「血の家」 八雫
「-----そうか、分かった」
「いえ-----」
「ガチャッ」
ドンッ
「------っ」
突然、征四郎が屋敷のドアを開けると、
そのドアの中から、明人が出てくる
「-----そこを退け。」
「-------!」
明人は、ドアの前に立っている
征四郎を睨みつける
「・・・・」
「スッ」
征四郎は、無言でドアの前から下がり
明人の道を開ける
「・・・
御代の座を狙っているかどうか知らないが、
あまり、出過ぎた真似をすると
どうなるか-----」
「・・・ええ。」
「ドタンッ ドタンッ ドタンッ ドタンッ」
明人は、征四郎に目線もくれず
部屋から、玄関に繋がる通路を抜けて行く
「何だ、征四郎くん-----」
善波が少し声を張りながら、征四郎を見る
「何も、あんな扱いを受けて-----
一言くらい言ってやったらどうだ?」
「(-------
"それ"ができれば-----)」
今でこそ、征四郎は
鴇与家を纏める身として、
この叶生野家の中でもある程度の立場を
保っているが、
所詮、叶生野の正流ではない自分が
叶生野家の人間に楯突けば
どうなるかは幼い頃からの経験で
よく分かっている-----
「それより、中に入ろう。
善波さん-----、」
「-----そうか」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「おう、一男さんっ! 久しぶりだなっ!?」
「(--------)」
征四郎と善波がドアの中に入ると
一人の和服を着た老人が
テーブルのソファーに座っているのが見える
「善波、それと、確か-----」
「ああ、こっちは、鴇与家の、
征四郎だ。
知ってるだろ?」
「ああ、確か、海外で色々されてるとか----」
「・・・どうも。」
征四郎は、目の前の老人に向かって
短く挨拶をする
「それより、今、明人が来てたみたいだなっ!?」
「------ええ。
何でも、"征佐"がどうだとか-----。」
「-----なら、話は早い。」
「ドスッ」
「征四郎君も座ったらどうだ!?」
「---------、」
善波は目の前にいる老人に
断る事なくテーブルの傍まで近づくと、
老人とテーブルを挟んだ
反対側のソファーに腰を落ち着ける
「-----...」
征四郎もそれに合わせて、
善波の隣の空いているソファーに腰を下ろす
「大分短い話だったな!?
明人とは何を話していたんだっ!?」
「え、ええ-----。」
「(・・・・・)」
「一男さんはっ!
"征佐"の事は知ってるのかっ!?」
「い、いえ-----。
先程、明人くんにも話した通り
私も、何がなんだか------。」
「何でもいいっ!
とりあえずっ!
知ってる事があったら!
何でも話してくれんかっ!?」
「--------、」
善波の声の大きさに戸惑っているのか、
保瀬 一男は、
頭をかきながら、目の前のテーブルの上に置かれた
置物を見る
「・・・
何でも、御代の跡目を継ぐのが
その、"征佐"と言う男だと言うのは
聞いたが....」
「-----そうだ。」
一男の言葉に、善波は短く答える
「とは申されても-----、
私も、この叶生野の家で
働くことになってから
四十年以上は経ったが-----、」
"保瀬 一男"
叶生野の家とは、近いとは言えないが、
親戚縁者の家で、
あまりにも増えすぎた叶生野家の
御代としての仕事を、補佐するような形で
尚佐と関係を持っていた
「私は、てっきり、善波くん。
君や、長女の
尤光が次の御代になるのかと-----」
「(・・・?)」
「ガハハッ!」
一男の言葉に、善波は大きな笑い声を上げる
「尤光はともかくとして、
俺が御代になれるわけはないだろうっ!?」
「・・・・」
「大体、俺はすでに御代にはならんと
一族の者には通してるからなっ!?
親父もそれは当然
知ってるはずじゃないかっ!?」
「・・・・・」
「(-----妙だな)」
善波の言葉に、物を含んだ様な
顔つきをしている一男を見て、
征四郎が違和感を感じる
「とにかく、知ってる事を
話してくれないかっ!?」
「それなら-----」
一男は、自分と差し向いに座っている
善波、そして、征四郎に向かって口を開く