おめぇ握り寿司が食いてえ

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「血の家」 六十七雫

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「な、ナニ? ソレ-----」

 

「ピアノ線か------?」

 

「・・・・」

 

目の前に張られたピアノ線を見て

 

戸惑っている二人を見て征四郎が口を開く

 

「今までの、尤光兄妹の行動----

 

 そして、雅のさっきの妙な態度を考えれば

 

  この館に罠があるかも知れないと言う事は、

 

  ある程度想像が付く------」

 

「ゆ、尤光達が?」

 

「な、ナニよ、ソレ?」

 

善波、そしてジャンは征四郎の言葉を聞いて

 

根が張った棒の様にその場に立ち尽くす

 

「先程の、近藤から渡された紙-----、」

 

「・・・これの事か?」

 

ズボンのポケットから善波が茶色い封筒を取り出す

 

"雅 尤光 鳰部"

 

「・・・・この、封筒の紙に書かれた

 

 言葉から考えれば、

 

  おそらく、この紙を書いた人物は

 

  俺達にあの二人の事を

 

 警告してたんじゃないか?」

 

「・・・じゃあ、このピアノ線は

 

  尤光たちがやったって言うのか?」

 

「(・・・・)」

 

善波の言葉を聞いていないのか、征四郎は

 

地面にしゃがみ込み

 

手に取ったピアノ線を見ている

 

「-----尤光たちは、鷸原の方に

 

 向かったんじゃないのか?」

 

「・・・・」

 

先程、二瀬川の橋を越えて自分達とは反対側、

 

東側の鷸原の集落の方に向かって

 

尤光たちは歩いて行った筈だ

 

「向こうに行った筈のあいつらが

 

  ここに、罠を仕掛けたって事か?」

 

「-----それは分からない。」

 

「・・・だったら、誰がここに

 

 罠を仕掛けたって言うんだ?」

 

「....ククククク」

 

「セイシロー....」

 

「(この罠が、尤光たちが仕掛けた物-----、

 

  そして、雅は、まだこの先には

 

   立ち寄っていなかった筈だ-------

 

   そうなれば、答えは一つしかない...)」

 

"すでに尤光たちはこの館の近くにいる"

 

「....ククククク」

 

「せ、征四郎くん?」

 

「(となると-------、)」

 

征四郎は、先程自分達に携帯を持っているかどうか

 

念入りに尋ねていた雅の事を思い出す

 

「・・・・」

 

善波が、自分達が歩いて来た方の通路に目を向ける

 

「尤光たちがここに罠を仕掛けてるとしたら...

 

  -----雅も危ないんじゃないか?」

 

「....ククククク」

 

「セイシロウ?」

 

"スッ"

 

座っていた征四郎が立ち上がり、二人を見る

 

「俺達をここに連れて来たのは雅だ

 

 そして、この場には尤光たちが仕掛けた

 

  罠がある-----、

 

  そう考えれば...」

 

「-----雅と尤光たちは

 

 繋がってるって事か?」

 

「-----間違いない」

 

「・・・・っ」

 

「どうしたんだ? 善波さん」

 

善波が、何かに気付いたように

 

自分のアゴに手を当てる

 

「------携帯...」

 

「ケイタイがどうしたネ?」

 

「い、いや、雅は、俺たちの携帯を持って

 

  車の方に戻ってったろ?」

 

「-------!」

 

「この鳰部の集落は、

 

  二瀬川の橋を越えた場所にある

 

  他の土地から切り離された場所だ」

 

「・・・そうなると...」

 

"ダダッ!

 

「せ、征四郎くんっ!?」

 

善波が言葉を終える前に、

 

征四郎が館の入り口の方に向かって走る!

「血の家」 六十六雫

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"コッ コッ コッ コッ....

 

「さっきの雅、何か、

 

  おかしくなかったか----?」

 

征四郎が、自分の少し先、

 

二階の通路を歩く善波に後ろから話し掛ける

 

「ああ? そうか?」

 

「・・・・」

 

「ウォウ」

 

「------ジャン?」

 

"パッ パッ"

 

ジャンは、目の前の通路の壁と壁の間に

 

張っている、蜘蛛の巣を手で払う

 

「お前は背が高いからな....

 

 俺と征四郎くんはそこの蜘蛛の巣には

 

  かからなかったぞ?」

 

「セがタカいのも、

 

  あんまりいいことナイネ...」

 

「("蜘蛛の巣"....)」

 

「こんな所に、人なんているのか...?」

 

「・・・・」

 

"ザッ ザッ ザッ ザッ....

 

「全くネ....」

 

前を歩く善波とジャンは、何か文句を言いながら

 

二階の通路を奥へと向かって進んで行く

 

「(雅、尤光....

 

   !!!)」

 

「ナニ、 また、クモのス-----?」

 

「------止まれ」

 

「?」

 

目の前の蜘蛛の巣を手で払おうとしていたジャンを

 

征四郎が後ろから呼び止める

 

「な、ナニ?」

 

「どうしたんだ? 征四郎くん?」

 

「・・・・」

 

「------下がれ」

 

「・・・・?」

 

"ザッ"

 

ジャンは、征四郎の言葉に無言で

 

足を一歩後ずらさせる

 

「(-------!)」

 

征四郎は、ジャンが手で払おうとしていた

 

キラリと光る、一本の蜘蛛の巣の糸に目を向ける

 

「(こいつは....)」

 

雅、そして、尤光たちの様子------、

 

そして、近藤から渡された茶封筒-----

 

「(・・・・)」

 

征四郎の頭に、ある一つの

 

"勘"の様な物が

 

浮かび上がって来ていた

 

「(クククク...知能の浅い奴らだ-----」

 

鴇与(ときよ)家の三男、征四郎は、

 

薄暗い館の通路の壁と壁の間に

 

張り廻(めぐ)らされたピアノ線を見て

 

それが、叶生野(とおの)家の別の家族、

 

一族の誰かがが仕掛けた

 

罠だと言う事に気付く....

 

「な、何? それ?」

 

「ピアノ線か-------?」

 

「・・・・」

 

征四郎は、自分の目の前に張られた

 

一本のピアノ線を見て

 

それが、尤光たちが仕掛けた罠だと言う事に気付く

 

「(これで、また一歩リード、

 

   って事か....)」

 

征四郎は目の前のピアノ線を

 

指で弾(はじ)きあげる

 

「ククククク....

