「血の家」 十七雫
「じゃあ、ルーはボクたちとは、
いっしょじゃないってことかい?」
「------ええ。
どうやら昨日話をきいたけど、
ミダイになれる可能性は
ワタシにも、この場にいる全員にも
あるみたいだから-----、」
「なら、俺達とは別に行動するって事か」
「-----そうなるね」
「ブロロロロロロロロロ」
「ルー!」
「-----雅!」
一台の車が止まり、その車の中から、
叶生野家の次女、羽賀野家に嫁(とつ)いだ
"羽賀野 雅"
が降りてくる
「じゃあ------、」
「・・・・」
そのまま、ルーシーは
善波、征四郎、ジャンに背を向け
雅の元へ向かって行く
「・・・お前はどうするんだ?」
「ああ、そうね」
征四郎が、隣にいる、ジャンを見る
「つぎのミダイが、ダレになるかわからないよ。
・・・
どうせ、わたしあまり日本知らないし、
それならセイシロウたちといっしょに
いくってのはどう?」
「ああ、俺はかまわないが-----」
「俺も構わんぞっ!?」
「それなら、私も、いっしょさせてもらうよ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「-----どこに向かってるの?」
「ブロロロロロロロ....」
「ああ、そうだな------」
自分が運転をしている脇の助手席に座っている
ジャンの言葉に、善波はハンドルを握りながら
口を開く
「とにかく、何でも、俺たちは
"征佐"を見つける事が優先だ」
「------それはまちがいないね」
"ブロロロロロロロ....
目の前に広がった広い
山間(やまあい)に囲まれた
叶生野荘の景色に目を向け、
善波は目の前に広がった幅の広い
ゆったりとした道路を見る
「-----征佐、を探すのはいいんだが...」
「なにか、問題でもあるの?」
「・・・・」
善波が、渋い表情を見せる
「・・・まあ、問題って程の事では無いが...」
「----昨日、俺たちは、来宮、田島の家を
回って来た」
後部座席から征四郎が身を乗り出しながら
ジャンと善波の話に入ってくる
「-----他に、何かアテでもあるのか?
善波さん?」
「-----まあ、あると言えばあるんだが...」
「-----~~~~....」
「?」
善波の口振りが親しくないのを見て
ジャン、そして征四郎の視線が善波に集まる
「-----昨日、俺たちが行った
田島、来宮の家-------、」
「-----ああ」
「その他にも、この、叶生野荘の中には、
いくつも家がある訳だが-----」
「ブロロロロロロロロロ....」
善波が含みを持った表情で
目の前の道路に視線を向ける
「ただ、他の家に行くのはいいが
いくつか困る、と言うか
面倒な事があってな-----」
「問題って、ナニね」
"キィィィィイィィィ
「・・・・っ」
車が、何か、地面のでっぱりにかかったのか、
少し車体を傾ける
「・・・俺たちが、今いる、
この"叶生野荘"は、
少し複雑な事情で成り立っててな----」
「・・・・・」
「ここの村の連中は、
かなり、何て言うか-----、」
「ナニよ 善波さん」
「村意識と言うか、
どうも、排他的な人間が多くてな...」
「-----そうか? 昨日会った
田島の家の人間は
別に何でも無かったじゃないか?」
「----ああ、あいつは別なんだが...
征四郎。」
「・・・・」
フロントミラー越しに、善波が
後部座席に座っている征四郎を見る
「そもそも、お前はこの、
"叶生野荘"の、成り立ち、と言うか、
歴史みたいな物は
分かってるのか-----?」
「・・・ああ、一応は」
"叶生野荘"
江戸時代に商家だった、征四郎たち
叶生野の祖先、
"叶生野 左治郎"
から分かれて分家していったのが、この叶生野の一族で
それから四百年ほど時が経った現在、
一族の数はその一族の人間でも
見通す事ができない程かなり多くの人間がいる
「確か、祖先の、この辺りの港町で
商家をやっていた家が
この叶生野の祖先だった筈じゃ-----」
「-----そうだ。
そして、そのいわば、最初の御代の
時代から四百年ほどが経ち、
時を重ねるに連れ、
叶生野の一族は様々な氏族と繋がり、
その名前を変え現在に至る----」
「それが、なにかあるの」
「・・・・」
運転席から、善波が横のジャンに目を向ける
「つまり、そう言う長い歴史の中で、
叶生野の連中は様々な場所や氏族に分かれ、
その分かれた者たちが繋がり
今、この叶生野荘、
-----何もこの村の中だけの話じゃないが
この叶生野の一族の中には
それぞれの氏族や
土地の者たちが集まって作られた
"派閥"の様な物が
存在する様になったんだ-----」
「・・・・」
普段、海外にいるジャンや征四郎には
善波の話が今一ピンと来ない。
「-----それが、何か問題でもあるのか?」
「・・・・」
両手で握っていたハンドルから
片手を外し、善波は頭の後ろをかく
「そうやって叶生野の一族の中から
分かれて、派閥を作った者たちが
今でも、この村の中には数多くいて
そいつらは、あまり、
他の派閥の奴らとは...
何と言うか... 排他的と言うか....」
「・・・・」
「-----だから、征佐の話をこの村の連中に
聞いて回るにしても、
その、"派閥"みたいな事も考えなけりゃ、
征佐の話を聞くのも難しくなってくる」
「-----そうなのか」
「昨日の田島なんかは、俺が尚佐の爺さんの派閥、
"左葉会"と繋がりがあるから、
それで、俺には
ゴマをすってるみたいだが----」
「ああ、それで昨日----」
征四郎は、昨日、田島と善波が
妙なやり取りをしていた事を思い出す
「ああ、田島はどうやら、
尤光や正之が所属している
左葉会に入りたいみたいでな。
それで俺の機嫌を取って
尤光とかと繋がりたいと思ってるんだろう」
「・・・・」
「じゃあ、その左葉会ってのが、
この村にある派閥って事なのか?」
「-----何も、それだけじゃない。
左葉会は、一応、前代の御代の
尚佐祖父さん、そしてその子供の
尤光や明人が入っているが、
この村の中には同じような
派閥がいくつもある」
「------そんなにあるのか」
「なにせ、四百年も歴史があるからな。
それまでの間に、様々な政略結婚や
姻戚(いんせき)関係を結んだ氏族が、腐るほど
この村の中には溢れてる」
「-----この村の中で人に話しを聞くってのも
簡単には行かない訳だ」
「・・・・」
「おそらく、"征佐"も、
その様な、閥(ばつ)に属している、
この村の中にいる氏族の一人なんだろう」
「・・・・」
「-----まあ、とりあえず、
俺の顔の効きそうな所から
当たってみるとするか」
「ブロロロロロロロロ....」