「血の家」 六十三雫
"キィィッ"
「うおっ、と」
「な、何だ?」
「ガチャ」
叶生野荘の外れの辺り、
木でようやく作られた様な二瀬川の橋を越え
少ししたところで征四郎たちが乗った
リムジンが突然停止する
「な、何だ?」
「ガチャ」
善波、そして征四郎は、後部座席のドアを開け
すでに車から降りている雅を見る
「-----どうしたんだ?
鳰部にある館は、まだ先だろう?」
「・・・これ以上、車は進めないって事?」
「どうやら------」
善波が、雅に話し掛けると
雅はこのリムジンの運転手と思われる
自分の部下と何かを話している
「あら、これは皆さま------、」
「・・・尤光。」
「何だ、お前らも、ここまで来たのか----?」
「明人....?」
征四郎、善波が、橋の前で立っていると
少し先の木の陰の後ろに停められた
車の中から、尤光、明人、そして正之が降りてくる
「・・・何だ? 俺たちの後を追って来たのか?」
「・・・・」
「------フン、」
征四郎が、何も言わないのを見ると
明人は興を無くした様に
自分達の方の車に向かって行く
「な、何でアイツらがここにいるんだ?」
「・・・・」
善波が、自分の運転手と思われる
雅に向かって驚いた表情を浮かべる
「ええ、尤光姉さんたちに教えた
鷸原の集落は、
この二瀬川の橋を越えた東側-----、」
「・・・・」
「そして、私たちが今から向かう
鳰部の集落は、橋を越えた反対、
西側-----....」
「す、すぐ隣り同士の集落って事か?」
「そう------、」
雅は、車からどこか別の方に向かって
歩いて行く尤光兄妹に目を向けている
「お前、尤光たちには
別の場所を教えたと
言ってなかったか...?」
「-----ええ、だから
征佐のいる鳰部ではなく、
その隣の鷸原の事を教えたのだけど...」
「こ、こんな近い場所をか?」
「-------」
雅が、冷淡な表情を浮かべる
「尤光姉さんたちに、別の場所を教えると言っても
あまり場違いな場所を教えても
すぐに感づかれるでしょう-----?」
「・・・・」
「だから、征佐が本当にいる
この鳰部の集落からある程度近い
鷸原の場所を尤光姉さん達には
教えたんだけど-----」
「もう少し別の場所でも良かったんじゃないか?」
「-----とにかく、姉さんたちは
鷸原の方に向かったんだから
私たちは、ただ、鳰部の館の中にいる
征佐の所に向かえばいい------」
「・・・」
善波は、遠目を歩いて行く尤光たちを見ながら
自分達の先の視界に目を向ける
「その、征佐がいる、
"館"ってのはここから近いのか?」
「-----兄さん。」
「どうしたんだ?」
「ここから先は、どうやら歩くしかないみたい」
「ああ、このデカい車じゃ
これ以上先には進めんだろ。」
「・・・私も、鳰部の集落には入った事が無いから
道がこんなに狭くなってるとは
思わなかったんだけど...」
「・・・・」
橋を越えた先の西側の場所に目を向けると、
その先は道がほとんど無くなっていて
確かに今自分達が乗って来たリムジンでは
これ以上進めそうにない。
「ここから近い場所に
その、征佐が住んでる館があるんだよな?」
善波が、雅を見る
「ナニ? ココから、アルクの?」
「冗談でしょ?」
「・・・うっかりしてたわ...」
ジャン、ルーシーの言葉に
雅は、意外そうな顔つきを浮かべている
「----まあいい、歩きだか何だか知らんが
鳰部はもうすぐだ。」
「・・・・」
「とりあえず俺たちはこのまま進んで、
さっさとその、"征佐"に
会いに行こうじゃないか?」
「・・・そうね」
「(尤光....?)」
"ザッ ザッ ザッ ザッ..."
「どうしたんだ-----
征四郎くん?」
「いや....」
「尤光たちの事を心配してるのか?」
「・・・・」
「見た所、あいつらは
鷸原の方に向かってったみたいだから
とりあえずは平気なんじゃないか?」
「・・・・」
「これで、一歩リードってとこだな」
「(・・・・)」
「館は、ここからすぐだから
少し歩けばすぐ着くと思う」
「・・・・」
"ザッ ザッ ザッ ザッ-----、
「(-------、)」
征四郎は、一人で先を歩いて行く
雅の後姿を見ながら
先程叶生野の屋敷でした話を思い返す
"それじゃ、私たちは、鷸原-----、"
"間違っても俺たちの後を追おうなどと
思わない事だ------"
「(明人のあの口振りだとやつら三人は
雅たちと一緒に、俺たちがここに来る事を
知ってたんじゃないか...?)」
「ああ、そこ、少し気を付けて」
「・・・ほとんど道がないじゃないか」
「この辺りは、普段はあまり
人もいないですから-----」
「(・・・・)」
征四郎は、先を歩きながら何か話をしている
雅、そして善波を注意深く見る
「(だが、雅は俺達を
この尤光兄妹がいる
この場所まで連れて来た....)」
「....ククククク」
「・・・・?
ドウしたノ? セイシロウ?」
「・・・・」
「もう少しみたい。」
「"征佐"か-------」