おめぇ握り寿司が食いてえ

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「23世紀の恋人」 11の愛

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あれから、51年後-----、

 

「ばあちゃん、それで、

 

  それからどうなったの?」

 

「----ああ、そうかい?」

 

「続きを聞かせてよ!」

 

セゲナが、暖炉の前で膝に毛布を掛けながら

 

椅子に揺られていると、

 

セゲナの孫である

 

"ムナムムハツチャカケナミショウ・

 

 ショウショウショウ・ド・デ・

 

 ラ・ホーヤ"がセゲナに向かって話し掛けてくる

 

「それで、その後、あたしも

 

  その、私を助けてくれた男の人を

 

  長い間探し続けてたんだけどね-----」

 

「それで?」

 

チャカ・ド・デ・ラ・ホーヤは

 

椅子に座っているセゲナに向かって

 

笑顔を浮かべる

 

「でも、結局、

 

  その人は、分からずじまい-----」

 

「----結局誰か分からなかったって事?」

 

「・・・・」

 

セゲナは、この51年の事を思い返す----

 

マンホールの中-----、

 

マンホールの下------、

 

マンホールの上-------、

 

マンホールの横--------、

 

マンホールの左---------、

 

マンホールの右----------、

 

「(あの人は、いなかった----)」

 

ありとあらゆる、自分が思い付く限りの場所を

 

セゲナは恋愛物質感知器を頼りに探し続けたが、

 

結局、"彼"の事を

 

見つける事ができなかった----

 

「私も、大分、探したんだけどね------」

 

「見つからなかったんだ-----」

 

「パチ パチ」

 

「・・・・・」

 

暖炉の火が、セゲナの話を聞いていたのか、

 

パチパチと勢いよく音を立てて燃える

 

「あれから51年-------」

 

「ガチャ」

 

「!」

 

突然、セゲナとデ・ラ・ホーヤがいる

 

小屋の入り口が開く

 

「・・・・・」

 

"コッ コッ コッ コッ-----"

 

「------誰?」

 

「・・・・・」

 

小屋の入り口から入ってきた男は、

 

無言で、セゲナの元まで近づいてくる

 

"コッ コッ コッ コッ-----

 

「(ま、まさか-----)」

 

「ピピピッ!」

 

「!」

 

セゲナの脇に置いてあった、

 

恋愛物質感知器が、激しく音を立てる!

 

「------探したよ...」

 

「あ、あなたは------」

 

男は、暗い入口から、

 

暖炉の灯りに照らされている

 

セゲナの傍までやってくる-----

 

「ピピッ ピピピッ」

 

「もう、あれから51年になるか-----」

 

「(------!)」

 

セゲナの鼓動が高まる

 

「まさか、こんな場所にいるとは------」

 

「あ、あたなが-----?」

 

「・・・・」

 

"ニッコリ"

 

男は、皺だらけの顔に、

 

更に大きな皺を作る

 

「じょ、冗談でしょ?」

 

「ガタッ」

 

セゲナが椅子から立ち上がる

 

「ああ、冗談だ」

 

「・・・・え?」

 

"カタッ"

 

男は、セゲナの脇の小机に乗っている

 

恋愛物質感知器を手に取る-----

 

「君は、マンホールの辺りを

 

 探してたみたいだけど、

 

  本当に、ちゃんとよく探したのかい?」

 

「----え、ええ...」

 

マンホールの上-----、

 

マンホールの下------、

 

マンホールの中-------、

 

マンホールの左--------、

 

マンホールの右---------、

 

「わ、私は、全部-----」

 

「でも、マンホールの

 

  "外"は探してなかったんじゃないか?」

 

「ッ!?」

 

男は、恋愛物質感知器を手に取りながら、

 

まるで、事件を解き明かした

 

探偵の様な仕草を見せる

 

「マンホールの"外"、は------、

 

  君が思っている様な世界じゃない-----」

 

「--------、」

 

「マンホール、そして、

 

  "外"は、

 

  君が想定している、いや、

 

  "していた"

 

  その想定からは、少し、

 

  ズレていたんじゃないか-----?」

 

「・・・・・」

 

"確かにそうかもしれない"

 

「"外"と言うのは、

 

  "中"の対義語で、

 

  百科事典や、辞書などによれば、

 

  異なる、別々の

 

  "二つ"の概念だ------」

 

「・・・・!」

 

"盲点だった"

 

「カァァァァァアアア」

 

セゲナの顔が赤面する

 

「異なる二つの概念から

 

  結果を得ようとするには、

 

  それ相応の代償が無ければならない----」

 

「"代償"------、」

 

"コトッ"

 

「・・・・・・」

 

男は、手に持っていた恋愛物質感知器を

 

再び、小机の上に置く

 

「まあ、全部、

 

  "嘘"なんだけどね-----」

 

「う、嘘-----?」

 

「そう、この世の全ては偽り、

 

  虚妄(きょもう)の世界の

 

  産物にしか過ぎない-----」

 

「・・・・」

 

「嘘や、憎しみに縛られた

 

  自意識では、

 

  真の悟りを開く事はできぬ-----」

 

「・・・・!」

 

「悟りを開かぬのならば、

 

  在家の侭(まま)で解脱する事は

 

  身を滅ぼすことになるのだ-----」

 

「(どこかで-----、

 

   "誰か"が------、

 

  "私"を---------、

 

   "愛"して-------

 

   -----------"る"」

 

「さあ、行こう、セゲナ!」

 

「・・・・」

 

ガタッ

 

セゲナは無言で椅子から立ち上がる

 

「おうよ!」

 

「23世紀の恋人」(終)