 

  浅はかな奴らだ....」

「血の家」 六十四雫

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「ここが、"征佐"がいる、

 

  叶生野の家-------、」

 

「・・・・」

 

橋を越えた辺りで車を止め、少し歩くと

 

征四郎たちの目の前に

 

古い、朽ちた、"館"が現れる

 

「ワオ....」

 

「ここに、征佐がいるって事-----?」

 

「そう------」

 

「そう言えば尤光たちがいる

 

  鷸原の集落もここの

 

 すぐ側なんだよな-----?」

 

館の前にいる雅に征四郎が問いかける

 

「ええ-----、

 

  鷸原とこの鳰部の集落は隣同士の集落で

 

  距離的にはほとんど無いわ」

 

「この辺りは二瀬川に囲まれて

 

  ほとんど、土地が無いからな...」

 

善波が、蔦に覆われた館を仰ぎ見る

 

「征四郎くん------」

 

「・・・・」

 

「とりあえず、尤光たちがここに来る前に

 

  さっさと征佐に会った方がいいな...」

 

「あいつらがいる、鷸原には

 

  人はいるのか?」

 

「まあ、多少は人もいるとは思うが...

 

  俺もこの辺りの事はよく分からんが

 

  この様子からすると、

 

  鷸原の方にもあまり人は

 

  住んでいないのかもな」

 

「・・・・」

 

先程橋の前で偶然出会った尤光たちは

 

今、自分達がここにいる事に

 

左程関心を払っていなかった様だ

 

「・・・・」

 

そして今、自分達はいとも容易(たやす)く

 

尤光たちより先にこの征佐がいる

 

館へと辿り着いた...

 

「・・・・」

 

"ピッ"

 

「どうしたんだ・・・?」

 

「いや、」

 

征四郎は、手にしていた携帯を

 

上着のポケットに入れる

 

「あいつら、鷸原に征佐がいないと知ったら

 

  こっちに来るんじゃないか?」

 

「・・・・」

 

鷸原の方から尤光たちがこちらに向かってくれば

 

何か、騒動の様な事になるのは目に見えている

 

「(・・・・)」

 

何か、場にそぐわない様な様子を感じながら

 

征四郎は、目の前の館を仰ぎ見る

 

「(鳰部.....)」

 

「ソレじゃ、ナカ、はいろうヨ------、」

 

「ガチャ」

 

「------待て」

 

「-----ナニ? セイシロウ-----?」

 

館の扉に手を掛けていたジャンを

 

征四郎が呼び止める

 

「・・・何があるか分からない、

 

  気を付けて進んだ方がいい」

 

「・・・・」

 

「ガチャ」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「・・・・」

 

「だいぶ、クラいネ------、」

 

「明かりとか無いの?」

 

"コッ コッ コッ コッ....

 

入り口の扉を開け、館の中へと足を進ませるが

 

館の中は明かり一つなく

 

人がいる様な気配が無い

 

「・・・ズイブン、ひろいネ------」

 

「まあ、御代の息子って言うくらいだから

 

  住んでるところもかなり広いんじゃない?」

 

「(・・・・)」

 

"コッ コッ コッ コッ....

 

「(あの女------、)」

 

"雅"

 

「(あの紙には・・・)」

 

征四郎は、先を歩くジャン、

 

そしてルーシーの後ろに付いて歩いている

 

雅に目を向ける

 

「(さっき近藤から受け取った封筒に入った紙には

 

   "雅 尤光"------、

 

  そして、鳰部とだけ書かれていた....)」

 

近藤から渡された手紙、

 

そして、尤光や雅-------

 

「(--------....)」

 

「ミヤビ、セイスケ、どこにイルか

 

  ワカラナイの-----?」

 

「さあ、私にも少し-------」

 

「(・・・・)」

 

前を歩く雅を見て征四郎の頭に

 

"サングラスの男"

 

の姿が浮かんでくる

 

「(あの男------、)」

 

行く先々に現れては

 

まるで、自分達の行動を手助けをする様に

 

何か、言葉を残していく男。

 

「(さっき手渡された紙もおそらくあの男が

 

  俺たちに置いてったものだ...

 

   今までの奴の行動から考えれば

 

   このサングラスの男は、どう考えても俺達を

 

   "何か"に誘導している------、)」

 

"ガサ"

 

「・・・・」

 

"雅 尤光"

 

征四郎は紙の中に書かれた

 

二人の名前に目を向ける

「血の家」 六十三雫

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"キィィッ"

 

「うおっ、と」

 

「な、何だ?」

 

「ガチャ」

 

叶生野荘の外れの辺り、

 

木でようやく作られた様な二瀬川の橋を越え

 

少ししたところで征四郎たちが乗った

 

リムジンが突然停止する

 

「な、何だ?」

 

「ガチャ」

 

善波、そして征四郎は、後部座席のドアを開け

 

すでに車から降りている雅を見る

 

「-----どうしたんだ?

 

  鳰部にある館は、まだ先だろう?」

 

「・・・これ以上、車は進めないって事?」

 

「どうやら------」

 

善波が、雅に話し掛けると

 

雅はこのリムジンの運転手と思われる

 

自分の部下と何かを話している

 

「あら、これは皆さま------、」

 

「・・・尤光。」

 

「何だ、お前らも、ここまで来たのか----?」

 

「明人....?」

 

征四郎、善波が、橋の前で立っていると

 

少し先の木の陰の後ろに停められた

 

車の中から、尤光、明人、そして正之が降りてくる

 

「・・・何だ? 俺たちの後を追って来たのか?」

 

「・・・・」

 

「------フン、」

 

征四郎が、何も言わないのを見ると

 

明人は興を無くした様に

 

自分達の方の車に向かって行く

 

「な、何でアイツらがここにいるんだ?」

 

「・・・・」

 

善波が、自分の運転手と思われる

 

雅に向かって驚いた表情を浮かべる

 

「ええ、尤光姉さんたちに教えた

 

  鷸原の集落は、

 

  この二瀬川の橋を越えた東側-----、」

 

「・・・・」

 

「そして、私たちが今から向かう

 

  鳰部の集落は、橋を越えた反対、

 

  西側-----....」

 

「す、すぐ隣り同士の集落って事か?」

 

「そう------、」

 

雅は、車からどこか別の方に向かって

 

歩いて行く尤光兄妹に目を向けている

 

「お前、尤光たちには

 

  別の場所を教えたと

 

 言ってなかったか...?」

 

「-----ええ、だから

 

  征佐のいる鳰部ではなく、

 

  その隣の鷸原の事を教えたのだけど...」

 

「こ、こんな近い場所をか?」

 

「-------」

 

雅が、冷淡な表情を浮かべる

 

「尤光姉さんたちに、別の場所を教えると言っても

 

  あまり場違いな場所を教えても

 

  すぐに感づかれるでしょう-----?」

 

「・・・・」

 

「だから、征佐が本当にいる

 

  この鳰部の集落からある程度近い

 

  鷸原の場所を尤光姉さん達には

 

 教えたんだけど-----」

 

「もう少し別の場所でも良かったんじゃないか?」

 

「-----とにかく、姉さんたちは

 

  鷸原の方に向かったんだから

 

  私たちは、ただ、鳰部の館の中にいる

 

