「血の家」 七十六雫
「
「だ、大丈夫か!?」
突然現れた二人の男が動かなくなったのを見て
征四郎と善波は倒れている明人、
そして近藤の元へと駆け寄って行く!
「ぐ、ぐぁあああああっ」
「と、とりあえず車に乗せろっ!」
「びょ、病院は!?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「近藤---------、」
「-------っ」
善波、そして征四郎が、車の後部座席に座り
近藤を横にして話し掛けるが
「-------い、いえ...」
どうやら、先程男に殴られたのが効いたのか、
近藤はかなり苦しそうな表情を浮かべている
「-----大丈夫だっ
とりあえず今車に乗って、
屋敷の方にお前を連れてってやる!」
「------ぜ、善波さま...
そして、征四郎さま-----、」
「-----喋らなくていい」
「------いえ...」
「?」
かなり苦しそうな様子に見えるが、
近藤は善波の言葉を押し切り
そのまま言葉を続ける
「この事は、申し上げて
おかなければいけません------」
「な、何だ!」
善波は、車を二瀬川の橋に向かって進ませながら、
後ろにいる近藤を見る
「今回の御代の件--------、」
「それが何だっ」
「今回、私が、自分の姿を隠して
お二人、そして、
叶生野の一族の前に現れたのには
理由がございました....」
「理由!?
-----何だっ!? それはっ!?」
「お二方--------、」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「-----じゃあ、尚佐さまは、
本当は、叶生野の一族ではなく、
鴇与の出身だと言うの!?」
「-------ええ」
四十年前------、
「しかも、どうやら、尚佐さまは
お隠しになられている様ですが、
どうやら、尚佐様には
この、叶生野の善波様以外にも
どうやら、お子がいる様で-----」
「な、何ですって!?」
東京の自宅、尚佐の妻、満江は
執事の近藤から突然聞かされた話に
感情を露わにする
「な、尚佐が叶生野の
一族では無いって------」
汐井(しおい)家の満江は
元々叶生野の家の一族であり、
そこから派生した汐井の家の出で
そこで、叶生野から
かなり遠くなった傍流ではあるが
叶生野を名乗る尚佐と結婚し、
息子の善波を設けていた--------、
「し、しかも、あの人に
善波以外の子が他にいるって言うの!?」
「オギャアアアアアアア」
「・・・・!」
満江が声を荒げた事に驚いたのか、
部屋の中にいた赤子の善波は大声で泣き声を上げる
「ええ、どうやら、尚佐さまの、
元々の出自は、叶生野荘の外れにある、
鴇与の家-------、」
「な、何でそれで叶生野の名を
名乗っているの!?」
「-----何故かは分かりませんが、
そこで幼少期を過ごされた後に、
尚佐様はこの叶生野の姓を
名乗る一族に目を付け身分を偽り、
叶生野姓を名乗られた様です-------、」
「な、何て....」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「それから、尚佐さまと
満江さまの関係は冷え切り
別の男性と懸想(けそう)した末
お生まれになったのが、
尤光さま、正之さま、
明人さまなのです-----」
「・・・・!」
「あ、明人!」
「ほ、本当かそれは-------」
腕を抱えながら、明人が
征四郎の隣に寝そべっている近藤を見る
「ええ、真でございます-----」
「な、何て-------!」
"ドサッ"
明人は、自分が座っている座席の背もたれに
深く背を預ける
「じゃあ、俺は、その、尚佐御大が
すでに別の女と関りを持っていた時に
生まれた子供-----」
「そうで御座います------」
近藤が、自分に沿う様に横に座っていた
征四郎を見上げる
「私は、それから、満江さまに頼まれて
尚佐さまの事をいくらかお調べする内に
いくつかの事が分かりました------」
「・・・・」
「尚佐さまは、元々、この、叶生野荘の外れにある
鴇与の村の出身の方------」
「そ、それが、何だって叶生野の名前を
名乗る様になったんだ?」
「お、おそらく------ごはっ」
「お、おい」
「鴇与の村の者は、この叶生野の村の中でも、
すでに叶生野の一族である事も
忘れ去られた様な
家格の低い家で御座います...」
「それで、自分を家格が高い叶生野の家の一族だと
偽る事で、親父は叶生野の一族に
入り込んだって事なのか...」
「そ、そして、
尚佐さまは、そのまま、御自分の
才覚で、満江様を娶(めと)り、
この叶生野の中で御代の座まで
登りつめて行ったのです...」