「血の家」 二十一雫
「しかし、何なんだ、その、
"男"は------?」
「ブロロロロロロロロロロロ...」
総司の屋敷を後にした三人は
山道を善波の車に揺られながら
先程、征四郎が見たと言う
"サングラスをした男"
について話をしていた
「------さあ」
「何か目的があるのか?」
「・・・・」
何なのかはよく分からないが
その、"男"が自分達の目の前に
意味も無く現れた事は
どう考えても偶然では無いだろう
「("左葉会"か-----?)」
征四郎の頭に、とっさに明人の顔が浮かぶ
「(あいつら、叶生野の直系の人間が
何か、俺たちの行動を
監視するため-----
いや、下手をしたら
俺達の行動をどうにかするために
誰か人を
差し向けてるんじゃないか----?)」
「征四郎くん、どう思う?」
「-----いや...」
何も考えが浮かばない様な素振りを見せながら、
征四郎は先程目の前で起こった出来事を思い返す
「(左葉会が俺たちを監視するために
人をよこしたと言っても...」
【おまえ、何か変なヤツを見なかったか----?
こう、サングラスをした-----】
「(叶生野の屋敷で明人は
あの男についてまるで
知らない様な素振りを
見せていたよな----?)」
「...クククク」
「せ、セイシロウ?」
「-----征四郎くん」
突然、嫌らしい笑みを浮かべた征四郎に
脇にいた善波、後部座席に座っていたジャンは
顔を歪める
「(------面白くなってきたな...)」
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「これから、どうするつもりだ?」
「そうだな-----...」
山道を抜け、広い、何も無い
丘に囲まれた広い草原づたいの
道を走りながら、善波は
先程総司から渡された紙を手に取る
「総司とした話だと
どうやら、"征佐"はどこにいるかは
分からないが、一つ
興味深い事を言ってたな」
「興味深い事?」
「・・・
なんでも、この広い叶生野荘の中に
名前に"征"の字をよく使っている
氏族がいるそうだ」
「"征"の字-----、」
「そうだ。
俺はあまり聞いたことが無いが
どうやら、この叶生野荘でも
かなり外れの方にある、
山を一つ越えた神代(かみよ)の集落では、
よく、その集落の男子に
"征"の字を使うそうだ------」
「正確な場所は分かるのか?」
「分かるには分かるんだが....」
「・・・・・?」
ハンドルを握っている善波が
複雑な表情を見せたのを見て
征四郎の目が細まる
「どうも、その場所は、叶生野の中でも
いわゆる、"被差別集落"の様な
場所みたいなんだ-----」
「ナニ? それ?」
罪悪感を感じさせない様な
ジャンの口振りを気にしていないのか
善波はそのまま言葉を続ける
「前にも言った通り-----...
この叶生野の村は、すでに
何百年と叶生野の一族、
そして他から集まって来た
氏族たちが暮らし続けている訳だ」
「・・・・」
「この村ができ始めの頃は、
どの氏族も何かしらの事業に携(たずさ)わり
それぞれが、それぞれの仕事を持って
この村で生活していたんだが-----」
「・・・・」
昨日、善波が言っていた
叶生野荘の成り立ちの事を征四郎は思い出す
「だが、何百年も時が経てば
氏族の中にも、落ちこぼれ、
そして、栄える者、
様々な立場の者にその境遇が
分かれてくる訳だ-----」
「ミンナ、一等賞じゃないノ」
「そうは行かん訳だな。
そして、尚佐の祖父さんの屋敷、
まあ、御代の屋敷だが、
その屋敷を中心に、叶生野の本流から
外れた氏族たちは段々と、この叶生野荘の
外れの場所にその住む場所を移し、
そいつらが集まって集落が形成され
そこは、かなり排他的と言うか...
そう言う場所になってるらしい」
「----そんな場所があるのか」
「まあ、俺もそこに立ち寄った事は無いから
詳しい事はよく分からんのだがな-----」
「だけど、その集落にいる人間に
"征"の字が多いなら
何か、"征佐"の事に関しても
手掛かりがあるんじゃないか?」
「-----そうだといいんだがな」
"ブゥオオオンッ"
見晴らしのいい道に差し掛かったのか
善波は、アクセルを踏んでいる足を軽く踏み込み
安永の家から先へと向かって進んで行く