  征佐の所に向かえばいい------」

 

「・・・」

 

善波は、遠目を歩いて行く尤光たちを見ながら

 

自分達の先の視界に目を向ける

 

「その、征佐がいる、

 

 "館"ってのはここから近いのか?」

 

「-----兄さん。」

 

「どうしたんだ?」

 

「ここから先は、どうやら歩くしかないみたい」

 

「ああ、このデカい車じゃ

 

  これ以上先には進めんだろ。」

 

「・・・私も、鳰部の集落には入った事が無いから

 

  道がこんなに狭くなってるとは

 

 思わなかったんだけど...」

 

「・・・・」

 

橋を越えた先の西側の場所に目を向けると、

 

その先は道がほとんど無くなっていて

 

確かに今自分達が乗って来たリムジンでは

 

これ以上進めそうにない。

 

「ここから近い場所に

 

  その、征佐が住んでる館があるんだよな?」

 

善波が、雅を見る

 

「ナニ? ココから、アルクの?」

 

「冗談でしょ?」

 

「・・・うっかりしてたわ...」

 

ジャン、ルーシーの言葉に

 

雅は、意外そうな顔つきを浮かべている

 

「----まあいい、歩きだか何だか知らんが

 

  鳰部はもうすぐだ。」

 

「・・・・」

 

「とりあえず俺たちはこのまま進んで、

 

  さっさとその、"征佐"に

 

 会いに行こうじゃないか?」

 

「・・・そうね」

 

「(尤光....?)」

 

"ザッ ザッ ザッ ザッ..."

 

「どうしたんだ-----

 

  征四郎くん?」

 

「いや....」

 

「尤光たちの事を心配してるのか?」

 

「・・・・」

 

「見た所、あいつらは

 

  鷸原の方に向かってったみたいだから

 

  とりあえずは平気なんじゃないか?」

 

「・・・・」

 

「これで、一歩リードってとこだな」

 

「(・・・・)」

 

「館は、ここからすぐだから

 

  少し歩けばすぐ着くと思う」

 

「・・・・」

 

"ザッ ザッ ザッ ザッ-----、

 

「(-------、)」

 

征四郎は、一人で先を歩いて行く

 

雅の後姿を見ながら

 

先程叶生野の屋敷でした話を思い返す

 

"それじゃ、私たちは、鷸原-----、"

 

"間違っても俺たちの後を追おうなどと

 

 思わない事だ------"

 

「(明人のあの口振りだとやつら三人は

 

   雅たちと一緒に、俺たちがここに来る事を

 

  知ってたんじゃないか...?)」

 

「ああ、そこ、少し気を付けて」

 

「・・・ほとんど道がないじゃないか」

 

「この辺りは、普段はあまり

 

 人もいないですから-----」

 

「(・・・・)」

 

征四郎は、先を歩きながら何か話をしている

 

雅、そして善波を注意深く見る

 

「(だが、雅は俺達を

 

   この尤光兄妹がいる

 

   この場所まで連れて来た....)」

 

「....ククククク」

 

「・・・・?

 

 ドウしたノ? セイシロウ?」

 

「・・・・」

 

「もう少しみたい。」

 

「"征佐"か-------」

「血の家」 六十二雫

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「征四郎くんはどうなんだ-----?」

 

「"どう"とは-----、」

 

叶生野の屋敷の駐車場、

 

雅が手配したリムジンが来るのを待っていると、

 

横にいた善波が、征四郎に話し掛けてくる

 

「征次の話だと、どうやら、

 

  ウチの親父は、君の事を次の御代に

 

 推すつもりだったらしいが...」

 

「・・・・」

 

余り確かとも言えない、善波の言葉に

 

征四郎の言葉が詰まる

 

「君が、御代にならなかったとしたら

 

  次の御代にはおそらく、

 

 尤光、正之、明人の内の

 

 誰かがなる事になるだろう-----」

 

「・・・・」

 

元々、征四郎には

 

叶生野の本流から遠い事もあってか

 

御代の事には、考えすら及んでいなかった

 

「・・・・」

 

「今まで俺たちが見て来たとおり

 

  あの三人の内の誰かが

 

 御代になると言うのは-----」

 

「・・・・」

 

確かに、善波の言う通り

 

あの手段を選ばないような三人が

 

次の御代になる事を考えれば...

 

「(御代か-----)」

 

「少し、腹を決めて考えた方がいいんじゃないか」

 

「・・・・」

 

「善波さま------」

 

"ブロロロロロロロロ..."

 

すでにエンジンがかかっている雅の用意した

 

リムジンの前で立っている善波、そして征四郎の元に

 

執事の近藤がやってくる

 

「些(いささ)か、まだ、鳰部の村に向かうには

 

  やり残したことが

 

  あるのではないかと...」

 

「何だ?」

 

「いえ-----、尚佐---」

 

「善波兄さんっ!?」

 

「・・・・」

 

雅が二人の話を割る様に

 

善波に向かって大声を上げる

 

「もう出れるから、早く、車に乗って!?」

 

「・・・・」

 

「(・・・・?)」

 

「ああ、そういう訳だから、

 

  近藤。俺たちは今から雅と一緒に

 

 鳰部の集落に-----」

 

"ザッ"

 

「・・・何だ?」

 

車の中に乗り込もうとした善波の前に

 

近藤が立ち塞がる

 

「葬儀も、二日後に控えております-----

 

  各種段取りの決済も御座います故、

 

  善波さまはまずそちらの方を

 

 お済ませになってからでないと------」

 

「兄さんっ!?」

 

「あ、ああ、すぐ行く

 

  ・・・

 

  そういう訳だ、近藤。

 

  俺たちは、雅と一緒に今から

 

 鳰部の集落に行かなければならない」

 

「・・・・」

 

近藤は、車の周りに控えている

 

別の執事達を見る

 

「-----それでは...」

 

"スッ"

 

「?」

 

近藤は、懐から一枚の封筒を取り出す

 

「先程、どうやらまた、

 

  この封筒が屋敷の郵便受けに

 

 挟まれていた様です...」

 

「また、アイツか?」

 

「・・・・」

 

善波が征四郎の顔を見る

 

「取り留めて、宛名なども

 

 書かれておりませんでしたので

 

 勝手ながら中身を

 

 確認させて頂きましたが-----、」

 

「何て書かれていたんだ?」

 

「・・・・」

 

"スッ"

 

「な、何だ?」

 

「何が書かれているかは、

 

  お二人が道中確認なさった方が

 

 宜しいでしょう-----」

 

「・・・・」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「とりあえず尤光たちより

 

  俺たちの方が"征佐"、

 

 に近付いてるって事なんだよな?」

 

「ええ-----」

 

運転席の隣に座っていた雅が

 

リムジンの中程の席に座っている善波に

 

車内スピーカーで答える

 

「一応、これで俺たちが尤光たちに

 

 出し抜かれるって事は無さそうだが...」

 

"ドス"

 

善波は、リムジンのシートに深く背中を預ける

 

「・・・・」

 

「まだ、迷ってるのか?」

 

「いや------、」

 

浮かない表情をしている征四郎に向かって

 

善波が口を開く

 

「どの道、御代になるのは、

 

  君か、尤光兄妹の誰かだろう。

 

  中途半端にこの御代の話に加わっても

 

  あまり、いい結果には

 

 ならないんじゃないのか?」

 

「・・・・」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「それじゃあ、尤光兄妹は

 

  今、全く別の場所を回ってるのか?」

 

「-----ええ。」

 

雅が、後部座席に座っている

 

征四郎の言葉に答える

 

「(・・・・)」

 

今までの尤光兄妹のやり取り...

