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「死出密室島連続殺人事件(2)」

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死出島密室島連続殺人事件(2)

 

宏美先輩に言われた通り、

 

ホテルから見える、すぐ近くの

 

岬まで辿り着く、

 

夕暮れの岬は、

 

太陽の沈み具合に丁度合わせて、

 

オレンジに染まっている

 

風がかなり強い。

 

そこには、宏美先輩と、

 

もう一人の男がいた。

 

谷川 慎佑(たにがわ しんすけ)

 

「・・・」

 

神経質そうな顔つきにメガネをかけ、

 

小太りのその容姿は、

 

まるで絵にかいたような

 

「アニメオタク」

 

そのものだ。

 

鮎人

 

「・・・

 

 あれ? 確か宏美先輩もいるって聞いたけど...」

 

俺がそう聞くと、

 

谷川はいじっているカメラから視線を外し、

 

面倒くさそうな顔つきで、

 

谷川

 

「・・・

 

 宏美先輩は向う」

 

そう言った。

 

谷川の視線の先を見ると、

 

崖の手前で宏美先輩が一人で何かやっている。

 

思わず、

 

「危ない!」

 

と思って、

 

向こうまで駆け寄る。

 

鮎人

 

「宏美先輩!」

 

呼びかけるが、宏美は答えない。

 

少し不安になって、

 

もう一度呼びかける

 

鮎人

 

「宏美...先...輩?」

 

呼びかけると、

 

宏美は突然我に返って、

 

俺の顔を見る

 

宏美

 

「・・・

 

 鮎..人」

 

名前を呼び捨てにされたので

 

少し驚いたが、

 

そんな事より、今は宏美先輩を

 

崖から離す方が大事だ

 

鮎人

 

「そっちは崖だから危ない! 

 

 こっち!」

 

俺がそう言うと、

 

宏美は崖の下を興味なさそうに見て、

 

こちらに向かって歩いてきた

 

鮎人

 

「・・・

 

 そんな崖まで寄ったら危ないじゃないですか!」

 

宏美

 

「・・・

 

 そう。」

 

まるで危機感のない返事に、

 

少し驚かされた。

 

向こうから谷川がやってくる。

 

谷川

 

「おい! じゃあそろそろ撮影するぞ!

 

 いいか!」

 

鮎人

 

「撮影って...

 

 打ち合わせとか、

 

 そういうの普通あるんじゃ...」

 

谷川

 

「・・・

 

 宏美先輩から聞いてるんじゃないの?

 

 説明したって言ってたけど」

 

鮎人

 

「い、いや、 聞いてない」

 

宏美

 

「・・・

 

 ごめんなさい、

 

 少し勘違いしてたみたい。

 

 あなたにはまだ説明してなかったかな」

 

意外と風間先輩もうっかりしてるとこって

 

あるんだな、と思いつつ、

 

宏美の説明を聞く。

 

宏美

 

「ここは重要な場面だから、

 

 しっかり説明を聞いておいて」

 

鮎人

 

「は、はい」

 

宏美

 

「ヒロインの親友である愛佳(あいか)は、

 

 親友の菜未(なみ)に、

 

 付き合っている彼氏をとられ、

 

 一人、夕暮れの崖に佇む...」

 

鮎人

 

「(ベッタベタの展開だな)」

 

宏美

 

「聞いてる?」

 

鮎人

 

「あ、 ハイハイ。

 

 で、俺はどうすれば?」

 

宏美

 

「あなたは、その愛佳を遠めに見る...

 

 もし鮎人君だったら、

 

 そんな愛佳を見てどう思う?」

 

鮎人

 

「・・・

 

 それって俺が地元の人だったらって事ですか?

 

 うーん、

 

 "もしかしたら、自殺するのかも"

 

 って思うかも」

 

宏美

 

「そう。

 

 崖のふちに一人で佇(たたず)む愛佳...

 

 その足取りは、覚束(おぼつか)なく、

 

 視線は崖の下を見ている...」

 

鮎人

 

「ちょうどさっきの俺と先輩みたいに?」

 

宏美

 

「・・・」

 

なるほど、さっきわざわざ先輩が

 

崖の前に立っていたのは、

 

もしかしたら俺に演技指導するために、

 

わざとやってたんじゃないか・・・?

 

宏美

 

「あなたは今回、そのままでやってもらいます」

 

鮎人

 

「・・・

 

 そのまま?」

 

宏美

 

「そう。

 

 並河 鮎人として、

 

 崖の前で立っている愛佳を

 

 助ける...」

 

鮎人

 

「は、はあ」

 

宏美

 

「今回このシーンに

 

 あなたがぴったりだと思ったの。」

 

宏美先輩が俺の事を覚えていてくれたのは

 

驚いたが、悪い気はしない。

 

宏美

 

「じゃ、配置について

 

 さっきの感じでいいから」

 

そう言うと、宏美は崖の前まで

 

歩いていく。

 

少ししたらそこは二十メートル程はある、

 

岩礁(がんしょう)がたくさんある、

 

崖の下だ。

 

カメラマンの谷川も、

 

宏美の後をついていく...

 

もしかしたら谷川の方が危険なのかもしれない。

 

崖の前にいる、宏美先輩よりさらに、

 

崖のふちに立ってなきゃならないんだから。

 

三人が配置に着き、

 

谷川の合図を待って、

 

シーンが始まる。

 

谷川

 

「3、2、....」

 

突然、突風が吹いた

 

宏美の体が風にあおられて、よろめいた

 

谷川

 

「先輩!」

 

あわてて谷川が宏美先輩の体を抑える。

 

あまりにも強い風に、

 

立っているのもキツそうだ

 

「ドンッ」

 

よろめいた宏美の体が、

 

不幸な事に、谷川を押しのける

 

谷川

 

「え?」

 

谷川の姿勢が崩れる。

 

宏美に押し出された格好の谷川は、

 

体勢を崩し、地面のない場所に足をかける

 

谷川

 

「・・・

 

 あ、 ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

谷川の絶叫がこだまする

 

「ガッ ガガッ バチャッ」

 

慌てて駆けつけた俺と宏美先輩は、

 

崖の上から落ちてゆく谷川を、

 

どうする事もできなかった

 

宏美

 

「き、きゃぁあああああああ」

 

宏美が動転して叫ぶ

 

鮎人

 

「と、とにかく人を呼ぼう!」

 

我を失っている宏美の体を支えながら、

 

宿まで戻る...