「血の家」 三十五雫
「それじゃあ、また、後日な」
「ああ」
「ガチャ」
屋敷の玄関の前にいる
善波、征四郎、ジャンに向かって一言告げると
禎三は、屋敷の中へと引き返していく
「・・・・」
車に向かって歩きながら征四郎は、
隣にいる善波に向かって口を開く
「さっき、尚佐御大が
どうのこうのって-----...」
「ああ、少し気になる事を言ってたな」
「アレ?」
「・・・・?」
征四郎が、車の前にいるジャンに目を向ける
「コレハ----?」
「何だ? ソイツは?」
「フロントガラスのトコロにナニかアルよ」
ジャンが、征四郎達が乗って来た
軽自動車に近付くと、
軽自動車のワイパーとフロントガラスの間に
茶色い、"封筒"の様な物が挟まれている
「・・・・?」
征四郎は、とっさに駐車場から
藤道の邸内を見渡すが、
特に周りに人がいる気配は無い
「・・・・」
「ガサッ」
ワイパーとフロントガラスの間に挟まっていた
封筒を善波が手に取る
「・・・これは...」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「キュルルルル」
「どうしたんだ? 善波さん」
「・・・故障みたいだな」
「さっきまでヘイキだったじゃナイ」
藤道の邸宅から、叶生野の屋敷の駐車場に戻ると
今、先程まで三人が乗っていた
叶生野の屋敷の使用人から借りた
軽自動車が、鈍い機械音を上げている
「・・・・」
「キュルルルルル」
「今朝も色々あったよな...」
善波が、しゃがみ込みながら車を下から覗き込む
「・・・・・」
「??」
「ワアッ」
「-----?」
突然、屋敷の入り口の辺りから
何人かの人の声が聞こえてくる
「・・・何だ?」
「-----さあ」
ザワ
ザワ
ザワ
「-------?」
「少し、気になるな...」
「何かあったのか?」
すでに日も落ちたせいか、
今いるガレージからは、声は聞こえてくるが
どうなってるかよく見えない
「-----とりあえず
俺はここで車を見てるから、
征四郎くん」
「------はい」
「ちょっと向こうを見て来てくれないか?」
「-------、」
「ワタシもイクよ」
「・・・・・」
"ザッ ザッ ザッ ザッ....
「(--------?)」
「ナニか、あったみたいネ」
ガレージから駐車場の方へ向かって歩いて行くと
玄関の前に、叶生野の使用人が
何人か集まっているのが見える
「(正之------)」
人だかりの側まで征四郎が近づいて行くと
そこには、正之、明人、尤光の姿が見える
「・・・・・」
"スッ"
「(-------?)」
屋敷の灯りが届くか届かないかの場所に、
一瞬、"人影"の様な物が
どこかに、消えて行った様な気がした
「せ、征四郎さま!」
「------近藤さん、」
人混みの中をかき分け、
執事の近藤が征四郎、ジャンの元に
駆け寄ってくる
「何か、あったのか?」
「い、いえ....」
「!」
「あ、アレ-----」
「車が・・・・」
"ボォォォオオオオオオオ----"
「も、燃えてるぞ」
近藤の後ろ、屋敷の玄関から少し離れた
道路を見ると、そこに
黒い、一台の外車が炎を上げ、
音を立てて燃えているのが見える
「(あれは------!)」
"ゴォォォオオオオオオオオオ"
「い、今、館の者が善波様の車の修理を終えて
車を動かそうとしたところ、
その車が突然、音を立てて-------!」
「中に人はいないのか-----!」
「え、ええ...
どうやら、幸いにも、
車を移動させた者は
すぐに車から離れたおかげで、
少し転んで怪我をした程度で
済んだ様ですが------」
「------どうしたんだ?」
「・・・・・」
"スッ"
「?」
善波が駆けつけてくると征四郎は、
無言でまだ火が残っている善波の車を指さす
「あ、あれは-----!」