 

征次の話...

 

「(尤光兄妹は、尚佐御大の子では無く

 

   俺が、尚佐の息子...?)」

 

そして、ダムの村、鴇与の村での出来事...

 

「(御代か-------)」

 

征四郎の頭に"御代"の文字が張り付いてくる

 

「(とにかく、俺が御代になるにしろ

 

   ならないにしろ、尤光たちより先に

 

   "征佐"を見つけるべきだ------)」

 

"ブロロロロロロロロロロ...."

 

「その、鳰部の村ってのはどの辺りなんだ?」

 

十人以上は乗れそうな

 

リムジンの最後部の座席で

 

征四郎が横に座っている善波に目を向ける

 

「ああ-----、ちょっと待て。

 

  ・・・

 

  鳰部の集落ってのは、

 

  この叶生野から一時間ほど車を走らせた場所、

 

  二瀬川を越えた、中州にある場所だな・・・」

 

「一時間か・・・」

 

「まあ、それじゃ、この辺りを少し探しても、

 

  征佐の情報が見つからんわけだな」

 

「・・・・」

 

「-----どうしたんだ?」

 

"雅 尤光 鳰部"

 

"ガサ"

 

「さっき、近藤から渡された封筒か?」

 

「ああ・・・」

 

「その封筒には、雅と尤光の名前、

 

  そして、征佐がいる鳰部の事が

 

  書かれてたみたいだよな...」

 

「(・・・・)」

 

征四郎は、運転席の方に目を向ける

 

「ハロー セイシロー、 ちょうしどうネ」

 

「・・・・」

 

「ちょっと、アンタ!」

 

リムジンの真ん中辺りの座席を見ると

 

そこにはジャン、そしてルーシーの姿が見える

 

「あいつらも一緒か」

 

「セイシロー 

 

 "ヒツジ"! "ヒツジ"がいるヨ!」

 

「-----羊くらい、どこだっているじゃない」

 

「・・・・・」

 

征四郎たちを乗せたリムジンが

 

鳰部に向かって叶生野の村落を走って行く

「血の家」 六十一雫

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「さあ、兄さん-----?」

 

「・・・・!」

 

「おい、征四郎くん。」

 

「・・・?」

 

「ちょっと」

 

「・・・・」

 

征四郎が、雅の言葉に押し黙っていると

 

隣にいた善波が征四郎に小声で話し掛ける

 

「少し、席を外すぞ-----?」

 

「構わないわ------」

 

「・・・・」

 

善波は、雅を一瞥すると

 

征四郎を、雅たちから少し離れた

 

部屋の隅の方に呼び寄せる

 

「どうしたんだ・・・?」

 

「雅の話------、」

 

善波が、少し離れた場所にいる雅を見る

 

「雅の話は、俺たちが鷺代の家で

 

  征次から聞いた話と大分、

 

  食い違っていないか------?」

 

「・・・・」

 

確かに、雅の話には自分達が征次から聞いた話、

 

そして、ダムの村、鴇与の村で

 

集めた情報とはかなり矛盾した所がある

 

「だったら、どうするんだ----」

 

「あら、男性二人が集まって

 

  何か困りごとでもあるのかしら?」

 

「・・・!」

 

雅が、離れた場所から小声で話し合っている

 

征四郎、そして善波に向かって、

 

薄い笑みを浮かべる

 

「何も、考える事は

 

 無いんじゃないかしら-----?

 

  やる事は、もう

 

 決まっているのでは-----?」

 

「・・・すぐそっちに行くから、待ってろ」

 

「・・・・」

 

善波が、征四郎の方に向き直る

 

「事実がどういう事になってるかは

 

 よく分からんが、

 

  ここは、雅の言う通り俺達も

 

  鳰部の館に行ってみるべきじゃないか?」

 

「・・・・」

 

「事実が何にしろ、"征佐"が、

 

  その、鳰部の集落にいれば、

 

  それはそれで、雅の話にも

 

  信憑性(しんぴょうせい)が出てくる」

 

「-----征佐がいなかったら?」

 

「・・・その時はその時で、

 

  俺たちが征次から聞いた話が

 

  正しかったって事になる。」

 

「・・・・」

 

「どちらにしろ、征次の話が正しかろうが、

 

 雅の話が正しかろうが、

 

  事の真偽の確かめ様が無い以上、

 

  ここは、雅と一緒に

 

  鳰部の村に行ってみるってのはどうだ?」

 

「-----まず、征次にこの話の

 

  確認をしてもいいとは思うが...」

 

「・・・・」

 

善波が考え込んだ様な表情を見せる

 

「・・・とりあえず、まずは、雅と一緒に

 

  鳰部の集落に行って、

 

  征次の所へはその後に

 

 顔を出しても問題ないんじゃないか?」

 

「(-------、)」

 

征四郎が、善波の言葉に何も返事を返さないと

 

善波はそれが返答だと思ったのか、

 

雅の方に向かって歩いて行く

 

「-----よし。」

 

「あら、男性の集(つど)いは、

 

 終わったのかしら----?」

 

「・・・・・」

 

皮肉なのか何なのかは分からないが

 

軽口を叩いている雅に向かって、

 

善波が歩み寄る

 

「とりあえず、俺達も、その-----

 

  鳰部の集落に、

 

 お前と一緒に行くことにした。」

 

「その方がいいわ-----。」

 

"スッ"

 

雅は、隣に立っていた

 

スーツを着た男に向かってアゴを傾ける

 

「すでに、車の方は

 

 手配してあります------」

 

「・・・・」

 

「外の、ガレージに車を止めていますので、

 

  お二人は、私の後に

 

 付いてきて下さい-----、」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

征四郎、善波は、顔を見合わせ

 

スタスタと素っ気なく

 

先を歩いて行く雅の後を追って行く

「血の家」 六十雫

f:id:sevennovels:20211207073330j:plain

「征佐は確かに存在する-----」

 

「私も、兄さん達と一緒に、

 

