「血の家」 五十八雫
「じゃ、じゃあ、鷸原の集落って事だな?」
「------ええ」
兄・正之の言葉に、雅は
氷の様な冷えた笑みを浮かべる
「よ、よし、じゃあ、そこに行くぞ」
「------ああ」
"ドタッ ドタッ ドタッ ドタッ...."
尤光、正之、明人は雅の言葉を聞くと
慌てた素振りで部屋から出て行こうとする
「あら、征四郎さん-----?」
「・・・・」
「まだ、相変わらず、
"征佐"を探して
らっしゃるのかしら----?」
「・・・・」
「-------、」
"スッ"
征四郎が何も返事をしないのを見ると、
尤光は妙な顔を浮かべそのまま
ドアから外へと出て行く
「征四郎------、」
「明人------...」
尤光の後を付いていた明人が
征四郎の前で立ち止まる
「何を勘違いしているかは分からんが、
"征佐"を見つけるのは
俺たちが先だ-----。」
「・・・・」
「ククククク...」
明人は、征四郎に向かって嫌らしい笑みを浮かべる
「お前を御代にさせる事は絶対に無い-----」
「・・・・」
「--------、」
明人が征四郎に近寄り、
小声で征四郎の耳元に囁(ささや)きかける
「------車の調子はどうだ...?」
「・・・・!」
わざとらしい笑みを浮かべ
明人は、口の端を上げる
「(っ------)」
「-----どうした...?
征四郎-----?」
「・・・・!」
「せ、征四郎さま-----!」
部屋の隅にいた近藤が明人と
征四郎の間に割って入る
「・・・・っ」
「-----フン」
"パッ パッ"
明人は、征四郎に向かって
見下した様な表情を浮かべると、
近藤に構わず、そのまま言葉を続ける
「・・・今度は、車ではなく、
直接、お前に
何かが起きるかもな-----?」
「------っ!」
「-----おっと」
「征四郎くん!」
「-----あの系図によれば、
どうやら、少しばかり、お前の
"血"は、俺達より濃いようだが----」
「-------っ」
「勘違いするな。
あくまでも、次の叶生野の御代は、
俺、そして、正之、尤光姉さんの内の誰かだ」
「・・・・」
「これから、俺達が向かう鷸原に
お前が来る気なら------」
「・・・どうなるって言うんだ?」
「.....クククククク」
"ザッ"
歪んだ笑みを浮かべると
明人は善波の横を通り抜け、
部屋の外へと出て行く
「あいつ・・・・っ」
「-------落ち着け、征四郎くん」
「・・・・っ」
「あら、征四郎------。」
「------雅...」
窓の側に立っていた雅が
征四郎の元へ向かって歩いてくる
「ずいぶん、明人兄さんと、
派手にやってたみたい------」
「・・・・」
"スッ"
雅は、懐から煙草を取り出す
「あなたちも、あの、
ダムにある村、"鴇与"の集落へ
行ったのでしょう-----?」
「・・・・」
"カチッ"
雅がタバコを口に咥(くわ)えると
脇にいた男がスーツのポケットから
ライターを取り出し、火を点ける
「あの村の中で、私は、
尚佐お祖父さま、
"鴇与"家の系図を見つけた------」
「・・・その系図には、何と書かれていたんだ?」
自分から、あのダムの村で見つけた
系図の事を話しだした雅に、
征四郎は戸惑いながら口を開く
"フゥゥウウウウウウウ..."
「・・・・」
雅が口から白い煙を吐き出すと、
それが、部屋の天井に向かって伸びていく
「征四郎-----、いえ、兄さん」
「兄さん??」
「な、何を言ってるんだ?」
「...あの系図には尚佐お祖父さまが
鴇与家である事------、
そして、征四郎----いえ、兄さん----
あなたが、善波、そして私と共に
尚佐お祖父さまの実の子であると言う事が
書かれていた-----」
「(---------?)」
「兄さん....」
雅が、一歩征四郎の元へ近づいてくる
「さっき、尤光姉さん達には、
"征佐"の事を喋ったけど...」
「その系図には、征佐の事も書かれてたのか?」
「------そう。
・・・
さっき、尤光姉さんたちには、
征佐は、鷸原の集落にいると言ったけど
あれは、"嘘"-------。」
「嘘-----?」
「アナタが尚佐お祖父様の子だって事は
あの、鷺代の征次からも
聞かされてるんでしょう-----?」
「・・・・・」
どこで聞きつけたのかは分からないが
自分と征次の繋がりを知っている雅に、
征四郎は嫌悪感の様な物を抱く
「征次の話では、次の御代は
"征四郎"、いえ、兄さん、
アナタ--------、」
「・・・・」
「私は、尤光姉さんではなく、
次の御代は、征四郎-----。
アナタになって欲しいの。」
「・・・・!」