おめぇ握り寿司が食いてえ

様々な小説を紹介

「血の家」

f:id:sevennovels:20211104180609j:plain

「血の家」

 

一雫(ひとしずく)

 

「(クククク...知能の浅い奴らだ-----」

 

鴇与(ときよ)家の三男、征四郎は、

 

薄暗い館の通路の壁と壁の間に

 

張り廻(めぐ)らされたピアノ線を見て

 

それが、叶生野(とおの)家の別の家族、

 

一族の誰かがが仕掛けた

 

罠だと言う事に気付く....

 

「(これで、また一歩リード、

 

   って事か....)」

 

征四郎は目の前のピアノ線を、指で弾(はじ)きあげる

 

「ククククク....

 

  浅はかな奴らだ....」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

某県、某所-------、

 

「(これが、叶生野(とおの)家の

 

   連中か-----)」

 

"カタッ"

 

征四郎は、手に持っていた

 

珈琲(コーヒー)のカップ

 

目の前の玲朴(れいぼく)なテーブルの上に置くと

 

部屋の中に集まった全員に目を向ける

 

「本当に....お祖父さまが、

 

  もう少しで

 

 お亡くなりになるなんて-----」

 

"叶生野 尤光(ゆうこう)"

 

巨大多国籍企業

 

叶生野財閥(ざいばつ)の長、

 

叶生野 尚佐(なおさ)の長女で

 

日本国内の、保険業、自動車業、

 

千を越える企業群を傘下に治めている

 

「----まったく、急な話だな」

 

「(・・・・・)」

 

征四郎は、尤光の隣に立っている

 

スーツを着た、背格好のよく通った男に目を向ける

 

"叶生野 正之(まさゆき)"

 

叶生野家の次男で、

 

アジアはおろか、世界の各地に跨(またが)る

 

企業群を支配している、叶生野家の中で、

 

日本、そしてアジアを中心に

 

製造業などを一手に取り仕切っている

 

「あら、お二人は、普段からお忙しいから

 

  この事はお知りでは

 

 無かったようで----?」

 

「突然の話だからな...」

 

"羽賀野 雅(はがの みやび)"

 

正之に向かって話し掛けている

 

質素だが、何故か見栄えのするドレスを着た女。

 

「(あいつは、叶生野家じゃ

 

  なかったはずだが----)」

 

「お医者の先生のお話では、

 

  あと何日持つかどうかって-------」

 

「そうなると、これから先------」

 

すでに、この叶生野家では、

 

叶生野グループの代表、

 

叶生野 尚佐(なおさ)の

 

死期が近い事を聞きつけ

 

尚佐に関わる一族の者達が

 

叶生野家の邸宅がある巨大な敷地に建てられた

 

屋敷へと集まってきていた-----

 

「ガハハッ!?

 

  まさかっ 親父も

 

 急に具合が悪くなるなんてな!」

 

「(--------、)」

 

髪の毛と、髭(ひげ)の区別がつかない程、

 

乱雑に顔の周りに毛を生やした巨体の男が

 

征四郎の少し先のテーブルに集まっている

 

叶生野に関係した一族の人間に向かって

 

大声で話し掛けている

 

「ただっ! 親父が逝(い)っちまうとなるとっ

 

  誰がっ 叶生野家を

 

 治める事になるんだっ!?」

 

「それは、兄さんには関係ない話だ-----」

 

"叶生野 善波(ぜんば)"

 

そして、

 

"叶生野 明人(あきひと)"

 

「すでに、兄さんは、とっくの昔に、

 

  "御代(みだい)"からは

 

  見切りをつけられている----」

 

「ガハハッ そうだな!?」

 

「兄さんは、この、叶生野家の

 

  一族の長として

 

  相応(ふさわ)しくない-----」

 

「・・・・」

 

まるで感情を発しない様な

 

冷たい瞳(め)を浮かべている

 

明人の表情を、征四郎は、

 

少し離れた先のテーブルから伺(うかが)う

 

「それにしたって、俺も一応は

 

  この叶生野家の長男だ!

 

  この場に俺がいたって

 

 悪いことは無いだろうっ!?

 

 -----なァっ!? 征四郎くんっ!?」

 

善波が、離れた場所にいる

 

征四郎に向かって大声を上げる

 

「-----ええ。」

 

「見ろ! 征四郎くんも、

 

  ああ言ってるぞ!?」

 

「-------ふっ」

 

「(--------!)」

 

善波の言葉に、その傍(そば)にいた雅が、

 

口の端をかすかに上げ、吐息を漏らす-----

 

「彼は、この叶生野家の一族では無く、

 

  傍流(ぼうりゅう)の方でしょう----?

 

  彼の話はを聞く必要は、

 

 無いんじゃなくって?」

 

雅の言葉に、善波はまるで気にした素振りを見せず

 

部屋の中に聞こえる様に、大声を上げる

 

「そうは言っても、征四郎くんは、

 

  今やこの叶生野家の一人一人を

 

 凌(しの)ぐほど海外で多数の

 

  金融業や他の事業を

 

 取り仕切ってるじゃないか!?

 

  尚佐の祖父(じい)さんが死ぬんだったら

 

  征四郎君も血を分けた叶生野の一人だ!

 

 ここにいる理由は

 

 十分にあるんじゃないかっ!?」

 

「-----征四郎さん」

 

「・・・何か」

 

善波の隣にいた、叶生野家の長女、

 

尤光が、物憂(ものう)げな表情で

 

征四郎の元へと近づいてくる

 

「あなたは、確かに、鴇与家の代表とは言っても、

 

  しょせん、私たち、叶生野家の者とは

 

  その、"血"が、違う------」

 

「------だから?」

 

「あなたに、この叶生野家に対して、

 

  何か口を出せる筈(はず)は

 

  ないでしょう----?」

 

尤光、正之、明人、雅と違い、

 

征四郎の母は、この四人と同じ、

 

"叶生野"姓の出自ではあるが、

 

実父がこの叶生野グループの代表である

 

目の前にいる四人とは違い、

 

征四郎は所詮、叶生野の本流から外れた

 

傍流の一族の一人にしか過ぎない

 

「-----その通りかもしれない」

 

征四郎は、作り笑顔とは思えない様な

 

遜(へりくだ)った笑顔を尤光に向ける-----

 

「----分かっているなら

 

 よろしい----。」

 

「・・・・」

 

柔和(にゅうわ)な表情を見せていた

 

尤光の表情が一瞬にして変わった事に

 

征四郎の心の内が、波打つ

 

「ガチャンッ」

 

「お、お祖父さまがっ!」

 

突然、豪紗(ごうしゃ)な扉が開き、

 

そこから、一人の和服を着た

 

少女が部屋の中に入ってくる

 

「ど、どうしたの綾音(あやね)!?」

 

「お、お医者様が、

 

  とにかく、みんなに集まってくれって----」

 

「・・・・!」