「血の家」 八十雫
「では、まず、左葉会、平井様-------、」
雅が、部屋の奥の壇上から
自分に一番近い場所に座っている
平井に向かってマイクで呼びかける
「ガタッ」
平井は、席から立ち上がると
この部屋に集まった全員の理事を見渡し
声を上げる
「-----当然、今、この場の状況、
そして尚佐御大の遺言書を考えれば
次の御代には
"雅理事"がなるべきです------」
「------成る程。」
「ォォォオオ...」
「平井さんは、雅理事か------」
ザワ
ザワ
ザワ
部屋の中が小騒に包まれる
"クイ"
「・・・・・」
"カッ カッ カッ カッ"
「・・・・」
"キュッ キュッ"
「それでは、まず私、羽賀野 雅に
票が一つ入りました-------」
"パチ パチ パチ パチ...."
平井の言葉を聞いて、雅の部下が
雅の立っている壇上の後ろにあるホワイトボードに
マジックで"一"と書き込むと、
部屋の中から、何人かの拍手が聞こえてくる
「遺言書か-------」
「ああ、どうも雅の話だと、
生前尚佐御大が残した遺言書が
この叶生野荘の中で
見つかったらしいが------」
「・・・・」
「それでは、二人目-------」
総司と禎三が小声で話しをしていると
マイクを手に取った雅が
平井の席の隣に座っている
NTLの会長の奥田に目を向ける
「当然、"雅"理事です-------」
「・・・有難うございます」
"キュッ キュッ"
二人目の奥田の言葉を聞くと、
再び、雅の部下の黒いスーツを着た男が
ホワイトボードに、"一"の字に繋がる様に
縦線を書き込む
「それでは、三人目------、」
「羽賀野 雅です------」
「・・・・」
「------これで、私に集まった票が、
三票となりました-----」
「ぉお....」
三人の理事が続けて雅の名を口にした事に
部屋の中に、軽いうねりの様な声が波引く
「では-------、」
四人目------、
「私は、雅くんを、
次の御代に推したい----」
五人目 令和党幹事 富田 由房、
「雅さんです」
六人目 IJO、加納 敬三-------、
「私は、尤光代表、と言いたいところだが...
この場にいないんじゃあな・・・・
雅さんです」
"キュッ キュッ"
部屋の中に集まった理事たちが
雅の名を次々と口にしていくと、
ホワイトボードの上に
"正"の字、さらにそれに加えて
"一"の字が付け加えられる
「--------、」
「それでは、七人目、藤道會、主幹、
------- 藤道 禎三理事」
「------俺は、"征四郎"だ。」
「せ、征四郎?」
「-------...」
禎三の一言に、部屋の中に立った声の波が
僅かに、静まって行く----...
「せ、征四郎------?」
「ああ、確か、アメリカで------」
「彼は、この場にいないだろう-----?」
ザワ
ザワ
ザワ
「-----よく聞こえませんでしたが...」
「・・・・」
この場にいない征四郎の名前が
出るとは思わなかったのか雅は、
威圧感を感じさせるような目つきで禎三を
睨みつける
「・・・・」
禎三は、雅の視線を気にせず、両腕を組み
泰然と自分の席で目を閉じている
「もう一度、名前の方を
宜しいですか-------、」
「------何度も言うつもりも無いが
聞かれるなら、答えるだけだ。
"征四郎"、鴇与、征四郎だ------!」
「鴇与------?」
「何だ-----?」
ザワ
ザワ
ザワ