「吉田と川越」 8OS
「ウィルか------、」
「・・・・」
"トン トン"
川越は、無言で地面に
煙草の灰を撒(ま)いている男に視線を向ける
「・・・・」
「見た所、アンタは、
エンジニアか何かの様だが-----...」
「-----分かるか?」
川越は、地面に落ちている
男が先程まで手にしていたハンマーに視線を向ける
「そこにそいつがあるって事は、
アンタ今、パソコンか何かを
"叩いて"たんじゃないのか-----?」
「・・・・」
「・・・?」
何故か、悲しそうな表情を浮かべている男を見て
川越が表情を僅(わず)かに変える
「お前らも、上から来たのか-----?」
「....そうだ。」
「・・・・だったらお前らも俺と同じ、
"ダークウェブ"って事か...」
【ダークウェブ】
人工知能、マルサールによって
地上のインターネット網の殆どを占拠された
人類は、成す術なく人工知能の
知識の渦(うず)に飲み込まれ、
ある者は、インターネット依存症、
そしてある者は精神に異常を来たし、
そしてある者は通り魔....
人類の大半はマルサールが
現実空間を支配した影響で家に引きこもり
外に出なくなった事により、
その生活の糧(かて)を奪われ、まては
飢えや困窮に苛(さいな)まさせられ
人類は、その数をかなりの速さで減らしていた...
「それで、マルサールを倒すために
お前らはわざわざ
ナジュレムのゲートなんかを潜って
このFo2-.NET内に来たって事か...」
人類の大半は、マルサールの支配に絶望を抱き、
地上は、混沌と破壊の世界に飲み込まれたが
その中の極僅かな人間、
"IT"と呼ばれる、
インターネット技術の専門技術を持った
少数の技術者たちは、
マルサールの支配に抵抗するため
自身を"ダークウェブ"と称し、
このV-MONET内の空間に
"アバター(仮想人格)"を送り込む事によって
V-MONET空間内の
どこかに存在する人工知能、
マルサールの居場所を突き止めようとしていた...
"ピンッ!"
川越が無表情で吸っていた煙草を
真っ白な地面に投げ捨てる
「確かに、ダークウェブの連中は....
俺やお前らも含め、
このV-MONET空間内に
来てはいるよ・・・?」
「(・・・・)」
ウィル、と呼ばれた何故か
ドワーフの様な格好をした男が
遠い目をしながら何も無い、
真っ白な空間の隅に目をやる
「・・・大半の奴らは、この先、
"Adiad-QUBE
(アディアド・キューブ"
と呼ばれる空間にリンクした後、
二度と帰ってこなかった...」
「・・・・」
「・・・・」
"ガサッ"
「・・・・!」
男は、台座の横に転がっていたハンマーを手に取る
「確かにマルサールをどうにかしてぇって
気持ちは分かるが...」
"キンッ!"
「だが、かと言ってこの先に進んだところで
帰って来れる保証は何も無ェ------!」
"キンッ!"
自分が手にしたハンマーで台座の上に乗せられた
作りかけのパソコンを男が叩くと、
ハンマーとパソコンがぶつかり合い
甲高い音を上げる
「何を勘違いしてるんだか分からねえが
この先の、"Adiad-QUBE"は、
おめぇらの様なヒヨッ子が
簡単に出入りできる場所じゃ
ねぇんだ-----!」
"ガンッ!"
「・・・・!」
男がさらにハンマーで力強くパソコンを叩くと、
脇にいた川越の目が大きく見開く!
「・・・そんな事は分かってる...」
"ザッ"
川越の隣にいた吉田が、男に向かって
一歩足を進ませる
「アンタが、ここで、自分の不遇を嘆(なげ)いて
諦めていようが、俺たちには
ダークウェブとしてマルサールを追う
使命がある------っ!」
「------ハッ!」
吉田の言葉に、ウィルは
侮蔑(ぶべつ)した様な乾いた笑い声を上げる
「・・・・」
ウィルの様子を気にする事無く、
吉田はそのまま言葉を続ける...
「確かにこの先、"Adiad-QUBE"に行って
何人もの人間が帰って
来なかったのかもしれない...」
「・・・・」
"キンッ!"
「だが、だからと言ってこのまま
マルサールの奴らに好き勝手この
俺達が住む世界を"自由"にさせる訳には
行かないんだ------ッ!!」
「・・・・・!」
"ガタタンッ!
「!!?」
「な、何だっ!?」
"ガタッ! ガタタタタタッタッ
「--------!!?」
"ガタンッガタンッガタンッガタンッ!"
「ゆ、揺れてるぞ! さ、佐々木!」
「-------!」
"グワァァァアアアァァアアアアアァァン...
「な、何だ------!」
「く、空間が---------っ!!」
突然、空間内が激しく揺さぶられる
「あ、あれ-------!?」
「ビ、"ビオグランテ"------!」
「ま、まさか------!」
"ズズ...ズズズズズズズ...."
突然、激しく揺さぶられていた空間の天井に
"裂け目"が浮かび上がる!
「---------」
"ズズ...ズズズズズ...."
そして、それと同時に空間の裂け目から
巨大な、人の形とは思えない
"手"の様な物が空間の外から
部屋の内側に向かって伸びてくる!
「ま、まさか-----
あ、アイツは----------!」
「か、"神"か-------!」
"ズズ ズズズズズズ....."
「DOA言語を破って来やがったのか------!」
「・・・・」
吉田は、目の前で驚いた表情を浮かべている
ウィルを見ながら、遥か上空の裂け目から伸びてくる
巨大な手に目を向ける------!
「"リンク"して来やがったな-----っ
川越ッ!」
「-------ッ!」
"ザッ"
吉田の言葉が終える前に、川越は
学生服の内側から、新型パソコン
"紫電零式ー§(オルデ)"を取り出す!
"ズズ....ズズズズ...."
「な、な------!」
「"HUCK"か-----?」
「------どうやら、その様だな」
川越に合わせるように、吉田も、
新型パソコン
AISUS-zk9"を構える!