「血の家」 七十三雫
「しかし-----、」
更に数時間ほど時間が経っただろうか。
「--------..」
誰に話し掛けているか分からないが、
善波が部屋の中の空間を虚ろ気に見ながら喋り出す
「・・・さっきの話からすると、
特段、雅にも御代を継げる様な
特別な理由がある訳じゃないんだろう?」
「--------、」
「それなのに、雅はわざわざ俺達を
こんな所に閉じ込めてる-----」
「・・・・」
「一体何の意味があるって言うんだ?
特に、俺達をこんな所に閉じ込めた所で
いずれ何日か経てば
俺たちの存在は叶生野荘の
知れる所になる-----、」
「確かに....
この場所には、今尚佐お祖父様の葬儀で
かなり叶生野に関わってる
人たちも集まってるし...」
少し離れた場所に座っていた尤光が
善波の言葉に同調する
「・・・・」
「そう言えば、葬儀の日は、
もう、今日か-----?」
「そうみたいね------」
部屋の中に一つしかない窓から
尤光が薄っすらと差し掛けている
朝の光に目を向ける----
「俺達を数日こんな所に閉じ込めた所で、
あまり大した意味が
あるとも思えないんだが-----」
「・・・・」
確かに、善波の言う通り
征四郎たちは雅にここに閉じ込められはしたが、
だからと言って、御代の後継者争いが
治まった訳でも無い
「雅は、何の意味も無く、俺達を
ここに閉じ込めただけって事なのか?
俺達を数日ここに閉じ込めてる間に、
何かあるって事なのか?」
「------わざわざ、俺達を騙して
この状況に追い込んだって事は
雅にはそれを上回る
"理由"がある------」
「・・・・」
明人が、自分の考えを喋るが、
部屋の中にいる征四郎たちはまるで声を上げない
「----待てよ?」
「・・・兄さん」
明人の隣に座っていた正之が口を開く
「----今日の、御代の葬儀------、」
「--------、」
「その葬儀には、今、この叶生野荘に集まった
叶生野に関連した人間が
ほぼ全て集まっている...」
「-----だから何だ?」
結論を急いでいるのか、促す様に喋る善波に
正之は少し早口になる
「もしこのまま、俺たちが
その葬儀の場に姿を現さないとなれば
おそらく、今回の葬儀の喪主は
"雅"---------」
「・・・そうなるな」
「もし、その、叶生野の
関連の者たちが集まった場で
何か、雅の"御代"を証明する様な
物があったとしたら-----...」
「-----"!"」
「・・・この叶生野荘に集まった
叶生野の傘下の者たちは、
"雅"を次の御代に
認めるんじゃないか----?」
「・・・系図か」
明人がボソリと呟く
「つまり、雅は、今日の午後に行われる葬儀、
その場所で、叶生野関連の者が
集まるのを見計らって、俺達がいない所で
ある程度確からしい証拠を
集まった人間達に見せつける事で
自分が御代の座につこうとしてる-----」
「・・・確かにそれならあり得るな」
征四郎の言葉に、明人が同調する
「じゃ、じゃあ、雅は
その葬儀の日を狙って、俺達をここに閉じ込め
自分が御代だと言う事を周りに知らせて、
なし崩しに自分が御代の座に
就こうって腹か-----?」
「・・・俺達、叶生野の本流の人間がいれば、
確たる遺言や証拠がなければ、
御代の座につく事は不可能だが、
だが、俺たちがいない場所、
そして、今回の葬儀の様に
ほぼ全ての叶生野の傘下の
人間が集まった理事会の様な場所で
さっきの系図や何かを見せれば、おそらく
雅が次の御代になる事を
止める人間はいないだろう------!」
「そ、それが、雅の狙いか-------っ」
「ガチャ」
「ッ!?」
突然、征四郎たちのいる部屋の扉が音を上げる