  鳰部の館に行って

 

  征佐と会うつもり----」

 

「鳰部? さっき尤光たちには、

 

  別の場所を教えていなかったか----?」

 

「だから、あれは嘘-----。

 

 そうでもしないと、

 

  姉さんたちが、御代を諦めてくれそうに

 

  ないでしょ-----?」

 

「・・・・」

 

「(この話------...)」

 

雅から手渡された書類に目を通しながら

 

征四郎は神代の集落で征次に聞いた話を思い返す

 

「(征次の話では、尚佐御大は

 

   鴇与の村の出身で、

 

   俺は、尚佐御大の

 

  息子だと言っていたが...)」

 

"ガサ"

 

「(・・・・)」

 

だが、今征四郎が雅から渡された系図を見ると、

 

尚佐は鴇与家の人間でも何でも無く、

 

そして、征次には聞かされなかった

 

征佐の存在が浮かび上がってくる

 

「------兄さん」

 

「なんだ、雅-----、」

 

「色々、思う所があるのでしょうけど、

 

  この系図に書かれている通り、

 

  私たちは、血を分けた実の兄妹なの----」

 

「・・・・」

 

「私たちは、兄妹として、

 

  お互い、助け合い

 

  この叶生野の家を盛り立てて

 

 行かなければならない-----」

 

「(・・・・)」

 

一見最もらしい雅の言葉に

 

征四郎が戸惑っていると、

 

雅は、系図の紙を征四郎の前に差し出しながら

 

無表情で征四郎を見ている

 

「さぁ------。 兄さん-----?

 

  行きましょう-----?」

 

「(-------...)」

「血の家」 五十九雫

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「じゃあ、お前は俺を

 

  御代に推すって事なのか-----?」

 

「ええ-----、 そう------、」

 

「(コイツ-----、)」

 

「-----どうしたの、兄さん------?」

 

「(・・・・)」

 

征四郎が雅を見ると、雅は

 

冷え切った笑顔を浮かべている

 

「(-----"コイツ"...)」

 

先程まで、自分、そして

 

尤光たちを騙していた相手だ。

 

それが手の平を返したように

 

今は、自分が御代になる事を

 

後押しすると言ってきている

 

「("信用"できるのか------)」

 

「すでに、征佐のいる鳰部の集落に、

 

  私の部下が車を手配しています------」

 

「鳰部・・・」

 

「鳰部だと?」

 

「・・・・?」

 

雅の言葉に、善波が疑った様な顔付きを浮かべる

 

「あんな、誰も住んでいない様な場所に

 

  "征佐"はいるってのか?」

 

「・・・・」

 

"ガサ"

 

雅はテーブルの上に置かれていた、

 

ダムの村、鴇与の村で民家から拾ってきた

 

"系図"を征四郎、そして善波の前に差し出す

 

「-----ほら、これ...」

 

「どれ。」

 

「・・・・」

 

雅が差し出した系図を善波が覗き見る

 

「左次郎...征和...

 

  ああ、尚佐の祖父さんはここか...」

 

「-----その下を見てみて」

 

「・・・・・」

 

"征佐"

 

「ああ、確かに、ウチの親父の下に

 

  俺たちの名前、そして、

 

  この、征佐の名前が書きこまれてるな」

 

「・・・本当か?」

 

"ガサ"

 

征四郎は、善波が持っていた系図を手に取る

 

「(・・・

 

   尚佐の子、"征佐"...)」

 

「そして、こっちの書類には

 

  その征佐の事が書かれていたわ...」

 

"ガサッ"

 

雅は、もう一枚の紙を取り出す

 

「------何だって、その征佐は

 

  わざわざこの叶生野の屋敷から離れた

 

  鳰部の集落何て場所に住んでるんだ?」

 

「-----どうやら...」

 

「・・・・・」

 

雅が手にしていた書類をめくる

 

「この、征佐は、

 

  私たち、尚佐のお祖父さまの実子より

 

  早くに生まれた様だけど...」

 

「じゃあ、俺たちの兄貴って事になるのか?」

 

"パラ....

 

「どうやら、その様ね-----。

 

  だけど、この"征佐"は

 

  生まれつき体が良くなくて、

 

  それを不安に思った尚佐のお祖父さま、

 

 そしてお祖母さまが、この征佐を

 

 鳰部の村にある、人目の付かない

 

  館の中に住まわせる事に

 

 したらしいの-----」

 

「・・・?」

 

「どうされたの------?」

 

「・・・・」

 

雅が言っている事がよく分からない。

 

「(鳰部-----?)」

 

征次の話によれば次の御代になるのは自分で、

 

征佐の話などまるで話に出て来ていなかった

 

「とにかく-------」

「血の家」 五十八雫

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「じゃ、じゃあ、鷸原の集落って事だな?」

 

「------ええ」

 

兄・正之の言葉に、雅は

 

氷の様な冷えた笑みを浮かべる

 

「よ、よし、じゃあ、そこに行くぞ」

 

「------ああ」

 

"ドタッ ドタッ ドタッ ドタッ...."

 

尤光、正之、明人は雅の言葉を聞くと

 

慌てた素振りで部屋から出て行こうとする

 

「あら、征四郎さん-----?」

 

「・・・・」

 

「まだ、相変わらず、

 

  "征佐"を探して

 

  らっしゃるのかしら----?」

 

「・・・・」

 

「-------、」

 

"スッ"

 

征四郎が何も返事をしないのを見ると、

 

尤光は妙な顔を浮かべそのまま

 

ドアから外へと出て行く

 

「征四郎------、」

 

「明人------...」

 

尤光の後を付いていた明人が

 

征四郎の前で立ち止まる

 

「何を勘違いしているかは分からんが、

 

  "征佐"を見つけるのは

 

 俺たちが先だ-----。」

 

「・・・・」

 

「ククククク...」

 

明人は、征四郎に向かって嫌らしい笑みを浮かべる

 

「お前を御代にさせる事は絶対に無い-----」

 

「・・・・」

 

「--------、」

 

明人が征四郎に近寄り、

 

小声で征四郎の耳元に囁(ささや)きかける

 

「------車の調子はどうだ...?」

 

「・・・・!」

 

わざとらしい笑みを浮かべ

 

明人は、口の端を上げる

 

「(っ------)」

 

「-----どうした...?

