「血の家」 七十七雫
「もうすぐ二瀬川の橋に着くぞ!?」
"ブゥゥオオオンッ"
踏んだ足の力に応える様に、
三人を乗せた車が、二瀬川の方に向かって行く!
「だから、自分の出身である鴇与の家-----、
そして、その自分の家の子である
俺を次の御代に-------」
「・・・そうでござい、ま、す-----ゴフッ」
「いや、だが------」
征四郎の頭に、サングラスの男の事が浮かぶ
「それじゃあ、近藤さん、
アンタが今まで俺たちの前に
何度か姿を現していたのは何でなんだ?」
「-----それは...」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「どうやら、尚佐、あの人は、
自分の息子、鴇与家の男子...
名前を、"征四郎"と言ったかしら----」
尚佐が死ぬ二年前、
尚佐の妻である満江は、
叶生野荘の屋敷で自分の部屋に呼び寄せた
近藤に向かって口を開く
「・・・・」
近藤は、黙って満江の話を聞いている
「どうやら、あの人は
私の息子、長男である善波を差し置いて
その、"征四郎"とやらを
次の御代にしようと
しているつもりらしいの-----」
「・・・・」
「確かに、善波は生来があの性格だから
御代になる事は無理かもしれない-----、
でも、それにしたって尤光や正之、
そして明人もいる-----」
「・・・・」
満江が、冷えた目で花瓶に差された
花を見ているのを見て近藤は目を細める
「------何を考えているのかは知らないけど
あの人が、その様なつもりなら-----、」
「・・・・」
「近藤、あなたは、これから
尚佐の動きを追って尚佐が次の御代を
征四郎にしようとしているのを
止めなさい-------、」
「その様な事はできかねます-----」
「-----近藤。」
"スッ"
満江が、テーブルから立ち上がり
立ちながら頭を深く下げている
近藤の元まで歩み寄って行く
「以前にも言った通り、
尚佐は、この、叶生野の人間ではなく
鴇与の人間-------」
「------はい」
「その、叶生野の血ではない
尚佐、そして征四郎が
次の御代になる...」
「--------、」
「あなたは、それで本当に
叶生野の家の執事と
言えるのかしら-----?」
「・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「それから、私は、満江さまの
命を受けて、尤光様三兄弟が
御代になられる様に画策すべく、
この叶生野荘の中で
動き回っていました...」
「そう言う事だったのか...」
"スッ"
「・・・・?」
近藤が、手を震わせながら
一枚の紙を自分の懐から取り出す
「元々、今回の件------」
「御代の事か?」
「そう、始まりは、あの尚佐様の遺言書...
そして、その遺言書に書かれていた名前は、
征佐の文字ではなく
"征四郎"の文字でした-------」
「・・・何で、それを
"征佐"に書き換えたんだ?」
「・・・・」
近藤は、窓の外に見える二瀬川の橋に目を向ける
「私は、迷っていました-------」
「・・・・」
「満江さまからの命を受けた物の、
尚佐様のご意志も
慮(おもんばか)って-----、」
「おい、もうすぐ橋だ!
揺れるぞ!?」
「満江様からの命を受けた物の、
尚佐様のご意志に背けば、
私の執事としての意義は、
一体どこにあるのでしょう------」
「・・・・」
「私は、こう考えました-----」
「・・・」
「尚佐様が残した遺言書、
そこに書き込まれた、征四郎様、
あなたの名前を、尚佐様の本名である
"征佐"に書き換える事で、
この、一族間の繋がりが薄くなり
バラバラになった叶生野の一族を
一つにまとめる事が
できるのではないかと------、」
「だから、俺たちが、征佐を探して
この叶生野荘を動き回っているのを
助けていたって事か-----?」
「------そうで御座います...」
「こ、これを-----!」
近藤は、手を震わせながら、
一枚の"紙"を征四郎の元に差し出してくる
「お、おい------」
「・・・・?」
「ま、前------、」
善波が二人の話を遮って、
橋の方に目を向ける
「あ、あれは-------!」
"キィィィィィッ"
"ブロロロロロロロロッ"
「く、車が------!」
"ブゥオオオオンッ"
"キキィッ!"
征四郎が善波の言葉に
二瀬川の橋の方に目を向ける
"ウォォォオンッ!"
"ビーーーーーーッ!"
「な、何だありゃ....」
「車が.....」
二人が自分達が乗っている車の先から
二瀬川の橋の方に目を向けると、
そこには、黒塗りの車が何十台も
まるで、橋を塞ぐ様に止まっているのが見える
「お、おい、どうするんだ・・・・!」
「-------ッ」