「血の家」 三十三雫
「----何か、飲むか?」
「いや、平気だ」
禎三に従い、屋敷の中を少し歩き、
階段を登ると征四郎たちは
広い、古めの洋館を思わせる様な
廊下にいくつも並んだ部屋の一室に通される
「・・・けっこう本を読むんだな...」
「・・・・」
「本だらけね」
十畳以上はある、奥にゆったりとした
机が置かれた部屋には、様々な絵画や、
彫細工が施された置物の様な物が置かれ
その周りを囲むようにして、部屋の壁一面に
大量の本棚が置かれている
「何、飾りだ。
本をたくさん置いていると、
賢そうに見えるだろ?」
禎三が大きく、古い、しっかりとした
机に肘(ひじ)を付きながら、
部屋の入口付近にいる三人に目を向ける
「そこに座ってくれ」
「----ああ」
三人は、机の斜め前に置かれた
ソファーに腰を下ろす
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「"征佐"と言われても...」
「やっぱり心当たりは無いか?」
善波の問いかけに、禎三は
目の前の机に置かれた珈琲のカップに口をつける
「俺も普段はこの、叶生野荘には
あまり出入りしないからな...
"征佐"、とただ名前を言われても、
皆目見当がつかん」
「-----そうか...」
"ドスッ"
禎三の言葉を聞いて気落ちしたのか
善波は両手を頭の後ろに組み、
深く座っていたソファーに背中を預ける^
「お前のとこの、仁左衛門の祖父さんは
ウチの尚佐の祖父さんとは、
かなり親しかったろう?」
「ああ、そうだな-----」
「だったら、この藤道の所にくれば
何か、少し手掛かりが
あると思ったんだがな...」
「・・・・」
特に何か役に立つ話も無いのか、
禎三は椅子に座りながら、窓の外の景色を見ている
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
"スッ"
「こう言うのが、好きなのか?」
「----ああ」
ソファーから立ち上がると、
善波は部屋の中にいくつか掛けられた
額縁(がくぶち)に入った絵に視線を向ける
「特に、絵が趣味と言う訳でもないんだが、
付き合いとかが色々あったりしてな...」
「中々、見事なもんじゃないか」
「俺にはあまり分からん」
壁に掛けられた絵を見ると
どうやら写実的な絵画の数はそれ程なく、
イメージを絵にした様な抽象的な絵が
いくつか掛けられている様だ
"スッ"
「------こいつは、お前のか?」
善波が、絵画の脇に置かれていた
ゴルフクラブを手に取る
「ああ、普段ゴルフをする機会が
多いもんでな」
「----腕前はどんなもんだ?」
「あまり、人に自分から話せる程でも無いな。
なんとかやってるだけだよ」
「そうか」
"スッ"
善波が、ゴルフクラブを本棚が並んだ
壁に置こうとする
「-----あ、」
「・・・?」
「そう言えば-----、」
壁にゴルフクラブを置こうとすると、
机の椅子に座っていた禎三が
何かを思い出したように口を開く
「その、お前が手に持ってる
ゴルフクラブ----」
「・・・こいつの事か?」
「ああ、そのクラブ、そう言えば前に、
ウチの会長とお前の祖父さん、
尚佐御代と一緒にゴルフコースを
回らせてもらった時にウチの会長が
尚佐御代からもらった物なんだ-----」
「それが、何でここにあるんだ?」
「カチャ」
手に持っていたカップを
禎三は小皿の上に乗せる
「ウチの会長も大分年がいってるからな...
それに、元々ゴルフクラブも
いくらでも持ってるから、
ちょうど俺がゴルフクラブを
買おうかと思ってた時に、
そいつを尚佐御代にもらったと聞いて
俺がそのクラブをもらったんだ」
「そう言う事か」
「・・・」