 

  征四郎-----?」

 

「・・・・!」

 

「せ、征四郎さま-----!」

 

部屋の隅にいた近藤が明人と

 

征四郎の間に割って入る

 

「・・・・っ」

 

「-----フン」

 

"パッ パッ"

 

明人は、征四郎に向かって

 

見下した様な表情を浮かべると、

 

近藤に構わず、そのまま言葉を続ける

 

「・・・今度は、車ではなく、

 

  直接、お前に

 

 何かが起きるかもな-----?」

 

「------っ!」

 

「-----おっと」

 

「征四郎くん!」

 

「-----あの系図によれば、

 

  どうやら、少しばかり、お前の

 

  "血"は、俺達より濃いようだが----」

 

「-------っ」

 

「勘違いするな。 

 

  あくまでも、次の叶生野の御代は、

 

  俺、そして、正之、尤光姉さんの内の誰かだ」

 

「・・・・」

 

「これから、俺達が向かう鷸原に

 

  お前が来る気なら------」

 

「・・・どうなるって言うんだ?」

 

「.....クククククク」

 

"ザッ"

 

歪んだ笑みを浮かべると

 

明人は善波の横を通り抜け、

 

部屋の外へと出て行く

 

「あいつ・・・・っ」

 

「-------落ち着け、征四郎くん」

 

「・・・・っ」

 

「あら、征四郎------。」

 

「------雅...」

 

窓の側に立っていた雅が

 

征四郎の元へ向かって歩いてくる

 

「ずいぶん、明人兄さんと、

 

  派手にやってたみたい------」

 

「・・・・」

 

"スッ"

 

雅は、懐から煙草を取り出す

 

「あなたちも、あの、

 

  ダムにある村、"鴇与"の集落へ

 

 行ったのでしょう-----?」

 

「・・・・」

 

"カチッ"

 

雅がタバコを口に咥(くわ)えると

 

脇にいた男がスーツのポケットから

 

ライターを取り出し、火を点ける

 

「あの村の中で、私は、

 

  尚佐お祖父さま、

 

  "鴇与"家の系図を見つけた------」

 

「・・・その系図には、何と書かれていたんだ?」

 

自分から、あのダムの村で見つけた

 

系図の事を話しだした雅に、

 

征四郎は戸惑いながら口を開く

 

"フゥゥウウウウウウウ..."

 

「・・・・」

 

雅が口から白い煙を吐き出すと、

 

それが、部屋の天井に向かって伸びていく

 

「征四郎-----、いえ、兄さん」

 

「兄さん??」

 

「な、何を言ってるんだ?」

 

「...あの系図には尚佐お祖父さまが

 

  鴇与家である事------、

 

  そして、征四郎----いえ、兄さん----

 

  あなたが、善波、そして私と共に

 

  尚佐お祖父さまの実の子であると言う事が

 

  書かれていた-----」

 

「(---------?)」

 

「兄さん....」

 

雅が、一歩征四郎の元へ近づいてくる

 

「さっき、尤光姉さん達には、

 

  "征佐"の事を喋ったけど...」

 

「その系図には、征佐の事も書かれてたのか?」

 

「------そう。

 

  ・・・

 

  さっき、尤光姉さんたちには、

 

  征佐は、鷸原の集落にいると言ったけど

 

  あれは、"嘘"-------。」

 

「嘘-----?」

 

「アナタが尚佐お祖父様の子だって事は

 

 あの、鷺代の征次からも

 

 聞かされてるんでしょう-----?」

 

「・・・・・」

 

どこで聞きつけたのかは分からないが

 

自分と征次の繋がりを知っている雅に、

 

征四郎は嫌悪感の様な物を抱く

 

「征次の話では、次の御代は

 

  "征四郎"、いえ、兄さん、

 

  アナタ--------、」

 

「・・・・」

 

「私は、尤光姉さんではなく、

 

  次の御代は、征四郎-----。

 

  アナタになって欲しいの。」

 

「・・・・!」

「血の家」 五十七雫

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「じゃあ、そこに行けば

 

  "征佐"の手掛かりが

 

  分かるって言うのか!?」

 

「ええ----、この、"系図"にも

 

  書かれているでしょう-----?」

 

「・・・・?」

 

総司と禎三の話を適当に切り上げ

 

征四郎と善波は応接室向かうために

 

屋敷の通路を歩いて行く

 

「た、たしかにこの系図

 

  他の紙に書かれている言葉は間違いなく

 

  "尚佐御大"の物だ------。」

 

「ガチャ」

 

「(雅------、)」

 

「ほ、本当かっ!?」

 

「ええ------、」

 

「・・・・」

 

征四郎が、応接室の扉を開け

 

部屋の中に足を進ませると

 

奥の方のテーブルの前に

 

雅が立っているのが見える

 

「(・・・・)」

 

そして、その雅がいるテーブルを囲む様に

 

尤光、正之、明人がテーブルの椅子に座っている

 

"パサッ"

 

明人は、雅から手渡された手紙を

 

自分達が座っているテーブルの上に置く

 

「まさか、"征佐"が、

 

  鷸原(しぎはら)の

 

 人間だったなんて-----」

 

「ええ、私も驚いた-----」

 

「だが、何だって、雅、

 

  お前はこの事を俺たちに教えるんだ?」

 

座っていた正之が

 

テーブルの前に立っている雅を見る

 

「その系図に書かれてる通り、

 

  私たち、四人は尚佐お祖父さまと

 

  血を分けた、一族では無いの-------」

 

「ど、どうやら、その様ね...」

 

「("系図"------?)」

 

征四郎の頭に、雅がダムの村で

 

早々に村から去っていた事が過る

 

「そう...だから、

 

  私たち、四人が実子でも無いのに

 

  "御代"の座を争うのは

 

  滑稽(こっけい)な

 

 事では無い------?」

 

「・・・・」

 

「だから、お前は俺たちに

 

  征佐の居場所を

 

 教えるって言うのか-----?」

 

明人が、雅を見る

 

「・・・・」

 

雅は何かを悟った様な表情を浮かべ

 

澄まし顔で、座っている三人に目を向ける

 

「私も驚いた------。

 

  まさか私たち叶生野の兄妹が

 

  お祖父さまと血を分けた一族では無く、

 

  その、"征佐"が、本当の、

 

  尚佐お祖父さまの

 

 息子だったなんて------」

 

「・・・確かにそうだな」

 

雅が言葉を続ける

 

「でも、以前に近藤が言ってた通り

 

  次の御代は、

 

 この征佐を補佐する者でしょう-----?」

 

「...確かに遺言書にはそう書かれてたな」

 

「この征佐ってのは

 

  体が不自由とか何かなのか?」

 

「-----そこまでは分からない」

 

「・・・だが、何だってお前が

 

  俺たちにこの事を教えるんだ?」

 

正之が、雅を見る

 

「・・・私たち四人が、

 

  尚佐のお祖父さまの直系の一族でない以上、

 

  次の御代になる権利は、遺言書に書かれていた

 

  全員にある-----、」

 

「・・・・」

 

「御代の継承権が、全員平等にあるとしたら

 

  結局、誰を御代にするかは

 

  次の御代の候補者の話し合い----

 

 最終的には、入れ札みたいな事に

 

 なるんじゃないかしら。」

 

「-----そうなる可能性はあるが...」

 

