「血の家」 七十九雫
「(フン、揃いも揃って------?)」
雅は、斎場から自宅の叶生野の屋敷に戻り
その一室に集まった円卓を囲んでいる、
叶生野グループの理事たちに目を向ける
「-----御代、と言っても、
尤光副会長や他の叶生野の
理事達はどこへ行ったんだ----?」
二ツ橋銀行頭取、
生野 一成(いくの かずなり)
「何でも、御代の権利が自分に無い事を知って
告別式には姿を現さなかったとか-----」
その隣、国内通信事業を一手に取り仕切る
NTL 会長、
奥田 敬(おくだ たかし)。
「つまり、この場にいるのは、
羽賀野家の------、」
日本 令和党幹事、
富田 由房(よしふさ)...
「The next "Midai" is also important
for us overseas, the Tono Group.
(次の"御代"は、私達、海外で
叶生野の事業に参加する者たちにとっても
とても重要な事柄だ-----)」
海外において製薬会社を展開する
アイザー.Inc
フレッド・シュタイングレナー...
「(・・・・)」
隣にいるシュタイングレナーと
同様にサングラスを掛け、
無言でその場に佇んでいる男、
海外の電気通信事業を手掛ける
Electronic.E.o.チェアーパーソン、
ロバート・C・レイヴァー
この一室に集まった二十名ほどの
錚々(そうそう)たる人物たちが、部屋の中にある
円卓に一斉に席を着く
「・・・こ、これが、叶生野の理事たちか」
「-----普段は、あまり
集まる様な事もないがな...」
その中には、総司、そして禎三の姿も見える
「ガチャ」
「・・・・!」
最後に部屋の中に、遅れて
富士日本証券の
李 永中(り えいちゅう)
が入ってくる
「・・・・・」
「ガタッ」
「・・・・!」
「雅さん------!」
雅が席を立ったのを見て、
叶生野の中で最大閥、左葉会の代表である
アスト重工の平井 英二が声を上げる
「--------、」
"カッ カッ カッ カッ......
「・・・・」
「お、おい、総司」
「・・・・」
禎三の言葉に視線を向けず、総司は
席を立ち、部屋の奥側にある
壇上へと歩いて行く雅を黙って見ている
「--------、」
"ピピッ!"
「ガー」
「それでは、お集りの皆さま--------、」
雅が、壇の後ろに立ちマイクのスイッチを入れると
部屋の中に設置された
スピーカーから雅の声が反響してくる
「------今回は、私の父、前代、
叶生野家の御代である
尚佐の訃報(ふほう)に預かり、私、
羽賀野 雅は当会の理事、そして
尚佐御代の....
次女として真に.....
残念でなりません-------...」
「まさか、尚佐御大が------」
「-------、」
「もう少し、何とかなったんじゃないかと
思うんだが...」
部屋に集まった理事たちは、
皆、口々に悲痛な表情や言葉を並べ
周りの人間と何か小声で話しをしている
"ピーーーーー"
「しかし、我々、叶生野グループは
前代の御代、尚佐の逝去(せいきょ)に
立ち止まる事なく、新たな時代を見据え
次の時代へと我が叶生野グループは
舵を切って行かなければ
いけないでしょう------」
「そうだ! その通りだ!」
「-------有難うございます」
「お、おい、あれ左葉会の平井じゃないか?」
「(・・・・)」
総司が、雅のすぐ側、壇上の脇の
円卓に座っている男に目を向けると、
その男は、雅が放つ言葉に
一言一句同調するような仕草を見せている
「(左葉会は、尤光達の
閥だった筈だが....)」
「今、この場にはすでに
叶生野家、前代の尚佐御代の一族の人間は
この、壇上にいる
雅理事だけだ------!」
平井が部屋の中に集まっている全員を見る
「それなら、次の叶生野の御代は
この、羽賀野理事が
なるべきじゃないかっ!?」
「(どうやら、雅と左葉会は
既に繋がってるみたいだな------)」
「そ、総司」
総司は、雅と平井のやり取りを聞いて
何か、奥まった様な落ち着かない表情を見せる
「------確かに、今、尤光副代表や、
善波審議委員長がいないとなると
次の御代は雅理事になるのが
相応しいかも知れないが...」
「そうだっ!」
「------、」
「-------....」
左葉会の平井の言葉に、
部屋の中の理事たちの視線が一斉に雅に集まる
"ピピッ"
雅が、言葉を続ける
「------しかし、だからと言って、
この理事会の承認も無しに
次の御代を決める事は
当理事会の規約に
違反する事になるでしょう------」
「・・・・」
「・・・・・」
「・・・・」
静まり返った部屋の中に、雅の声だけが響く
「そこで、私、羽賀野 雅当会理事は
当座の暫定の御代として
今、ここで、次の御代を決める
投票を実施する事を宣言します------」
「投票か・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「そ、総司?」
「------まあ、当然の流れだろうな」
「・・・それでは、皆さま、今から順番に
この円卓に並んだ理事たちの推挙する
"御代"の名を一人一人、
順番にお答えになって下さい-----!」