「血の家」 二十二雫
「・・・・」
「そろそろ、神代の集落の辺りだと思うが...」
安永家の仮宅(かたく)がある山の麓(ふもと)から
車を走らせ、広い田畑を側に
十五分程車を走らせると
征四郎たちの車の周りに
ポツポツと民家らしきものが目に入ってくる
「・・・・」
「多少、人もいるみたいだな」
「・・・・」
「ブロロロロロロロ....」
「(・・・・)」
何か、農作業でもしているのか
征四郎が助手席から周りに目を向けると
家屋(かおく)の周りに
いくらか人気(ひとけ)が見える
「(------何だ)」
珍しい物でも見たのか、
善波、征四郎、そしてジャンが乗った車を
不躾(ぶしつけ)に眺めてくる集落の人間を見て
征四郎の顔色が僅(わず)かに変わる
「スゴイ 見てるネ」
「まあ、普段この辺りにはあまり
人が来ないんじゃないか?
------珍しいんだろう」
"緋村"
"山羽"
"甘利"
「(・・・・)」
人の手があまり入っていない
集落の中を車で走っていると、
征四郎の目にいくつか、
民家の表札が目に入ってくる
「お、ちょうどいい。暇そうな奴がいるぞ」
"キッ"
「あー ちょっと、そこのアンタ」
「・・・・」
"スッ"
「あ、おい!」
善波が車の中から道端(みちばた)に立っている
老人に話しかけるが
「い、行っちまったぞ・・・・」
善波に話し掛けられた老人は、
善波を一瞥すると、そのまま
一言も発さず征四郎たちから離れて行く
「話し掛け方が悪かったんじゃないか?」
「----別の人間に聞いた方がいいか」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「しかし、人がほとんどいないな...」
「これじゃここに来ても
無駄だったんじゃないか?」
「・・・・」
しばらく、神代の集落の中で
道を歩く若い男や、何か、
軽食店の様な場所に集まっている
おそらく、この神代の集落の人間だと思われる
いくらかの人に話を聞いてみたが
「あまり、他の家の事には詳しくないみたいだな。
この集落の人間は」
「普通、他の家の人間の
名前なんて聞いたところで
詳しく知ってる人間は
そうそういないと思うが------」
善波が、話を聞いたこの辺りの人間に
自分が叶生野家の長男だと言う事を伝えると、
話を聞いた集落の人間は一応の反応は示すが、
それ以上深い話をしようすると
みな、それを知っているのか、ただ興味が無いのか
この辺りの人間からは
征四郎たちが求める様な答えは返ってこない
「・・・・・」
"キィッ"
「・・・・?」
軽食屋の様な場所の軒先(のきさき)にある
ただ、箱を置いただけの様な長椅子の前に
征四郎、善波、ジャンが腰を落ち着けていると
三人の前に一台の車が停まる
「あら-----
これは、皆さん----...
揃いも揃って------?」
「尤光----------」
「ガチャ」
二、三人の、スーツを着た男を従えながら、
叶生野家の長女、尤光が
敷物が敷かれた長椅子の上に座っている
征四郎たちの前に降りてくる
「これは、奇遇な事-------。」
「(---------)」
"奇遇"
と尤光は口にするが、
この場に尤光がいる事は偶然とは思えない
「(大方、別の家で
この神代の集落の事を聞きつけて
俺たちを見かけたから
嫌味の一つでも言いに来たんだろう)」
"シュッ"
「---------、」
尤光が、懐から煙草を取り出すと
尤光の脇にいた部下の様なスーツを着た男が
尤光の煙草に火を付ける
「スゥゥウウウウウウウ------」
「お前も、ここに来たのか」
「・・・・」
"パッ パッ"
「スッ」
煙草の灰を尤光が地面に撒(ま)こうとすると
脇にいた別の部下らしき男が
すかさず、尤光の煙草の下に
灰皿の様な物をあてがう
「兄さん------
そして、そちらは確か------?」
「・・・・」
「ああ、征四郎さんと仰ったかしら?
そして、ジャン------、」
「(・・・・・)」
尤光の言葉に反応せず、征四郎は
無表情で少し先の地面に目をやる
「あなたたちも、この神代の集落に来たと言う事は
どうやら、安永の家に
行ってらしたと言う事かしら-----?」
「何で知ってるんだ?」
「さぁ------、」
「・・・・」
先程、安永の屋敷で見た
サングラスの男の事が征四郎の頭に過(よぎ)る
「("こいつ"か-------?)」
「お三人とも、若くはないんだから
あまり無理されると、お体に
障るんじゃないかしら------」
「何だ? お前がここに来てるって事は
やっぱりこの神代の集落に
何かあるって事なのか?」
「---------、」
「竹井。」
「-------はい。」
「次。」
「------は、はい」
「・・・・・」
"ザッ ザッ ザッ ザッ------、
「ガチャ」
そのまま、何をする訳でも無く尤光は
脇に連れた男たちと一緒に車に乗り、
どこかへと去っていく
「ブロロロロロロロロロ....」
「あいつが、ここにいるって事は
やっぱり、この集落には
何かあるのかもな------」
「"セイスケ"がいるってコト?」
「・・・・」