「血の家」 十八雫
「-----ここだ」
「ガチャ」
「---------、」
「スゴイ、山のなかね」
「ここが、"安永"の家だ」
「・・・・」
尚佐の屋敷から三十分程車を走らせ、
前日訪れた田島の家の傍にある湖を先に抜け
山道を、車を走らせる事十五分程。
「ここが、"安永閥"の屋敷なのか?」
「----ああ、そうだ。」
善波は、目の前の木々に囲まれた
屋敷の前で、車から降りてきた
征四郎に向かって口を開く
「この、安永閥ってのは、
叶生野荘にいくつかある派閥の中でも、
尚佐の祖父さんが所属していた
左葉会を除けば
1、2を争う程派閥の規模は大きい家だ」
「------安永。」
「-----ゼンバさん」
「何だ?」
サングラスにマスクを着けたジャンが
車の前に立っている善波に目を向ける
「この、"ヤスナガ"は
この村のなかでも
一番大きいわけじゃないでしょ?」
「------そうだが...」
「トオノの中で、いちばん大きい
ぐる...いや、あつまりは、
"サヨウカイ"
そう言ってたね?」
「----だから何だ?」
「だったら、どうして
"サヨウカイ"の人に話を聞かなくて、
この、"ヤスナガ"の人たちに
話を聞くの?」
「-----....」
ジャンの言葉に、善波は
少し困った様な表情を見せる
「----まあ、事から考えれば、
それが当然と言えば当然なんだが...」
「そうでしょ。」
征佐の手掛かりを探すなら、
いくつも派閥がある叶生野荘の村の中でも、
一番その派閥の規模の大きい、
"左葉会"の人間に話しを聞く方が早い筈だ
「まあ、左葉会の連中に、
俺はあまり好かれとらんからな...」
「そうなの?」
「それに、左葉会の人間の所には
尤光、正之、そして明人も
多分向かってる筈だ」
「それが?」
「-----まあ、推測だが、
おそらく、征佐の情報は
左葉会でもあまり持ってないんじゃないか?」
「-----そうかも知れない」
征四郎が善波の言葉を促(うなが)す
「そうだろう。
この叶生野荘の他の家の者が
何か、征佐の事について知っているなら
多分、尤光たちはすでに
その話を知っているだろうからな-----」
「いまだに、征佐の存在が分からないって事は
この村の中でも、征佐の事を知っている人間は
ほとんどいない------」
「-----おそらくな」
「ガチャンッ」
「よし、行くぞ」
車のドアを閉め、善波が
少し先にある屋敷に目を向ける
「ガチャッ」
「-----総司さまっ」
「放っておけ! 尚佐御大が亡くなったのなら
次の御代がどうなるかは、
この安永の家にも関わって来る事だぞ!」
「-------?」
"ザッ ザッ ザッ ザッ、"
屋敷の中から、黒髪の目つきの鋭い男と
一人の執事の様な男性が、
屋敷からこちらに向かって歩いてくる
「し、しかし、わざわざ総司さまが
叶生野の屋敷に行くなど-----」
「何だ? 俺が叶生野の屋敷に
顔を出して悪いのか?」
「(--------...)」
屋敷から出て来た老人と、
征四郎より、少し背丈が大きいくらいの
青年は、何か言い争いをしながら
こちらに向かって歩いてくる
「総司さま-----」
「だから、それは----...」
「総司。」
「善波!?」
執事の男性の前を歩いていた青年が
善波に名前を呼ばれ、その場で立ち止まる
「お前、来てたのか-----?」
「-----当然だ」
着ているスーツの襟(えり)が乱れたのか、
男は、襟を正しながら、善波に
高圧的な目線を向ける
「-----尚佐御代が無くなると聞けば、
この叶生野荘に足を運ばない者はいない。」
「しかし、ずいぶん-----、
-----親父の具合が悪いとは言ったが
何も死ぬと決まった訳じゃ
無かったんだが...」
「----そんな事はどうでもいい
...お前がここに来てるって事は----」
総司と呼ばれた男性が車の周りにいる
善波、征四郎、そしてジャンに目を向ける
「"征佐"の事か-----?」
「・・・知ってるのか」
「尚佐御代が死んで、
次の御代に、その、
"征佐"が指名された事は
すでに、この村の者なら
ほとんど知ってる」
「そうか・・・」
「------、」
総司は、善波に向けていた視線を外し
自分の後ろに振り返る
「ここでは何だ-----、
入れ」
"ザッ ザッ ザッ ザッ-----
「そ、総司さま」
執事の老人を従えながら、
総司は、道を引き戻し屋敷の中へと入って行く
「------あれは?」
屋敷に引き返していく男を見て、
征四郎が後姿を眺めている善波を見る
「ああ、あいつは、
安永閥、次の安永グループの
時期当主だ。
名前は、"安永 総司"」
「総司-----...」