「血の家」 十四雫
「じゃあっ 田島もっ そのっ
"征佐"にはっ
心当たりが無いのかっ!?」
「あ、ああ、ハイ-----。」
「どうする? 征四郎くん?」
目の前に座った、小太りで
目が細い男の返事を聞くと
善波は隣の椅子に座っている
征四郎に目を向ける
「何か、少しでも、
征佐について知っている事とかは-----?」
「・・・・」
小太りの男、田島 明雄は
体を動かすのが窮屈(きゅうくつ)なのか
苦い表情を浮かべながら征四郎の方に向き直る
「いえ、先程、
尤光さんもこちらに来たが-----、
いや、そもそも----」
田島は、人差し指で頭をかきながら
椅子に座っている征四郎に視線を向ける
「叶生野家の人間でも分からないものが、
俺たち、叶生野荘の者で
分かるかどうか------」
「そんな事はないだろうっ!?」
「・・・・」
「お前ら叶生野荘に住んでるんだったら
普段、外に出ている俺達よりは
この村に詳しいんじゃないかっ!?」
「い、いや、そうは言っても-----」
「何でもいいっ
とりあえず、少しでも
分かりそうな事があったらっ!
何でもいいからっ 話せっ!」
「・・・・」
「カチャ」
善波の言葉に、明雄は何か考え込みながら
目の前の飲み物が入ったグラスに手を付ける
「・・・何かないのかっ?」
「~~~~~っ」
「執事の近藤が、
"征佐"はこの村の中にいると
言ってたんだぞっ!?
だったら、この村の人間が
知らない訳がないだろうっ!?」
「近藤さんが-----」
「そうだっ」
「(--------、)」
まるで、取り調べ官の様な態度で
明雄を問い詰めている善波を見て
征四郎は口を固く結ぶ
「ああ、話は関係あるか
分からないけど-----、」
「何だッ 何でもいいからっ
話せっ!?」
「い、いや、落ち着いて。
善波さん」
「・・・・」
"ドスッ"
明雄の言葉に、善波は両腕を組み
自分が座っていた椅子の背もたれに
反り返る様に背中をつける
「あまり、御代、その、"征佐"とは
関りが無いのかも知れないが------、」
「・・・・」
手に持っていた飲み物のグラスを、
明雄はテーブルの上に置く
「何でも、御代が、今は亡くなった
善波さんの母親-----」
「満江婆さんの事か?」
「ああ、そう、その満江さん-----、
何でも、満江さんが亡くなってから
この叶生野荘に移って来た
尚佐御大には、どうも------、」
「"どうも"、
何だ?」
「いや、聞いた話だから
俺も詳しくはないが-----...」
「勿体(もったい)ぶるな」
「・・・・」
明雄は困った様な表情を浮かべて
少し間を空け、口を開く
「どうも、御代はあの年で、
かなり-----、」
「何だっ」
「いや、これは、俺も直接
聞いたワケじゃないんだが----、」
「・・・・」
「どうも、御代はあの年で、
かなり、満江さん以外の他の女にも
手をつけていたらしくて-----」
「・・・何だ、そんな事か」
「し、知ってたのか?」
「・・・まあな」
驚きもせず当たり前の様に自分の話を聞いている
善波を見て、明雄が拍子抜けした様な表情を見せる
「ここにいる、
征四郎くんだって海外暮らしは長いが
そんな事は当然の様に知ってる事だ-----、」
「・・・そうなのか?」
「尚佐の祖父さんが、
女好きなのは一族どころか
そこら中で知られてる事だろう?」
「-----そうか。」
「今さら隠す様な事でも無い。
-----それだけか?」
横仰(おうぎょう)な態度で話をした割に
自分の知っている事しか話さない
明雄をみて、善波が眉間に皺(しわ)を寄せる
「い、いや、それで、
その、御代が別の女に産ませた子供が、
この、叶生野荘の中に...
それも、一人じゃなく、
何人もいるみたいなんだ」
「・・・本当か?」
「ああ、もちろん、この叶生野荘の人間は
ほとんどが、この叶生野の家の仕事を
手伝ってる者ばかりだから、
その事を聞いたとしても
誰もその事については
話したりする事はないが-----」
「・・・征四郎くん」
「・・・ええ」
明雄の言葉に、征四郎と善波は
お互いの顔を見合わせる
「その、尚佐の祖父さんが、
他の女に産ませた子供ってのは
誰だか分かるのかっ?」
善波が脅(おど)しつける様な目付きで
明雄を見る
「い、いや、そこまでは----
何しろ、"噂"って事だし-----」
「-----誰か、知ってる人間はいないのか」
「いや、これと言っては-----」
「何だ、それじゃ、お前、
あまり大した役には立たないな」
「い、いや!」
「・・・・」
何か後ろめたい事でもあるのか、
明雄は、善波が怒った様な素振りを見せると
それに敏感(びんかん)に反応する
「ただ、俺は知らないが、
何しろ、この叶生野荘の中では
公然の事実だ-----。」
「だから?」
「だ、だから、多分、
この叶生野荘の中の
何人かの人間に話しを聞けば
誰か一人くらいは、その事について
詳しく知ってる人間がいるんじゃないか?」
「-----そうか。」
「ガタッ」
「・・・善波さん?」
「も、もう帰るのか?」
突然椅子から立ち上がった善波を見て
明雄、そして征四郎が
善波に向かって驚いた様な表情を見せる
「ああ。とりあえず、
ここにいても、これ以上は話もないんだろ?」
「ま、まあ----」
「だったら、さっさと次の場所に
行くなりなんなり、行動を起こした方が
よっぽどいいだろう?」
「それはそうだが----」
「よし、行くぞ、征四郎くん」
「・・・・」
「ガタッ」
すでに、応接室のドアに手を掛けている
善波を追って、征四郎も椅子から立ち上がる
「ガチャ」
「あ、善波さん!」
「------何だ?」
部屋から出ようとしていた善波を、
明雄が呼び止める
「こ、この間の事-----」
「・・・ああ 考えておく」
「・・・・っ」
「行こう、征四郎くん」
「・・・・」