思うんだが-----」
「・・・まあいい、とりあえず、
今日は藤道の
桔梗(ききょう)会の方に行ってみよう」
「ああ、九州とかに本社がある
藤道物流の...」
「そうだ」
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「しかし、雅もアレだな?」
「ブロロロロロロロロ...」
善波が車内に向かって声を上げる
「・・・ミヤビも、
"ミダイ"
にナリタイみたいネ?」
昼下がりの晴れ空の下(もと)、
征四郎、ジャン、善波を乗せた
軽自動車は、広々とした叶生野荘の
長い、まっすぐな道を走って行く
「雅のヤツ-----」
"善波兄さんには車を貸せない"
征四郎たちが、叶生野の人間が
買い出しから戻ってくるのを待っている間、
次女の雅が、征四郎たちのいる応接室に
食事を取るために訪れたが、
雅に車を借りようとすると
雅は言葉を継げる余裕すら見せず、
投げ放つ様に善波にそう、告げる
「減るもんでも無いし、
一台くらい車使わせてくれれば
いいんだがな...」
「-----まあ、雅からしたら
車を貸さなければ、
その間に自分たちは
"征佐"の事を探すことができるから
こっちに車を貸さない方がいいと
判断したんじゃないか?」
「------意外とケツの穴の小さい女だな」
「-----Hah!」
「そうは思わないか-----?
ジャン-----?」
後ろの座席で噴き出しているジャンを
善波がフロントミラー越しに覗き見る
「"チゲェ"ネェ-----
ゼンバサン-----?」
「・・・・!」
善波と征四郎が顔を見合わせる
「どこで覚えたんだ?
そんな言葉------?」
「ジャバニーズテレビで見たヨ」
「・・・・」
「・・・・」