"スッ"

 

雅が、窓の外に目を向ける

 

「次の御代の候補者を決めるのに、

 

  入れ札の様な形になったとしたら

 

  私は、所詮羽賀野の家の人間------。」

 

「・・・・」

 

尤光たちは何も言わず、雅の話を聞いている

 

「左葉会や、その他の様々な企業を

 

  自分の派閥にしている

 

  尤光姉さん、正之、明人兄さん-----。

 

  三人には、勝ち目がないもの-----。」

 

「だから、御代になるのを諦めて俺たちに

 

 征佐の居場所を

 

 教えるって言うのか-----?」

 

「尤光姉さん-----」

 

雅が窓から、尤光に向かって振り返る

 

「やっぱり、姉さんが、今、

 

  この叶生野家、左葉会、

 

 その他の閥をまとめる者として

 

  一族の御代につくのが相応しい-----、」

 

「雅・・・!」

 

「尤光姉さん、私は、姉さんに

 

 次の御代になって欲しいの-----」

 

「・・・・!」

「血の家」 五十六雫

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「ウチの祖父さんだ------、」

 

「じゃ、じゃあ、

 

  この左側に写っているのが、

 

  安永閥の長、

 

  お前の祖父さんだって言うのか!?」

 

「------ああ...」

 

"パサッ"

 

総司は、握りしめていた写真を

 

テーブルの上に放り投げる

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

しばらく沈黙が続いた後、

 

ある程度今の状況が飲み込めたのか

 

禎三、そして総司は

 

少しずつ今の状況について話し出す

 

「しかし、まさか征四郎くんが

 

  尚佐御大の息子だとは------」

 

「カチャ」

 

"ズズズ..."

 

「どうやら、そうみたいだな----」

 

珈琲のカップに口をつけながら

 

善波はカップ越しに総司を覗き見る

 

「-----そういや、その封筒は何だ?」

 

「-----ああ、」

 

善波は、先程近藤から渡された茶封筒を手に取る

 

「-----どうやら、俺と征四郎くん宛てに

 

  届いたものの様だが------」

 

「何が書かれてるんだ?」

 

「---------、」

 

"ガサッ"

 

「(------...)」

 

封筒の中に紙のような物が入っているのを見て

 

征四郎の頭に、以前、善波の車の前に

 

置かれていた封筒の事が浮かんでくる

 

「-------これは...」

 

"ガサッ"

 

「?」

 

「見てみろ-----、」

 

「・・・・?」

 

封筒の中に入っていた

 

一枚の白い紙を、善波が全員に見える様に

 

テーブルの上に放る

 

「これは・・・」

 

"雅 尤光"

 

「これは-----」

 

「お前の兄妹のだろ?」

 

「-----まあ、そうだろうな...」

 

総司と禎三の言葉に、善波が言葉を返す

 

「ど、どういう意味だ?」

 

「-----サングラスの男...」

 

「-----え。」

 

総司が、気の抜けた様な表情で征四郎を見る

 

「そうでしょう。

 

  この間善波さんの車の前に置かれていた

 

  茶封筒、そして今まで

 

  何回か目にしていたサングラスの男----」

 

"ガサッ"

 

「"コイツ"は、その、

 

  "サングラスの男"が、

 

 俺たちに宛てた物だってのか?」

 

「さ、サングラスの男?」

 

「状況から考えれば、

 

  まず間違いない。」

 

「"雅"-------」

 

"パラ...."

 

善波の手元から零れ落ちた

 

一枚の白い紙に書かれた

 

"雅 尤光"

 

の文字が、葉の様に揺れながら

 

床へと落ちて行く-----

「血の家」 五十五雫

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「せ、征四郎くんが、

 

  尚佐御大の息子だと!?」

 

「尚佐御大が、鴇与家!?」

 

「(--------、)」

 

「ああ、どうやら、

 

  神代の集落で聞いた話が本当だとすると、

 

  どうやら、その様なんだが...」

 

「・・・・」

 

「------!」

 

自分達の向かい側のソファーに座っている

 

善波、そして、征四郎の言葉を聞いて

 

総司、そして禎三が驚いた表情を浮かべる

 

「じゃ、じゃあ、次の、

 

  "御代"

 

  は、征四郎くん------...」

 

禎三が食い入る様に征四郎を見る

 

「き、君って事なのか....?」

 

「・・・・」

 

征四郎は、左手の人差し指で

 

こめかみの辺りをかく

 

「-----分からない。」

 

「わ、分からない?」

 

禎三が、色を失くした様に

 

征四郎を無表情で見る

 

「あくまで、この話は

 

  神代の集落------、

 

 鷺代の家の当主が言ってた話------、」

 

「じゃ、じゃあ、事実じゃないかも

 

 知れないのか?」

 

「-----これを見てくれ」

 

「-----?」

 

善波は、自分の前のテーブルの隅に置かれていた

 

一枚の写真を手に取る

 

「・・・?」

 

そして、それを禎三に手渡すが、

 

禎三は、ただ、写真を見ている

 

「------こいつが、何なんだ?」

 

「そっちの右側の男------、」

 

「・・・・」

 

「右側に写っている男は

 

  ウチの親父、"尚佐"だ」

 

「・・・・!」

 

「大分古い写真だから

 

  気付かんかもしれんが、

 

  どう見ても、それはウチの親父だ」

 

「っ・・・!」

 

「だ、だが、コイツが何なんだ?」

 

総司は慌てた素振りを見せているが、

 

征四郎は静かに、総司に向かって口を開く

 

「この写真は、神代の集落の外れ、

 

  ダムが建つ予定で捨てられた

 

  村の中の民家にあった------」

 

「そ、それが、どうしたんだ?」

 

「征次は、この村の存在を

 

 俺達から隠していた...

 

  そして、俺たちが鷺代の家で征次に

 

  この写真を突きつけて問い詰めたら、

 

  征次は、その、ダムの村の事について

 

  語り出した-------」

 

「・・・・!」

 

"パサッ"

 

禎三が手に持っていた写真をテーブルの上に落とし

 

何か唸(うな)り声の様なものを上げながら

 

座っていたソファーで大きくのけ反る

 

「(・・・・?)」

 

「その、ダムの村は、

 

  鴇与家である、尚佐が生まれた場所-----、

 

  そして、尚佐は叶生野の名前を名乗り、

 

  いつの間にかこの叶生野の

 

 御代になっていた...」

 

「ちょっと待てよ?」

 

「・・・・?」

 

総司が禎三が自分の前に落とした

 

写真に目を向ける

 

「この写真の左側の男」

 

「・・・・」

 

「こいつ....」

 

「何だ、 知ってるのか?」

 

「・・・・!」

 

"ググッ"

 

総司が、写真を力を込めて握りしめる

 

「この男、

 

  守之介の祖父さんじゃないか...?」

 

「守之介? 

