おめぇ握り寿司が食いてえ

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「血の家」三十四雫

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「じゃあ、ウチの祖父さんとも

 

  よく、一緒に回ったりしてたのか?」

 

手に持っていたゴルフクラブを壁に立て掛けると

 

善波は机に座っている禎三の方に振り返る

 

「まあ、頻繁にって程では無いが...

 

  今まで十回以上は一緒に

 

  回ってるんじゃないか?」

 

「だったら、その時に、

 

  次の御代に関して何か

 

  話しに出たりとかしなかったのか?」

 

「どうだろうな...」

 

禎三は、椅子を座り直す

 

「何回か一緒に回ったと言っても

 

  尚佐御代もウチの会長も

 

  かなりの年だからな...

 

  もう、一緒にゴルフコースを回ったのは

 

  何年も前だ」

 

「----じゃあ、次の御代の話題なんかは

 

  出る筈も無い...」

 

「それにしても、尚佐御代も

 

  話し方が、面白いよな」

 

「・・・そうか?」

 

「この辺りの出だって言うのに

 

  訛(なま)りとかもほとんど無いし、

 

  ずい分キレイな話し方をするしな...」

 

「ああ、お前のとこの祖父さんは

 

  かなり訛りがキツいからな...」

 

「まあ、言う程でも無いがな」

 

「そうか?」

 

禎三が少し不機嫌な様子に見えたのか、

 

善波は取り繕うような愛想笑いを浮かべる

 

「でも、尚佐御代とよく一緒に

 

  ゴルフをしてたんなら、

 

  かなり、尚佐御代の事を

 

 詳しくしってるのでは----?」

 

「ああ、」

 

禎三が征四郎の方に向き直る

 

「まあ、尚佐御代の人と形(なり)は

 

  そこらの人間よりは詳しくは

 

  知ってるんだろうが-----

 

  だからと言って、今回の件について、

 

  詳しく知ってる事は無い」

 

「でも、尚佐御代が

 

  今回、"征佐"を次の御代に

 

  指名したと言う事は、

 

  何か、以前からその征佐の事について

 

  話題に上がる事があったのでは・・・?」

 

「-----征四郎君」

 

禎三が机に両肘をつき、まっすぐ征四郎を見る

 

「-----何か」

 

「確かに、君の言う通り

 

  今回、次の御代に征佐が指名された事は

 

  何も、思い付きじゃない様な

 

 気はするが....」

 

「と言うと?」

 

「さっきは、余りこの御代の件に関して

 

 思い当たる事は無いと言ったが、

 

  よくよく尚佐御代とウチの会長の

 

  やり取りを思い返してみると、

 

  少し、引っ掛かると言うか-----」

 

「何だ? それは?」

 

善波が座っていたソファーから身を乗り出す

 

「どうも、色々、おかしなところが

 

 あると言うか----...」

 

「・・・・」

 

「ウチの会長は、この叶生野荘の近くの

 

  海辺から、内陸に少し入った場所の

 

 生まれなんだが...」

 

「そうらしいな」

 

「尚佐御代は、よく、ウチの会長が

 

 この辺りの地元の話をしても

 

  どうも、少し、この辺りの

 

 事情に疎(うと)いと言うか----」

 

「疎い?」

 

「そうだ。」

 

禎三が征四郎を見る

 

「言葉にも、この辺り特有の

 

  古い世代の訛りみたいな物が

 

  まるで無いし、この辺りの話をしても

 

  余りよくこの周辺の事情について

 

 詳しく知らなかった様だし...」

 

「それはおかしいな」

 

「そうだろう?」

 

善波が禎三に視線を向ける

 

「親父の生まれは、

 

 この叶生野荘の辺りだろう?」

 

「そうなんだが・・・」

 

「だったら、親父が

 

 この辺りの話を知らないはずは

 

 無いだろう」

 

「だが、そうは言っても、

 

  尚佐御代とウチの会長が話をしてる時には

 

 どうも、そんな、おかしな流れのやり取りを

 

  何度かしてたんだよな」

 

「・・・?」

 

善波と禎三のやり取りを聞いて

 

征四郎の頭に、尚佐の夫人

 

"満江"の事が浮かんでくる

 

「(・・・・)」

 

尚佐は、この叶生野荘にほど近い

 

叶生野の姓を冠する氏族の出自で、

 

若年の頃に、今の夫人である

 

叶生野家でも家格の高い

 

汐井の家の長女、満江を妻にする事で

 

この叶生野グループの中でも

 

かなり高い格式を得て有力な氏族の一員となり、

 

この叶生野の御代の座を

 

手に入れる事になったと聞いている

 

「もしかしたら、尚佐御代は、

 

  本当はこの辺りの出身じゃ無かったりしてな」

 

「・・・冗談だろう」

 

「言ってみただけだ」