「血の家」 八十五雫
「む、無効だと-------?」
「な、何を言ってるんだ? 善波?」
「・・・・」
善波は、部屋の中にいる理事たちの言葉を
まるで聞く事も無く、部屋の中にいる全員を
壇上から見下ろす-------
「単純な話だ------
いくら、多数の理事たちの可決によって
本会の議案である
"御代"の座が可決しようと、
その可決に関わる過程で
重要な瑕疵や不正があれば
その決定は可決から無効に変わる------
当然の理屈だろう?」
「---------!」
「------退け」
壇上にいる善波の事を目を見開いて
呆然と見ていた雅を押しのけて、
藤道會総帥、藤道 仁左衛門が
理事達をかき分け
善波の元へとやってくる------
「仁左衛門の祖父さんか」
「-----善波、キサマ------!」
"コンッ コンッ"
仁左衛門は、自分の隣にある円卓の上を
ステッキで叩きながら、
"ギロリ"と善波を睨みつける
「何を考えてその様な訳の分からん事を
言ってるのか分からんが...
すでに今回の理事会は雅を御代にする事で
決定しておる-------、」
「何だ、アンタは、雅と繋がってるのか?」
「-----キサマッ!」
「と、藤道理事!?」
「ッ------」
「さっきから、この総会を見ていたが、
アンタは終始総司や禎三に対して
強く当たってたじゃないか・・・?」
「・・・・・」
"バッ バッ"
仁左衛門は、善波の言葉に取り合わず、
着ている着物の前を直す
「-----お前にどういう理屈や理由が
あるかは分からんが、
"決定"は、"決定"------
今更、キサマの様な小僧が出て来た所で
今回の決定は覆る物ではない------!」
「・・・・」
"ガンッ!"
「------ッ!?」
仁左衛門が思い切り手にしていたステッキを
机の上に叩きつける!
「貴様の様な、不肖の分際の跡目を
放棄した身分の小僧がっ!?
今更この叶生野の家を
かき乱すでは無いわっ!」
「と、藤道会長っ!?」
「.....るな」
「--------?」
「ぜ、善波?」
善波が、仁左衛門に向かって何かをボソリと呟くと
善波の脇にいた禎三が驚いて目を剥く
「今、キサマ、何と-------!...」
「-------"ふざけるな"っ!
と言ったんだ!?
この老いぼれっ!!?」
「-------!!?」
「ぜ、善波っ!」
"バッ"
善波は、自分の体を押さえて来た
禎三の腕を振りほどく!
「き、キサマこのワシに向かって
何と言う.....っ」
「・・・・」
"カッ カッ カッ-------
「そもそも、今回の御代------、」
「・・・・・」
壇上から自分の元に歩み寄ってくる善波を
仁左衛門は、ただ見ている
「前代、尚佐の意志では
御代の跡目は征四郎になる予定だった...」
「・・・・」
"カッ カッ カッ カッ-----...
「それを、貴様ら他の兄弟たちは、
卑劣な手を使い、征四郎くんを
貶め様としただけではなく...」
"カッ カッ カッ カッ------」
「剰え、この期に及んで貴様らは
卑怯にも手を組んで結託し、
この場にいる理事達を騙して
"御代"の座を
手に入れようとしている------っ!」
"ガッ!
善波が、仁左衛門の前に立ち、
仁左衛門を真っすぐ睨みつける!
「-----それがっ! 正しいかっ!?
貴様らの考えでっ
この叶生野の血が汚せると思うかっ!?」
「・・・・!」
「・・・・」
「・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「------....」
善波の恫喝に言葉を失くしたのか、
部屋の中にいた理事達が言葉を失い
部屋の中が沈黙に包まれる...
「な、でも、ここに、
遺言書が-------
ッ!?」
「ガチャ」
「-------せ、征四郎っ!?」
「雅--------!」
"カッ カッ カッ カッ....
「お前は---------!」
征四郎は、自分の脇に、
黒いスーツを着た男を従えながら
部屋の入り口から雅に向かって
目を反らさず、雅だけを見て
理事達の横を通り抜けていく-----
「な-------!」
"ドサッ"
「み、雅さま-----!」
腕を掴んでいた雅の部下の襟首を放ち、
征四郎は男を部屋の床に叩きつける!
「・・・お前のその遺言書が、
お前がこの総会に合わせて
偽造した物だと、
こいつに全て吐かせたぞ・・・」
「な、な------、!」
「ゆ、遺言書が偽造------?」
「じゃ、じゃあ、御代の座は------?」
「・・・・」