「血の家」 三十雫
「ダメだ。どうやら今、代わりの車も
屋敷には無いらしい」
「代わりの車が無いって...」
征四郎は広い駐車場の屋内を見渡す
「これだけ人がいる家だったら
代わりの車くらい
いくらでもあるんじゃないのか?」
「それが、よく分からんが
他の尤光や雅たちが自分の部下を使って
この家の屋敷の車を
全部乗ってったみたいだな」
「・・・・」
「ドウしたの? セイシロウ-----?」
「・・・いや」
「これだけ広い叶生野荘だからな。
車無しで移動するのは時間がかかる」
「--------」
「とにかく、別の、
この屋敷の使用人の車でもいいから
使えるかどうか聞いてみるか」
「そうした方がいいか-----」
「よし、一旦中に戻ろう」
「・・・・・」
「征四郎くん?」
善波が後ろを振り返ると、征四郎は足を止め
パンクしたタイヤの辺りを見ている
「・・・いや」
「---------、」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ああ、どうやら後少ししたら、
車が屋敷に戻ってくるみたいだ」
「戻ってくる?」
「屋敷の人間が、今外に買い出しに行ってるから
そいつが戻ってきたら
その車を使えると近藤が言ってたな」
「--------、」
「クルマないと、コマルでしょ?」
「-----そうだな」
三人は駐車場から屋敷の中へと引き返し、
再び、応接室のテーブルにつく
「そう言えば....」
「・・・何だ?」
特にやる事が無いのか、人差し指と親指で
伸び切った髭を引いている善波を
征四郎が見る
「昨日、俺たちが行った
"神代"の集落-----...」
「ああ、征佐はいなかったな」
「それはそれで仕方が無いが-----」
"ピンッ"
善波は引き抜いた自分の髭(ひげ)を
人差し指で絨毯の上に弾く
「一つ、気付いたんだが-----」
「----何がだ」
「・・・・・」
"ガシ ガシ"
元々、今回の御代の件には関心が無いのか、
善波はあまり緊張感の無い表情を浮かべている
「昨日行った神代の集落では、
その集落の男子の名に
"征"の字をつける------」
「・・・・」
ふと、征四郎がジャンの方に目を向けると
ジャンも自分の話にあまり興味が無いのか
目を閉じて下を向いている
「男子の名前に"征"の字を使うのは
俺の家-----...
"鴇与家"と、同じ様な形式だ」
「ぁああああああぁあ」
「・・・・」
「-----ソレで?」
欠伸(あくび)をしている善波を無視して、
征四郎は話を続ける
「それに、神代の集落の中で使われている姓には
"鳥"に関わる字や、
その他の特徴-----、」
「トリは、キレイね」
「これは、鴇与家の名字にも
かなり関りがあると思う」
「・・・・」
そろそろ昼時で腹が空いているのか
善波が気の無い表情で征四郎を見る
「これから考えると、
神代の集落、そして、俺の
"鴇与家"には、何か、
深い繋がりみたいなものが
あるんじゃないか-----?」
「ああ、そうかも知れんな」
「そうでしょう-----?」
善波も、薄々その事には気付いていたのか、
余り驚かず、征四郎の話を聞いている
「そして、今回の御代の後継ぎと言われている
"征佐"-----。」
「ああ、そう言えば、その征佐も
征の字を使うんだな」
「"セイ"ってのは、ドウいういみ?」
「・・・・」
征四郎はそのまま言葉を続ける
「征の字を名前に付け始めたのは、
神代の集落の先祖から
数代後の御代、
叶生野 征和からだと聞いた-----」
「・・・・」
善波は、征四郎と
目線を合わせない様にしているのか
黙って征四郎の胸元辺りを見ている
「-----けっこう、体格がいいんだな。」
「-----ええ。」
「セイシロウは、つよそうネ」
「-----ああ」
「・・・・」
二人が話題を変えようとしているのを
何となく征四郎は感じたが、
征四郎はそのまま話を続ける
「つまり、"征佐"の存在を知るには、
"征"の字を使う一族、
この叶生野荘の神代の集落や
俺の家、"鴇与家"の
その成り立ちを知れば
かなり、征の字に関して
色々分かって来るんじゃないか----」
「・・・なるほどな」
少し征四郎の話に興味が出て来たのか、
善波は、椅子を座りなおす
「とりあえず、そう思って、
今、俺の実家に鴇与家の系図の写しを
送ってもらう様に手配してるんだが----」
「すぐ来るのか?」
「少し時間はかかると言ってたが、
午後になれば多分
携帯で見れる様になると思う」
「------そうか。」