「血の家」 六十二雫
「征四郎くんはどうなんだ-----?」
「"どう"とは-----、」
叶生野の屋敷の駐車場、
雅が手配したリムジンが来るのを待っていると、
横にいた善波が、征四郎に話し掛けてくる
「征次の話だと、どうやら、
ウチの親父は、君の事を次の御代に
推すつもりだったらしいが...」
「・・・・」
余り確かとも言えない、善波の言葉に
征四郎の言葉が詰まる
「君が、御代にならなかったとしたら
次の御代にはおそらく、
尤光、正之、明人の内の
誰かがなる事になるだろう-----」
「・・・・」
元々、征四郎には
叶生野の本流から遠い事もあってか
御代の事には、考えすら及んでいなかった
「・・・・」
「今まで俺たちが見て来たとおり
あの三人の内の誰かが
御代になると言うのは-----」
「・・・・」
確かに、善波の言う通り
あの手段を選ばないような三人が
次の御代になる事を考えれば...
「(御代か-----)」
「少し、腹を決めて考えた方がいいんじゃないか」
「・・・・」
「善波さま------」
"ブロロロロロロロロ..."
すでにエンジンがかかっている雅の用意した
リムジンの前で立っている善波、そして征四郎の元に
執事の近藤がやってくる
「些(いささ)か、まだ、鳰部の村に向かうには
やり残したことが
あるのではないかと...」
「何だ?」
「いえ-----、尚佐---」
「善波兄さんっ!?」
「・・・・」
雅が二人の話を割る様に
善波に向かって大声を上げる
「もう出れるから、早く、車に乗って!?」
「・・・・」
「(・・・・?)」
「ああ、そういう訳だから、
近藤。俺たちは今から雅と一緒に
鳰部の集落に-----」
"ザッ"
「・・・何だ?」
車の中に乗り込もうとした善波の前に
近藤が立ち塞がる
「葬儀も、二日後に控えております-----
各種段取りの決済も御座います故、
善波さまはまずそちらの方を
お済ませになってからでないと------」
「兄さんっ!?」
「あ、ああ、すぐ行く
・・・
そういう訳だ、近藤。
俺たちは、雅と一緒に今から
鳰部の集落に行かなければならない」
「・・・・」
近藤は、車の周りに控えている
別の執事達を見る
「-----それでは...」
"スッ"
「?」
近藤は、懐から一枚の封筒を取り出す
「先程、どうやらまた、
この封筒が屋敷の郵便受けに
挟まれていた様です...」
「また、アイツか?」
「・・・・」
善波が征四郎の顔を見る
「取り留めて、宛名なども
書かれておりませんでしたので
勝手ながら中身を
確認させて頂きましたが-----、」
「何て書かれていたんだ?」
「・・・・」
"スッ"
「な、何だ?」
「何が書かれているかは、
お二人が道中確認なさった方が
宜しいでしょう-----」
「・・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「とりあえず尤光たちより
俺たちの方が"征佐"、
に近付いてるって事なんだよな?」
「ええ-----」
運転席の隣に座っていた雅が
リムジンの中程の席に座っている善波に
車内スピーカーで答える
「一応、これで俺たちが尤光たちに
出し抜かれるって事は無さそうだが...」
"ドス"
善波は、リムジンのシートに深く背中を預ける
「・・・・」
「まだ、迷ってるのか?」
「いや------、」
浮かない表情をしている征四郎に向かって
善波が口を開く
「どの道、御代になるのは、
君か、尤光兄妹の誰かだろう。
中途半端にこの御代の話に加わっても
あまり、いい結果には
ならないんじゃないのか?」
「・・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「それじゃあ、尤光兄妹は
今、全く別の場所を回ってるのか?」
「-----ええ。」
雅が、後部座席に座っている
征四郎の言葉に答える
「(・・・・)」
今までの尤光兄妹のやり取り...
征次の話...
「(尤光兄妹は、尚佐御大の子では無く
俺が、尚佐の息子...?)」
そして、ダムの村、鴇与の村での出来事...
「(御代か-------)」
征四郎の頭に"御代"の文字が張り付いてくる
「(とにかく、俺が御代になるにしろ
ならないにしろ、尤光たちより先に
"征佐"を見つけるべきだ------)」
"ブロロロロロロロロロロ...."
「その、鳰部の村ってのはどの辺りなんだ?」
十人以上は乗れそうな
リムジンの最後部の座席で
征四郎が横に座っている善波に目を向ける
「ああ-----、ちょっと待て。
・・・
鳰部の集落ってのは、
この叶生野から一時間ほど車を走らせた場所、
二瀬川を越えた、中州にある場所だな・・・」
「一時間か・・・」
「まあ、それじゃ、この辺りを少し探しても、
征佐の情報が見つからんわけだな」
「・・・・」
「-----どうしたんだ?」
"雅 尤光 鳰部"
"ガサ"
「さっき、近藤から渡された封筒か?」
「ああ・・・」
「その封筒には、雅と尤光の名前、
そして、征佐がいる鳰部の事が
書かれてたみたいだよな...」
「(・・・・)」
征四郎は、運転席の方に目を向ける
「ハロー セイシロー、 ちょうしどうネ」
「・・・・」
「ちょっと、アンタ!」
リムジンの真ん中辺りの座席を見ると
そこにはジャン、そしてルーシーの姿が見える
「あいつらも一緒か」
「セイシロー
"ヒツジ"! "ヒツジ"がいるヨ!」
「-----羊くらい、どこだっているじゃない」
「・・・・・」
征四郎たちを乗せたリムジンが
鳰部に向かって叶生野の村落を走って行く