「血の家」 三十七雫
「じゃあ、あれは、俺たち以外の
叶生野の一族の人間が
やったって言うのか!?」
「セイシロウ...それハ...」
前日の事件があった翌朝、
ジャン、征四郎、善波の三人は
叶生野の家のガレージに集まり
車の外で、昨日の出来事について
話しをしていた...
「冗談はやめてくれ!
ウチの人間が何だって
俺の車に火をつけたりするんだっ!?」
「ソウよ、セイシロウ-----」
二人は征四郎の言葉に声を荒げるが、
征四郎は冷たい眼差しを浮かべ二人に言葉を返す
「昨日の朝の、善波さんの車のパンク...
更にそれに続けて、俺たちが
叶生野の屋敷に帰って来た後に
その車が、"誰か"の手で
火をつけられた...」
「別に、誰か人がやったと
決まった訳でもないだろうっ?
自然に壊れたって事もあるんじゃないか!?」
「それにしたって、少し
不自然過ぎるんじゃないか-----
一日で、タイヤがパンクして
更に、その車のエンジンから火が出るなんて
まず考えられない」
「・・・・」
征四郎の言葉に理があると思ったのか、
善波は押し黙る
「それに、昨日車に置かれていた封筒...」
「"こいつ"の事か?」
"スッ"
善波は懐から、昨日、藤道の屋敷の駐車場で
車のフロントガラスに置かれていた
茶封筒を取り出す
"神代村の廃屋"
「この封筒の中に入っていた紙の中には、
地図みたいなものと、文字でそう
書かれてたみたいだが...」
「でも、だからナンだっていうのヨ」
「・・・・」
征四郎は善波が持っている紙に視線を向ける
「問題は、その紙に
"何が"書かれていたと言う事じゃなく、
"誰か"が、その紙を俺たちが乗った
車の所に置いてったかと言う事じゃないか」
「・・・・?」
「それに、俺たちが叶生野の使用人から
借り受けた車も、何故か
調子がおかしかった訳だし...」
「-----誰かが、俺たちを狙ってるって事か?」
「・・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「誰が俺たちを狙っているのか知らんが
何、この叶生野の村は、ほとんど
俺たちの身内ばかりだ。
ソイツも俺たちを
軽々(けいけい)と襲う事はできんだろう」
「・・・・」
「ブロロロロロロ....」
「そうは思わないか?
征四郎くん?」
「-----ええ、そうかも知れない」
「そうだろう-----、」
自分の考えを否定されたくないのか、
善波は口を開いた征四郎に視線を向けず、
まっすぐ、前の道路を見ている
「よし、とりあえず、
この茶封筒の中に書かれていた
地図の場所へ行ってみるか」
自分の中で、昨日の出来事の正合がついたのか
善波は、アクセルを力強く踏み込む
"ウォオンッッ"
「う、ウォゥ、ゼンバさん!」
「ああ、少し揺れたか」
「(----誰かが、俺たちを
狙っているとしたら----)」
「ったく この軽自動車じゃ
この山道を越えるのは
けっこうキツいんじゃないかっ」
「・・・・」
善波が、自分の身内を疑いたくない事を
察した征四郎は、善波の言葉に
ただ、適当に相槌(あいづち)を打ったが...
「(------尤光、そして雅....、)」
今、自分達を狙う人間がいるとすれば、
その人間は、ほとんど限られた者しかいない。
「(おそらく、俺たちを狙ったのは
この、叶生野の御代の
跡目争いをしている誰かだ...)」