「血の家」 六十九雫
「あ、あの野郎ーーーーーっ!」
"ダンッ"
橋を支えている大きな杭(くい)の
横にいた明人が力任せにその柱を殴りつける!
「は、はじめから、このつもりで-----!」
「俺達を御代にするって話は、
嘘だったのか------!」
「・・・おい、どういう事だ?」
「善波兄さん・・・・」
橋の前で、我を失っている三人に
征四郎の隣にいた善波が近寄って行く
「-----見ての通り。
・・・
私たちは今、雅に騙されて
この、中州に置いてけぼり------」
"スッ"
善波の脇から征四郎が
おどけた態度を見せている尤光に近付いて行く
「-----さっき、お前らは協力して
俺をここに連れてくるだとか、
何だとか------」
「....ククククク」
明人が歪んだ笑みを浮かべる
「そうだ...俺達は
征佐がこの鳰部にいると聞かされて
お前をここに連れ出し...」
「この館に罠を仕掛けたのは
お前らか-----?」
「-----フッ」
明人は自嘲するような笑い顔を見せている
「そうだ------、
あの雅の系図によれば
お前、征四郎は
尚佐御大の息子-------...」
"系図"とは、どうやら雅が
鴇与の村で見つけた系図の事を言ってるらしい
「しかも、その系図によれば
俺達三人は、御大の
実の子でも何でもないみたいじゃないか...」
「・・・・」
征四郎は何も言わず、明人を見る
「だから、俺たちは
お前らをここに呼び寄せ
お前らは、ここで
不慮の死を遂げる------、」
「-------、」
「その筈だった...」
「・・・・」
「そんな事が、許されると思うか?」
「...ククククク」
「(コイツ-----)」
すでに開き直っているのか
不快な笑みを浮かべている明人に
征四郎の表情が歪む
「あり得ないんだよ-----?
我々、叶生野の一族を差し置いて
お前の様な傍流の、
名前すら知られていない様な
小賢しいだけが取り柄の人間が
次の御代になるなどと...」
「おい、キサマ・・・」
「!?」
"ガキッ"
「っあっ!」
「ぜ、ゼンバ!」
「に、兄さん?」
"ズササッ"
征四郎の隣にいた善波が
明人の元に歩み寄り、明人の顔面に拳を浴びせる!
「な、何を------!」
「お前ら・・・・」
地面に片膝をつき、顔を左手で
拭(ぬぐ)っている明人を善波が上から見下ろす
「そもそも、御代の権利はこの場にいる
全員にあるものだ...」
「-----だ、だから」
「それを、お前ら三人は
自分が御代になりたいが為に
征四郎くんに卑劣な手を仕掛け
自分達の思うがままに
俺達を操ろうとした------、」
「クククク...」
「何で笑う-------?」
善波が、明人を見る
「俺達、兄弟-----、
いや、すでに兄弟ですらないか...
俺たちは、この叶生野の御代になれるのなら、
人を殺す事を
ためらったりはしない-----!」
「き、キサマッ!」
「に、兄さんっ!」
「ぜ、善波さんっ!?」