「血の家」 六十一雫
「さあ、兄さん-----?」
「・・・・!」
「おい、征四郎くん。」
「・・・?」
「ちょっと」
「・・・・」
征四郎が、雅の言葉に押し黙っていると
隣にいた善波が征四郎に小声で話し掛ける
「少し、席を外すぞ-----?」
「構わないわ------」
「・・・・」
善波は、雅を一瞥すると
征四郎を、雅たちから少し離れた
部屋の隅の方に呼び寄せる
「どうしたんだ・・・?」
「雅の話------、」
善波が、少し離れた場所にいる雅を見る
「雅の話は、俺たちが鷺代の家で
征次から聞いた話と大分、
食い違っていないか------?」
「・・・・」
確かに、雅の話には自分達が征次から聞いた話、
そして、ダムの村、鴇与の村で
集めた情報とはかなり矛盾した所がある
「だったら、どうするんだ----」
「あら、男性二人が集まって
何か困りごとでもあるのかしら?」
「・・・!」
雅が、離れた場所から小声で話し合っている
征四郎、そして善波に向かって、
薄い笑みを浮かべる
「何も、考える事は
無いんじゃないかしら-----?
やる事は、もう
決まっているのでは-----?」
「・・・すぐそっちに行くから、待ってろ」
「・・・・」
善波が、征四郎の方に向き直る
「事実がどういう事になってるかは
よく分からんが、
ここは、雅の言う通り俺達も
鳰部の館に行ってみるべきじゃないか?」
「・・・・」
「事実が何にしろ、"征佐"が、
その、鳰部の集落にいれば、
それはそれで、雅の話にも
信憑性(しんぴょうせい)が出てくる」
「-----征佐がいなかったら?」
「・・・その時はその時で、
俺たちが征次から聞いた話が
正しかったって事になる。」
「・・・・」
「どちらにしろ、征次の話が正しかろうが、
雅の話が正しかろうが、
事の真偽の確かめ様が無い以上、
ここは、雅と一緒に
鳰部の村に行ってみるってのはどうだ?」
「-----まず、征次にこの話の
確認をしてもいいとは思うが...」
「・・・・」
善波が考え込んだ様な表情を見せる
「・・・とりあえず、まずは、雅と一緒に
鳰部の集落に行って、
征次の所へはその後に
顔を出しても問題ないんじゃないか?」
「(-------、)」
征四郎が、善波の言葉に何も返事を返さないと
善波はそれが返答だと思ったのか、
雅の方に向かって歩いて行く
「-----よし。」
「あら、男性の集(つど)いは、
終わったのかしら----?」
「・・・・・」
皮肉なのか何なのかは分からないが
軽口を叩いている雅に向かって、
善波が歩み寄る
「とりあえず、俺達も、その-----
鳰部の集落に、
お前と一緒に行くことにした。」
「その方がいいわ-----。」
"スッ"
雅は、隣に立っていた
スーツを着た男に向かってアゴを傾ける
「すでに、車の方は
手配してあります------」
「・・・・」
「外の、ガレージに車を止めていますので、
お二人は、私の後に
付いてきて下さい-----、」
「・・・・」
「・・・・」
征四郎、善波は、顔を見合わせ
スタスタと素っ気なく
先を歩いて行く雅の後を追って行く