「血の家」 八十六雫
「
"チャポンッ"
「本当に、これで良かったのか-----?」
「・・・・」
"ブンッ"
叶生野の屋敷から、車を少し走らせた場所、
山中にある明媚な場所で、征四郎は目の前の
湖面に向かって拾い上げた小石を放り投げる
"キィィィィッ!
「・・・・?」
「ガチャ」
二人が立っている湖の側に、
黒いセダン型の車が停まりその中から
二人の男が降りてくる
「------善波御代!」
「・・・おいおい、その呼び名は止めてくれんか」
善波は、車から降りて来た禎三、
そして総司に向かって大きな笑みを浮かべる
「何を言ってるんだ? 昔から、
この叶生野では御代になった者を
"御代"と呼ぶのは、当然の慣わしだろう?」
「そ、それはそうなんだが....」
総司の言葉に、善波は頬の辺りを人差し指でかく
「・・・・」
"チャポンッ"
「おい、征四郎君-------」
「・・・・」
湖に向かって石を放り投げていた征四郎が、
総司と禎三の方に向き直る
「------まさか、君が御代の座を
放棄すると聞いたときは
俺も驚いたが-------」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「あ、アンタ達、どうやってここに------」
「ああ」
叶生野の理事達が集まる、
理事総会が開かれている一室で
征四郎は、床にへたり込んでいる雅を見下ろす
「-----お前はどうやら、あの橋の前に
自分の部下を呼んで
俺達をあの場所に釘付けにする
つもりだったらしいが...」
「ど、どうやって、あの場所から------っ」
「・・・・」
「ガチャ」
「・・・・!」
「征四郎!」
「------征由...」
「な-------、」
「な、なんて-----!」
"カッ カッ カッ カッ....
「ひ、人を呼んでたの------」
征四郎の兄、征由が、部屋の入り口から
征四郎たちの元まで歩いてくる
「・・・・」
征四郎は、雅を見下ろす------
「あの、鳰部の館にいたお前の態度が
どうも妙だったからな------」
「ど、どうやって、外と連絡を取ったのっ」
鳰部の館で、雅は、征四郎の携帯を借り受ける事で
征四郎と外部の連絡を取れない様にし、
征四郎たちを鳰部や鷸原の中州に
置き去りにするつもりだった
「-----単純だ。 俺は、初めから
お前を信用していなかったし、
お前の態度が妙なのにも気付いていた..
だから、俺はお前に携帯を渡す前に、
ここにいる征由に連絡を取り
二瀬川に人を呼んだだけだ------」
「・・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「-----とりあえず、雅のアテが
外れたって事だな。」
「雅のヤツ、理事総会でお前らがいない所で
何かとそれらしい理由を付けて、
自分が御代になるつもりだった様だが...」
「・・・・」
"チャポンッ"
征四郎は、二人の言葉に興味が無いのか、
ただ、目の前の水辺に向かって
無言で小石を放り投げている
「ただ、それにしても------、」
"ザッ"
善波が、石を投げている征四郎に一歩歩み寄る
「雅を御代から降ろして、
そうなれば、君は、親父の遺言書によれば
次の御代になる筈だった------!」
「・・・・ふっ!」
"バチャンッ!"
征四郎が、思い切り振りかぶり
手にしていた小石を水面に向かって叩きつける!
「だが、君は、あの場で
御代になる事を放棄し
御代の座を俺に譲った-------!」
「・・・・」
「何でなんだ------?
征四郎くん------?」
「・・・・」
"バサッ"
「・・・・」
「お、おい、」
征四郎は、自分の足元に置いていた
スーツの上着を拾い上げると善波の横を通り抜け
湖から、どこかへと向かって歩いて行く...
「お、おい!?」
「・・・・」
"ザッ"
スーツの上着を片手にして背中に抱えながら
善波の方に向き直る
「------元々、事の起こりを考えれば、
尚佐御大が、次の御代を自分の出身である
鴇与の家に継がせようとした事が
今回の騒動の始まり...」
「だから、どうしたんだ?」
「元々、それさえ無ければ、
俺に御代になる資格
なんて在りはしない-----」
「そ、それはそうかも知れんが...」
"ザッ"
征四郎が、流れる、一筋の雲を見上げる
「叶生野の"血"------、
そして、鴇与の"血"------...
二つの血の違いが、今回の
御代の争いを引き起こした...」
「・・・・」
"ザッ"
「二つの血は、流れとなり、
そしてその流れはやがて、
一本の大きな川となり
どこまでも続いて行く...」
「・・・・」
「血の川の流れが、最後に辿り着いた家は
"血の家"として、
どこまでも続いて行く-----」
「・・・・!」
"ザッ ザッ ザッ ザッ--------
「血の家」 ~fin.