「血の家」 十雫
「ここが来宮(きのみや)の家だっ!」
「バンッ!」
「(----------、)」
「ザッ」
善波が勢いよく車の扉を閉め、
助手席から降りてきた征四郎に目を向ける
「・・・屋敷が、見えないみたいだが-----」
車から降りて征四郎が門の先を見渡すが
建物らしき物が見当たらない
「ああ!
この来宮の家は土地が広いからなっ!
屋敷はこの門を抜けて少し歩いた場所だっ!」
「じゃあ、車で行く事はできないんじゃ-----?」
「まあ、行けなくはないが、
何しろ、この山道だっ
俺の車じゃ少し、難しいかもなっ!?」
「だったら、ここから歩くって事か....」
「そうだなっ!」
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広い、来宮家の敷地を歩く事、十分程。
「いやーっ よく分からんなっ!?」
「・・・・」
前を歩く善波の後をついて
山道を登って来た征四郎だったが、
相変わらず、建物がある気配がない
「------ここに建物があるって...?」
征四郎が、疑わしい目つきで
前を歩いている善波を見る
「-----分からんっ!」
後ろにいる征四郎に目線を向けず
善波は辺りを見回しながら、大声を上げる
「俺も、この来宮の家に来たのは
もう、大分昔の事だからなっ!?
-----、
こっちで合ってたと思うんだがっ!?」
「(--------、)」
「ザシャッ」
「こっちか-----?」
「(--------、)」
「そっちかも知れんなっ」
「ザシャッ」
「(--------、)」
前を歩く善波の後ろ姿を見ながら
征四郎は、一つ、考え事をしていた-----
「("征"の字-------、)」
「おっ 別れ道だぞっ!?
征四郎くんっ!?」
「----------、」
自分の言葉を聞く事も無く、
左の道の方へ進んで行った善波を見ながら
征四郎は、ある一つの
考え事が頭に浮かんでいた-----
"次の御代は、征佐様でございます"
「("征佐"-------)」
遺言書の中に書かれていた
"征佐"と言う言葉が
征四郎の頭に引っ掛かる
「(・・・"征佐"と、あの紙には書かれていたが
そもそも、"征"と言う字は-----)」
自分の家、"鴇与家"
「(そもそも、征佐の
"征"と言う字は
叶生野家の人間には使われず
鴇与家の男子の名前に使う
言葉だ------)」
征四郎の兄、征一、そして、その弟で
征四郎の兄である征由(まさよし)。
「(その他にも、俺の母、
そして親父である征顕(まさあき)、
その上の鴇与家----。)」
"征の字は代々鴇与家の男子が使う字"
「(だが、そうは言っても
鴇与家の中にも
"征佐"と名乗る人間は
見当たらない-----)」
「ガサッ!」
「おっ あった あった!」
「・・・・!」
「どうやらこっちの道であってたみたいだなっ!?
征四郎くんっ!?」
「--------、」
善波の言葉に、征四郎が
目の前の蔦(つた)や大きな木の枝の葉に
隠れる様に建っている
暗い色をした建物が目に入ってくる
「確か、この家の当主の名は-----」
「"雅彦"-------。」
「-----何だ、知ってるのか?」
「-----ええ。
そう言えば、確か
子供の頃に一度-----、」
蔦や、葉に覆われた建物を見て、
征四郎の頭に子供時代の
映像が浮かび上がってくる
「何だっ 来たことがあったのかっ!?」
「ええ、一度だけ-----」