 

  お前の祖父さんのかっ!?」

 

「--------、

 

  ま、間違いない...!」

「血の家」 五十四雫

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「【そうか、分かった-----、】」

 

「ガチャ」

 

「何か分かったのか?」

 

「・・・・」

 

善波の部屋のソファーに座りながら

 

携帯を切った征四郎に、善波が視線を向ける

 

「いや、今、実家の征由に

 

  鴇与の系図の確認と、

 

  尚佐御大の事について

 

  それと無く聞いてみたが...」

 

「・・・・」

 

征四郎の口振りから

 

あまり大した事実は無いと察したのか、

 

善波は俯(うつむ)いてテーブルの上に乗っている

 

灰皿を見ている

 

「・・・・」

 

「しかし...」

 

下を向きながら、善波が

 

征四郎に向かって口を開く

 

「もし、征次の話が本当で...

 

  ウチの親父、尚佐が、

 

  征四郎くんの父親だとしたら------、」

 

「・・・・」

 

「一体、どうなってるって言うんだ?

 

  俺たちは、兄弟って事になるのか?」

 

「兄弟-------、」

 

征四郎は、善波の顔を見る

 

「・・・悪い冗談だ」

 

"コン コン"

 

「・・・・?」

 

「近藤で御座います-------、」

 

「ああ、入れ」

 

「ガチャ」

 

「善波!」

 

「------総司か!?」

 

「安永家の総司様、そして、

 

 藤道會の禎三様が

 

 お見えになられました-----」

 

部屋の扉が開くと、近藤と共に

 

安永閥の次期当主である

 

安永 総司、

 

そして、その横に藤堂會の総帥である

 

藤道 仁左衛門の息子の、禎三が部屋に入ってくる

 

「------どうしたんだ?」

 

総司は落ち着いた素振りで、善波に視線を向ける

 

「いや、そろそろ、

 

  尚佐御大の葬儀の日取りが

 

 決まったと聞いてな...」

 

「俺達も、いつまでもこの叶生野荘に

 

 いられる訳でも無いからな」

 

総司の後ろにいた禎三が、征四郎が座っている

 

ソファーの隣に腰を下ろす

 

「ああ、征四郎くん。」

 

「-----どうも。」

 

「それと、こちらが------」

 

"スッ"

 

総司、そしてソファーに座っている

 

禎三の間を抜けて近藤が、

 

善波の元に進み出て一枚の茶色い封筒を手渡す

 

「------何だ、これは?」

 

近藤から手渡された何も書かれていない

 

茶色い封筒を、善波が近藤に向かって差し出す

 

「-----今朝、屋敷の郵便入れに

 

  その封筒がありました------、

 

  どうやら、善波様、そして

 

 征四郎様あての様ですが...」

 

「・・・・?」

 

"善波、征四郎"

 

「ああ、裏側に俺たちの名前が書いてあるな」

 

「何だ? ソイツは?」

 

禎三が、善波が手に持っている茶封筒を見る

 

「-----さあな、分からん。」

 

"パサッ"

 

善波は、投げ捨てる様に封筒を

 

テーブルの上に置くと、そのまま言葉を続ける

 

「-----禎三、そして総司が

 

  ここに来たって事は、

 

  葬儀の日取りはもう決まったのか?」

 

「-------、」

 

近藤は、少し間を置くと

 

部屋の中にいる全員に向かって口を開く

 

「はい--------。

 

  色々、この叶生野荘に集まっている

 

  我が傘下の企業や、関係者の方たちの

 

  事情を察すると、葬儀の日取りは、

 

  2日後。 その日取りが宜しいかと-----」

 

「2日後か-------。」

 

「いががで御座いましょう-------....」

 

「どう思う? 征四郎くん?」

 

善波が、征四郎をチラリと見る

 

「-----どの道、長く日を空けても

 

  この場所に集まっている人間の都合もある。

 

  その辺りが妥当な所でしょう」

 

「そうか...

 

  オイ。 近藤。」

 

「はい-------、」

 

「葬儀の日時は、2日後に決まった。」

 

「--------、」

 

「詳しい仔細は全部お前に任せる。

 

  そっちで段取りを決めといてくれ」

 

「かしこまりました-------、」

 

「ガチャ」

「血の家」 五十三雫

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"ガチャンッ!"

 

「あ、明人------」

 

「ブロロロロロロロロロロ....」

 

明人を乗せた黒塗りの車が、

 

鷺代の家を唸る様なアクセル音を響かせ

 

外へと飛び出していく!

 

「な、何なんだ、アイツは...」

 

「-----善波さん」

 

「-----どうした?」

 

「車....」

 

「車? 車がどうかしたのか?」

 

"スッ"

 

「"パンク"か・・・?」

 

「どうやら、明人がやったみたいだな...」

 

"シュウウウウウウウウウ-------"

 

「あ、明人が?」

 

「-----多分、この感じだと、

 

  今まで俺たちの車に何か細工をしてたのも、

 

 明人-----、いや、多分尤光や正之も

 

  関わってると思うが-----...」

 

"シュウウウウウウウウウ...."

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「一体、何がどうなってるって言うんだ...」

 

「・・・・」

 

鷺代の家で、征次から話を聞いた後、

 

善波と征四郎は征次から車を借り、

 

叶生野の屋敷へと引き返していた

 

「なあ、征四郎くん?」

 

「-----何だ? 善波さん?」

 

何故か、畏(かしこ)まった態度で

 

自分に話し掛けてくる善波に、

 

征四郎は難しい顔を浮かべる

 

「本当に、征次が言ってる話が

 

  本当だとしたら...」

 

「-------...」

 

「君は、ウチの親父の息子で

 

  更に、次の御代は

 

  君になる予定だった------」

 

「・・・・」

 

征四郎が目を細める

 

「さらに、征次はウチの尚佐の親父が

 

  "鴇与家"だと言ってたな...」

 

「・・・・」

 

「どういう事なんだ?」

 

「・・・・・」

 

思わず征四郎は

 

窓の外の景色に目を向ける

 

「雅は、この事を知ってたのか?」

 

「(雅は-------)」

 

"分からない"

 

「それに、明人------...」

 

「(俺が、"御代"------、

 

   尚佐が、"鴇与"------...、

 

   俺が、尚佐の、"息子"------?)」

 

「・・・簡単には信じられんかもしれんが、

 

  征次の話だと、どうやら

 

 その様な事になるみたいだな」

 

「とりあえず------」

 

押し黙っていた征四郎が口を開く

 

「あまりにも話が急すぎて、

 

  よく、事実が何なのか分からない...」

 

「-----そうかも知れん」

 

「征次の話が本当かどうか、一旦

 

 家に連絡を取ってみた方が

 

  いいかも知れないな-----、」

 

「ああ、そうしろ。」