「血の家」 十五雫

「この間の話って-----？」

「・・・・」

「ブロロロロロロロ....」

暗い夜の道を走る車の中で

征四郎は横にいる善波に顔を向ける

「・・・・」

征四郎の話に興味が無いのか、

善波はただ、まっすぐ自分の車の照明に照らされた

先の道路を見つめている

「・・・・」

「何、大した事じゃない」

「・・・・」

それ以上、特に興味も無くなったのか

征四郎は言葉を続ける事をせず

窓の外に見える叶生野荘の景色に目を向ける

～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～

「...そろそろ食事にしたらどうだ？」

「------ええ」

征四郎、そして善波が広い叶生野家の

屋敷の中を歩いていくつかの部屋を通り抜けると、

目の前に一際大きな招待客用か何かと思われる

立派な扉が見える

「ガチャ」

「じゃあ、あんた達も見たって事----？」

「ああ、姉さん-----」

「(・・・・)」

「あ、おい、征四郎」

「----何か」

征四郎が部屋の中に入ると、

いくつか並んだ白いテーブルクロスが

敷かれたテーブルの辺りに

尤光、正之、そして明人の姿が見える

「お前も、どうやら田島の家に

　行ってたみたいだな------？」

「------ええ。」

明人が、三人の中から、

征四郎に向かって進み出てくる

「何か、問題でも-----？」

「・・・・」

いつも自分が嫌味を言っているせいか

先を制して征四郎が口を開いたのを

明人は涼しい顔で見ている

「-----いや、特に

　問題という訳じゃないが-----」

「じゃあ、何か-----？」

「・・・・」

「・・・・？」

「特に、征佐に関して、

　と言う訳じゃないんだが------」

「・・・・」

明人は、征四郎に向けて

戸惑った様な表情を見せている

「(------？)」

「おまえ、今日は、叶生野荘の

  田島の家や、来宮を

  回ってたんだよな----？」

「・・・・」

おそらく、誰か人を使ったか、

どういう訳で自分が訪れた場所を

明人が知っているのかは分からないが、

征四郎は明人の言葉を顔色を変えず聞いている

「(コイツならあり得るか-----、)」

今までこの明人とは顔を合わせた事は

数度しかないが、明人の人間性、

そして、横から流れてくる噂-----、

それらを考えれば、明人が

人を使って自分の行動を探っていたとしても

征四郎には、何ら驚きを感じない

「おまえ-----、」

明人が、重苦しい様子で口を開く

「------何か？」

「・・・・」

少し、間を開けると明人は

思い切ったように口を開く-----

「おまえ、田島や、来宮の家の近くで

  "変な奴"を見なかったか-----？」

「-----いや、」

「こう、何て言うか、

  サングラスをして、マスクをした-----」

「ガチャ」

突然、招待客用の部屋の扉が開く

「みなさん、こんばんわー！」

「------ジャン。」

「あれ　どうしたですか？

　日本のみなさんは、元気、ありませんね？」

「アンタの態度が、

  この場所の雰囲気に合ってないから、

　オカシイんじゃないの？」

「ルー...」

開いた扉の外から、突然、部屋の中に

金髪の男と、肌の黒い女が入ってくる

「ワァオ、　セイシロー

  ヒサシブリネ」

「アル....」

"ジャン・アルベルト・トオノ"

「尚佐のおじいさん、危ないって聞いたから

　来てみたけど、もうすでに死んでたみたいだよ」

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

アルベルトは、部屋の中にいる

叶生野の一族が白い目で見ているのを気にせず

征四郎、善波の元まで近寄ってくる

「あ、ゼンバさん----

　久しぶりね」

「おおっ　ずい分っ　遅かったなっ！？」

「私たち、日本にいないからね」

"ルーシー・ハドー・カミムラ"

ジャンの後ろから付いてきていた

長い髪の毛にウェーブがかかった女が

善波の言葉に返事をする

「あれ------、」

「オウ、アキヒトサーン」

「・・・その恰好は何なんだ？」

「ナニ？　どうかした？」

「・・・・」

明人が、部屋の中に入って来た

ジャンを見ると、ジャンは

サングラス、そしてマスクをしている

「あー　これ、　ワタシ、いま、

　少し風邪をひいててー...」

「お前、もしかして、今日、

　この場所に来る前にこの村の中で

　どこか別の場所に行ったりしてたか？」

「-----何のこと」

「(・・・・・)」

征四郎が、ジャンの姿を見ると

スーツにサングラス、そして、マスク。

「(-------)」

「ああ、でも、ここに来る前に

  えー　誰？」

ジャンが、隣にいるルーシーを見る

「"田島"と、"来宮"でしょ？」

「ああ、そう、そうね。

  そのひとたちの家に行ってきてたよ」

「・・・何故だ？」

明人の言葉に、ジャンは、陽気な様子で答える

「なぜって簡単じゃない

  尚佐プレジデントが亡くなって、

  そしたら、あそこにいるお爺さんが

　次の"ミダイ"になれる

  可能性があるって-----」

「だから、田島と来宮の家に行ったって事か？」

「そうね-----

  私も、ミダイになれるなら

  なってみたいからね」

「-----クククッ」

「・・・・？」

ジャンの言葉に、明人は嫌らしい笑みを浮かべる

「------それは、無理だ。

  なにせ、次の御代はこの、

  日本の叶生野家の直系である

  俺、それか、正之、尤光姉さんの

　誰かがなるとすでに

　決まっているからな-----」

「そうなの？」

ジャンが、ルーシーを見る

「そんな話、私も聞いてない。

  勝手に話を作ってるんじゃない？」

「--------」

「・・・・？」

明人は、含みを持った表情を見せると

そのまま背を向け、尤光、正之がいる

テーブルの方へ向かって行く

「----相変わらず、あの人、

　何考えてるか分からないね」

「あれが、"日本"って事なんじゃない？」

「・・・・」